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33.魔鉱石列車での話

 魔鉱石列車とは、魔鉱石と呼ばれる魔石を動力にして動いている乗り物だ。

 その座席にはランクがあって、一番最上位の座席はSランク次にAランクの個室となっている。

 個室はその名の通り、一つの小部屋で、座席が対面式で設置されている形だ。ちなみにわたしは乗ったことがないけどSランクはベッドや書き物机なんかもある部屋らしい。

 そんな個室の座席には、わたしとカール卿、それに護衛が一人座っていた。

 わたしの対面にはカール卿が座っているけど、ご機嫌な感じでずっとわたしを見ているので、そっちに視線を向けづらい。

 結果、座って出発してからずっと窓の外を眺めている。

 流れる景色は新鮮なのでそこそこ楽しめるけど、ずっと見られている視線が気になり過ぎた。

 ちらりとカール卿をみればばっちり視線が合ってしまうので、さらに気まずい。

 向こうはわたしに何か話しかけてくる事もないけど、これなら何か質問されている方がましだ。

 むしろ、こっちから話題を提供するのが筋なのか。

 ぶっちゃけ身分の高い、父親世代の男性との会話なんてどんな話題が正しいのか分からない。

 年齢が離れすぎているから感じる事も違えば、話題も違う。

 閣下ともそう言う意味では年齢が離れすぎているとも言えるけど、店長と魔道具と言う共通の話題があったので会話には困らなかった。


――というか、この人本当に何がしたいんだろう…


 流石にわたしもそこまで鈍感ではない。

 閣下とあそこまで言い合っている感じ的に知り合いで、しかもかなり親しい間柄という事は分かる。

 更に言えば、南の領地の領主、もしくは領主だった人物の可能性があって、店長とも知り合い。

 護衛が付き従うような人物で、名前がカール卿なんて言えば、心当たりがわいてくる。


――カールハイツ・ゼノン・シュトーレン。閣下のお父様…


 南の魔王と知られるやり手の大領主だった人だ。すでに現役は退(しりぞ)いているけど、未だにその影響力は多方面にあると言われていた。

 わたしが顔を見た時に誰かに似ていると既視感があったのはおそらく閣下の父親だったから。

 閣下と容姿は全く似ていないけど、でもどこか似ている。口にするのは難しいけど、なんとなくそう感じた。

 わたしがこの国に来た時にはすでに、領主と貴族の称号を閣下の一番上のお兄様に当たる方が継いでいたので、顔までは知らなかった。そのせいですぐにピンとこなかったのだ。

 だからこそ気を使う。

 わたしを好きだと告白してくれた男性の家族で、しかも父親が目の前にいる。

 そして、返事を保留にしている負い目が、気まずさを加速度的に上げていた。


――結局、どうすればいいのよ!


 閣下の言う通りついてこなければよかったのか。でも、強引過ぎて断る隙を与えられなかった。

 ママの言う通りなら、断ったところで無駄だっただろうけど。


――しかも店長まで送り出してきたし。


 店長がここまでするのは、救える魔道具をそのままにしておけないからだとは思う。

 だけど、教えてほしかった。

 この目の前の人の事を先に。

 口止めされていたようだけど、たぶん店長も面白がっていた。

 どうしようかと色々考えるもいい案は出ない。わたしは考えがまとまらず、目を閉じてこつんと窓に頭を預けた。

 しばらく動かずにいると、膝にそっと何かがかけられる。

 なんだろうと、目を開けると膝に上着がかけられていた。


「ああ、起こしちゃいました?」


 にこにこと微笑みながらもどこか申し訳なさそうな顔に、勘違いさせてしまったのだと分かった。


「あ、いえ…寝ていた訳では……」

「眠いのなら遠慮なく寝てもらってもかまいません。着いたら起こしますから。いえ、むしろ運んであげますよ」


 そこは起こしてほしい。というか、本当にやりそうで怖い。

 今の言葉で、絶対寝れなくなった。


「あの、これ……」


 上着はカール卿の物だ。

 それを返そうとすると、押しとどめられた。


「ちょっと冷えるでしょう?女の子は身体を冷やしたらだめですからね」


 まるで父親のような事を言っている。


「そこまで冷えませんよ、カール卿」

「……」


 わたしが遠慮気味にそういうと、カール卿はにこにこと微笑んだまま反応を返さない。

 不審に思って、わたしは再び問いかける。


「あの?」

「……」

 

 にこにこにこにこ、やはり反応を返さない。


「カー…」

「お父様」

「あ、……」

「お父様」

「えと……」

「お父様」


 何が何でもそう呼ばせたい圧が凄い。

 顔が引きつり、ちらりと護衛の人を見れば、ふいと視線を逸らされた。


――え、ちょっとそちらのご主人様どうにかしてくださいよ!


「お父様だよ!」


 ついに言葉まで砕けた口調になった。なぜそこまで呼ばせたいのか。


――これ、閣下にバレたらまずそうなんだけど…。


「ほら、お父様って言わないと答えないよ」


 南の人間は押しが強いと聞いたことがあった。確かに押しが強くしつこい。


「カール――…お父様……」

「なんだい、クローディエ?」


 がっくりと肩を落とし負けを認めた。

 しかも名前まで呼ばれている。目の前の人物はなんだかとっても楽しそうだ。


「カール……お、父様――…、一体どういうつもりなんでしょうか?」

「何がだい?」


 お父様呼びを容認したところで、色々と吹っ切れた。

 なんだか、色々考えていた自分が馬鹿らしくなる。


「ですから。なんでわたしに構うのかって事です。ちゃんとした…義理とはいえ娘がいらっしゃいますよね?そちらを構ったらいかがですか?」

「うーん、向こうはほら。もう良い大人だしねぇ。孫もなぜかみんな男の子だし。いずれ娘になるなら今も娘同然でしょう?」

「一体何のことを――…」

「クリフォードと付き合ってるんでしょう?南に現在来てるさるお方が事前に教えてくれてね。ちょっと皇都に用事もあったし、やっぱり気になるでしょう?」


 自分の事を隠すのをやめた閣下のお父様がさらりと言う。

 さるお方っていうのは、絶対カーティス殿下だ。間違いない。なんて愉快犯。

 そして、閣下のお父様とはとっても気が合いそうなのも分かった。


「いやー、だってクリフォードが選んだ女性が未成年で、こんなかわいらしいお嬢さんだって知ったら居ても立ってもいられなかったし。ヴァルファーレ君のところに行けば会えるかと思ったらお休みだったし」


 流石に閣下の家(ロードリア)にまで押しかけようとは思っていなかったようだ。


「でも、まさかヴァルファーレ君がお嬢さんを紹介してくれるなんて思ってなくて、なんて幸運なんだって感動したよ」


 そこは感動するところではない。

 そして、勘違いしている。

 わたしと閣下は現時点ではお付き合い(・・・・・)というものをしていない。主に、わたしのせいで。

 ただ、それを口に出すのも躊躇われる。

 絶対理由を聞かれる自信があるからだ。


「ああ、勘違いしないでね。別に二人の関係にけちつける気はないよ。反対したいわけでもないし」

「反対しないんですか?」


 自分で言うのもなんだけど、わたしは未成年だし子供だし、この国の人間じゃない。

 後見人のママは影響力はあるけど、わたし自身の身分はこの国では別に高いわけでもない。

 ご両親からしたら、それなりのところのお嬢様を迎え入れてほしいのではないかと考えたこともある。


「アーデルハイトがどう考えてるかは分からないけど、今時政略結婚とかは流行らないでしょう?それに南は昔から恋愛結婚推奨派だからね」


 アーデルハイトとは閣下のお母様の名前だ。名前を呼ぶくらいには今もまだ交流があるようだ。

 そして、カール卿の言う通り、今時は有力なご子息ご息女も恋愛結婚が多かったりする。

 もちろん家庭の事情(・・・・・)で政略結婚も少なくないけど。

 閣下の兄君二人とも結婚しているけど、どちらもそれなりの家の出身の令嬢だったはずだ。ただ、カール卿の言葉通りなら恋愛結婚ということになる。

 まあ、貴族や上級階級の人間なんて横の繋がりがありそうだし、結局上には上のそういう出会いの場がある。


「正直ね、意外だなとは思ったけど。でも、ちょっと納得もした。いい子そうだなっていうのは分かるからね。それに、いい歳した息子が親の言いなりなんてならないし」


 閣下は仕事や知らない事に関しては人の意見も聞く姿勢があるけど、確かに私生活を父親に口出しされたら嫌がりそうだ。

 むしろ、口出しされる前に黙らせそうに感じた。

 ママが言うには奥方には弱いらしいので、そっちを味方につけそうだ。


「バルシュミーデは嫁の実家を頼るような家柄じゃないし、むしろ派手好きな女性よりは質実剛健な女性の方があってるんだよ。向こうは南と違って質素な感じが美学的なところあるし」


 そうかも知れない。

 邸宅(ロードリア)はなかなか華やかではあったけど、派手とは違う。先祖代々受け継いできた物を大事に使う、そんな感じだ。

 閣下はお金で解決できることはそうすべき、と考えている節があるけど、別に無駄遣いしている訳じゃない。必要だからお金をかける。

 閣下に言わせれば、お金で時間を買えるならそうする、それだけの話だそうだ。


「金遣いの荒い女性だと、アーデルハイトが嫌がりそうだけど、クローディエはそういうところしっかりしてそうだ」


 金遣いが荒いかと問われれば、違うと断言できる。 

 欲しいものは、自分で稼いで頑張って買うタイプだ。

 もちろん、家族が買ってくれるというのなら遠慮はしないけど、限度というものがある事もちゃんと分かっている。


「あ、でも今日は遠慮しないで金遣いの荒い女性になろうね!いやー、でも年頃の娘とデートできるとか嬉しいなぁ!」


 とても楽しそうにしているカール卿。

 だけど、ふと思う。普通の思春期の娘は父親とデートするだろうかと…

 ちなみに、わたしはしない。

 別に父親は嫌いじゃないけど、一緒に買い物は面倒くさいし疲れる。

 そんなものだ。

 夢見てるカール卿に現実を教えてもいいけど、実の娘じゃないし止めておいた。


「ところで、一応聞いておきますけど…、用事をすませるのが目的で、わたしがついでなんですよね?」

「どっちも一番かな?用事が終われば、クローディエを構うのが一番になるしね」


――別にわたしは二の次でいいです。


 たとえ閣下と付き合っていたって、彼氏の父親とデートとか普通に考えたらおかしい。しかも彼氏がいない状況で。

 電話越しの閣下の声を思い出すと、父親に関わってほしくなさそうだった。むしろ、知られたくなかったって感じだった。

 まだ恋人未満の段階で家族が介入してきたら……


――確かに嫌だ。


 少なくともわたしは。

 むしろ、大半の子供は嫌だと思う。

 そして、バレたくないとも考える。


「親切にも教えてくれた方には感謝してるよ。おかげでこうして遊べ……いや、幸せな気持ちになれたよ。末っ子がなかなか結婚しないから心配してたし」


――遊べるって言いたかったんですね。わたしで遊ぶ気なんですね……


 今きっと、カーティス殿下と閣下が言い争ってそうだ。

 むしろ冷たく睨んでいるかも知れない。

 なかなか結婚しない閣下に気をもんでいたのは分かる。分かるけど…、せめてもう少しそっとしといて欲しかった。


「向こうに着いたら、まず着替えを買いに行こう!たぶん数日はかかるだろうからね」


 楽しそうに計画を立てるカール卿に、わたしはこっそりため息を吐いた。


 



お父様が邪魔しに来たよという話…TT


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