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32.客のいる店での話2




「魔道具が壊れるというのは比喩的表現です。実際は使用できなくなるというのが正しい言い方ですね」

 

 使用できなくなる=壊れるという表現はおかしいかも知れないけど、迷宮産魔道具に至っては同じ意味だ。

 なにせどんな理由にしろ使えなくなったものは修理する事すらできずに価値が無くなってしまう事が多い。

 では何が原因で使えなくなるか、それは大体二つの原因になる。

 外装部分が完全に壊れるか、魔力が無くなるかだ。

 外装部分が壊れれば、ほぼ修復は不可能だけど、魔力の枯渇は何とかできる手立てがある。


「カール卿が持ってきたこちらは、魔力の枯渇が間近である事が原因で、出力不足になっているというのが見解です」

 

 そもそも量産型と違うのは、魔力が尽きる事がないという事だ。

 量産型はその中心部に魔石が組み込まれていて、その中に満ちている魔力が無くなれば動かなくなる。

 しかし、迷宮産はちょっと仕組みが違う。

 そもそも、量産型のように魔石の様なものがない。じゃあどう動いているかと言えば、契約者の魔力だと言われている。

 魔法を使える存在は少なくても、人は少なからず魔力を持っている事は分かっている。

 その人が持っている魔力を迷宮産魔道具が吸収し、貯めこみ魔道具が動く。

 つまり、契約者つまり主がいる状態なら、ほぼ魔力不足になる事がない。使い過ぎた場合は異なるが。


「この迷宮産魔道具は、おそらく主である契約者の魔力以上の出力で動き続けた結果、負担が増大し、魔力不足になっていると思います。あまり知られていない事ですが、魔力枯渇状態が続くと、魔道具は自己崩壊で壊れます。完全に」


 つまり、この魔道具を救う方法はしばらく使わないでいる事だ。

 しかし、もうすでに自己崩壊しかけている。

 そこかしこに小さなひびの様なものがあった。


「ここまでくると使用を中止しても遅かれ早かれ自己崩壊する可能性が高いです」


 遅いか早いかの違い。

 ただし、店長も言った通り、わたしならなんとかできる可能性があった。


「ただし、クロエ君の力を借りれば何とかなるかも知れません」

「お嬢さんの?」

「クロエ君は無系統魔法の使い手で、こういった魔道具の修復魔法も使えたりするんです」


 いわゆる回復魔法と呼ばれるものだ。

 教会では寄付を積めばこの回復魔法で傷の手当ても行ってもらえる。

 もちろん、怪我によって金額は違うが。

 そしてこの回復魔法は、迷宮産魔道具にも有効だったりする。回復魔法の中の修復という魔法だ。

 すべての物には意思がある。

 つまり、全てのものにこの回復魔法が有効とも言える。

 実は、わたしもそれを知らなかった。それは店長もだ。

 店長と出会った頃に、やはりこういう魔道具が店長の店に置いてあって、ふと思ったのだ。

 店長も盲点だったとでも言うように、わたしと一緒に検証した結果、出来てしまった。


「ただ、問題点があるんですよね…」

 

 基本的にきちんと契約しない限り登録を上塗りされることがないけど、その主以上の魔力を流し続けると、上塗りされてしまう事は分かっていた。

 わたし以上の魔力持ちなら問題ないけど、おそらく違う。そうなると修復魔法という魔力を流す魔法の性質上、主登録がわたしに移ってしまうという事だのだ


「それは…、私の一存でお願いする事は難しいですね。これは一族の秘宝とも言えるものです。これによってあの領地は水に困ることなく生活できているのですから」

 

 今は貯水量的にしばらく問題ないとのことで、ここまで持ってきたらしいが、出来るだけ早く戻さないといけないようだ。


「もう、この際クロエ君も一緒に行くしかないかも知れませんね。はっきり言って、今魔道具を起動させるのはかなり危険です。クロエ君が側にいれば、クロエ君の身体が放っている余分魔力も多少吸収して回復に宛てられるでしょうし…」


 迷宮産魔道具は、旧世代の研究結果で自然魔力と呼ばれている大気中に溶けている魔力も吸収すると言われている。

 それは他人の魔力も吸収できるという事で。

 わたしは魔力が多いので、体内で留めることの出来ない過剰魔力が外に放たれている。無意識下のことだ。その余剰魔力は大気中に溶け出すように自然魔力に変換されていた。

 この壊れかけの魔道具は今も恐らく少しずつ魔力を蓄えようと吸収しているはずだ。

 一気に吸収するとその場の魔力濃度が下がってしまうのが分かっているかのように、本当に少しずつしか吸収しないけど、わたしの過剰魔力はどんどん吸収しているはずだ。

 たぶん、店長の魔力も。

 カール卿は少し考えて、よしと決断する。


「じゃあ、ちょっと一緒に行きましょう!」


 早速と言わんばかりに決定するカール卿にわたしが慌てて止めた。


「こ、これからですか!?」

「まもなく出発時間ですし、今から皇都中央駅に向かえば十分間に合いますよ」

「皇都中央駅!?」

「はい、急ぐなら魔鉱石列車の方がよっぽど早いし時間短縮になります」


 皇都中央駅とは、このリブラリカ皇国の東西南北を繋ぐ魔鉱石列車の皇都出発駅。

 この魔鉱石列車は馬車とは違い、かなりの速度で国中を横断している。

 その利便性は明らかだけど、コストもかかっているのでなかなか安くはならない。

 わたしも何度か乗ったことあるけど、結構高い。席のランクがあるけど、一番安い車両でも時期によっては数万リラになる。

 ちなみに今は繁忙期で、高めの値段設定だ。

 しかも、今日突然切符を取るのは難しい。

 そう…難しいのだ。本来は。


「大丈夫です、切符ぐらいどうにでもなります」


 いや、そうじゃなくて。


「わたし、何にも持っていません!お金も少ししか…」

「お金の心配はいりませんよ。こちらの都合なのですから、全部私が持ちます!そう、娘にお金をかけることくらいなんてことはないです!」


――まだそのネタ引っ張ってるのか…


 そもそも、誰にも言わずにそんな事はできない。


「大丈夫です!ヴァルファーレ君が連絡してくれますので!そうですよね?」

「彼女のご家族には連絡しますがそれ以外(・・・・)はご自分でお願いします」

「ついでにやってくれてもいいだろうに…」

「嫌ですよ。あとで何を言われるか……」


 目まぐるしく決定していく事に、わたしが口を挟むすきがない。


「あの!」

「クロエ君、大丈夫ですよ。こちらの方は、ちょっと性格はあれかも知れませんが信用はできます。なんでも買ってもらってください。それくらいで破産するような方ではありませんので」


――なんだろう、どこかで聞いたセリフだ…


「そうだとも!お父様が色々買ってあげるから!さあ、行こうか!」


 いや、父親じゃないしという反論は出来ずに、わたしは背を押されて馬車に乗せられた。




*** ***




 なんでこんな事になっているんだろうかと遠い目になる。

 皇都中央駅に来るとここで待っていてくださいと言われ、護衛と言う名の監視者と一緒に待たされた。

 その待っている間にママから連絡が来た。

 

『クロエ?』

「ママ…あの……」


 なんて言っていいのか分からず言葉に詰まったけど、ママは全部知っている様だった。


『ヴァルファーレ様から連絡いただいてね、驚いたわ。突然のことだけど、カール卿とは知り合いだから、大丈夫よ。何かあったらママに言ってくれれば対処するから』

「え、そこは止めるところじゃ……」

『だってあの方、言っても止まらないわよ。それこそ奥方様を引っ張り出さないと。じゃあ、気を付けてね』


 ママにも止められない権力者。

 考えると頭が痛くなる。

 最後にご迷惑おかけしないようにねと軽く言われ短く終わった。

 

――ママ、止めてほしかったよ。わたし…


 がっくりと肩を落とすと、再びコンバイルの呼び出し音が鳴った。

 ママが言い残した事でもあるのかと、何気なく通話ボタンを押すと、焦ったような声が聞こえてきた。

 その声の主に、わたしは一瞬固まる。


『クロエ!今どこにいる!!』


 間違いない。

 その声は閣下で、しかもなぜか怒っているようで…。


『クロエ?聞いてるのか?』

「閣下……」


 第一声に比べると、少し声音が落ち着きわたしに問いかけるように聞いてきた。

 久しぶりにまともに声を聞いた気がした。

 邸宅(ロードリア)ではわたしの方が避けていたから。色々話しかけてきてくれたり、優しくなでてくれたりしたけど、恥ずかしくて顔を上げるのが難しくて。


『クロエ、今どこにいる?そばには誰が?絶対に皇都から出るんじゃない。誰に何を言われようと』

「あの、今皇都中央駅で――」

『皇都中央駅!?』

「えっと、説明が難しいんですけど――…って、ちょ!」


 閣下になんとか事情を説明しようとした矢先に、手からコンバイルが奪い取られた。

 上を見上げればカール卿がわたしのコンバイルで閣下と会話している。


「久しぶりだね、折角なのに会えなくて残念だよ。ああ、そうそう。しょうがないんだよ、ちょっと急ぎで…」

「あの…」

 

 返して欲しくて声をかけるとウインクが返ってきた。


――いや、それ返してください…


「そもそも、そっちは公務で仕事でしょう。仕事に集中して――…え?お嬢さんに代われって?大丈夫、私がきちんとお世話するから――…ああ、うんうん、じゃあね。そろそろ出発だから――」


 一方的とも言える会話を繰り広げ、閣下からの連絡を一方的に切った。

 その直後再び音が鳴り、カール卿がため息を吐きながら、コンバイルの後ろに組み込まれている魔石を抜いた。

 そして、音が止む。


「申し訳ないけど、ちょっとうるさそうだからこれは預かっておきますね」


 そう言ってわたしのコンバイルの組み込まれていた魔石を懐にしまう。

 

「こ、困ります!」

「そうか、初めて行く場所だし迷子になっても連絡手段がないのは困るか…」


 そういう意味じゃない。


――それ、わたしの。一応窃盗になりますよ。

 

 とは流石に言えずにいると、はいっと最新型のコンバイルが渡された。


「あの、これは?」

「やっぱり娘に余計な虫はつけたくないですからね。新しいコンバイルを渡しておきます。私とこっちの彼の連絡先が登録されてますので、困ったら連絡してくださいね」


 遠慮は無用ですよと言われ、どれだけ準備いいんだと変なところに感心した。

 そして、その娘ネタはいい加減終わってほしい。


「それとこれは切符です。今から乗車ですから、一緒に行きましょう。残念なことにSランク客室は取れませんでしたが、個室は取れたのでよしとしましょう。短い間ですしね、問題ないでしょう」


 個室だってかなりいい部屋だった筈。

 しかも、バーバリアは皇都から魔鉱石列車ですぐで、ぶっちゃけ普通の席でもいいくらいだ。

 まあ、カール卿は要人だろうし、警護の兼ね合いで個室の方がいいというのも分かるけど。


「せっかくですから、お祭りでも楽しんでいってください」


 仕事の一環で行くのに楽しめるのか謎だ。

 そもそもそこで発生する諸々のお金が他人の物だと知っていると、使いたくても使えない。


――せめて明日にしてほしかった…


 そんな事を考えため息を吐きながらカール卿について行った。




わちゃわちゃ…


気が向きましたらブックマーク、評価よろしくお願いします。




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