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30.5.閑話での話:琉唯視点

 リアムド・ローレントの件から数日後、俺は(クロエ)に女が好きそうな喫茶店に呼び出された。

 こういう女が好みそうな店に男一人で入る勇気は無かったが、今回は(いもうと)との待ち合わせなのでそこまで気にせず中に入る。

 するとすぐに従業員が近づいてきた。

 かわいい制服を着た女の子だ。

 待ち合わせである事を言うと、すぐにわかったのか案内してくれた。

 クロエはすでに来ていた様で、なぜかわざわざ個室で待ち構えている。


「よお」

「……この間ぶり」


 軽くあいさつすると、クロエは無表情を装いながらもどこかもじもじしていた。

 おやっと思ったが、とりあえずクロエの対面の席に座る。

 すぐに、何を飲むかクロエに聞かれ、流石に酒と言ったら軽蔑した目で見られそうなのでコーヒーと言った。クロエもお茶を注文する。


「一体なんだよ、暇だったけど」


 カーティス殿下は現在公務で南の領土に視察中だ。

 流石に正式な皇室の仕事に同行するのもあれなので、その間暇人のようにふらふらしていた。

 とにかく暇だったのでクロエの呼び出しに応じてはみたものの、あいさつをして以降一切口を開こうとしない。

 わざわざ個室まで別料金払って呼び出すくらいだから、何か重要な話でもあるのかと思ったが違うのだろうかと首を捻る。

 しばらくすると注文した飲み物が届いた。

 そして、従業員が部屋を出て行くと、クロエはなんとも厳重にどこにも話が漏れないように魔法で防音する。


「おい、どうしたんだよ」


 流石に、こんな街中でやり過ぎなような気がした。

 

――そこまで重要な案件ならおふくろのところに呼び出されそうなんだが…。


 とりあえず、運ばれてきたコーヒーを一口飲むと、クロエがようやく覚悟が決まったのかキッと目を吊り上げて、ついでに頬も染めて俺に向かってとんでもない事を聞いてきた。


「あのね、告白の返事ってどうやったら良いと思う?」

「はあ?」


 いや、マジではあ?だった。


――告白っつーと、あれだろ。一般的男女が付き合うとか付き合わないとか…


 一瞬別の告白かと思ったが、クロエの顔を見れば、俺の考えている告白が正しいと教えてくれた。

 頬を染めて恥ずかしそうにしているのに、目が真剣だ。


――つーか…


「つーかさ、それなんで俺なんだよ。学校の女友達とやれよ。恋愛相談(コイバナ)とかなんで兄貴とやんだよ。おかしいだろ。せめておふくろとやれよ」


 俺の言っている事は間違っていない。

 いや、絶対間違ってない。


「だって……友達に話したらあれこれ聞かれるでしょ?」


 そりゃそうだな。

 この年頃の女友達の恋愛事情何て面白おかしく聞くもんだろうな。


「それのどこが問題なんだよ。普通だろ、それ」

「相手が相手なんだもん…」


 ぼそぼそと言うクロエに、やっと相手の事に思い至った。


――この顔、誰が相手だかバレバレだぜ。おふくろ…にはまだ知られてないかもだけど、時間の問題だろうしな…


 確かにクロエが女友達に相談できる相手でもなさそうだ。

 だけど、それでなんで俺なのか疑問だけど。

 しかも告白の返事の仕方とか、なんで俺に聞くんだよ。


「お前バカなの?勉強できるし決断も速いくせに、なんで返事してねーんだよ。別にいいだろ、その場でさ。好きなら付き合えばいいし、嫌いなら断れば。何悩んでんだよ」


 妹のコイバナとかマジで勘弁してほしい。

 しかもお相手があのバルシュミーデ卿だ。どんな顔して妹に告白したのか想像したくない。

 というか、なんでこいつなんだよ、としか思わない。

 確かにクロエは顔が整ってる。それは客観的意見でそう言えた。ただし、いまだに幼さが抜け切れていない子供なのもまた事実だ。二年くらいたって成人する頃になったら、かなりおいしい物件に成長するとは思う。

 なのに、なぜ今現在子供である相手を好きになる?そもそも少女趣味か…とか思ったが、おふくろの店行ってる時点でそういうことでもないらしい。

 ただ、本当にこいつが好きなんだと理解したときは、まあそう言う事もあるかと気楽に考えていた。

 気楽に考えすぎて、クロエがどう反応するかなんて考えてもいなかった。

 

「返事は急がないって言われて、終わっちゃったから言いそびれたっていうか…」

「じゃあ、もう言えよ。色々考えたんだろ。で、タイミング逃したから俺に相談したんだろ。俺から言える事は一つ、すぐに言え。以上終わり!」


 告白の返事を待つ男の立場も考えろよ。

 絶対気をもんでんだろ。同じ男だからこそ分かる事情だ。大体、それは女も同じだろう。告白の返事を待つ身にもなれよと言ったところで、きっと今のクロエには届かない気がした。

 

「だって、閣下は大人なんだよ!簡単に返事できるわけないでしょ!」

「なんでだよ、好きか嫌いか。付き合うか付き合わないか、単純だろ?」


 そこでクロエが口ごもり、もごもごと言い訳の様な事を言い出す。


「…閣下と付き合ったら、それ以上のこと閣下は考えていそうだし…」

「それ以上?結婚ってこと?別にいーじゃん。超甲斐性ありそうだし」

「そ、それもそうだけど、その前の話!」


 その前とは一体…。

 全く理解できていない俺に、クロエが呆れたように話し出す。


「琉唯は女の人と付き合って、どういうことする?」


――なんで俺の恋愛事情に話が飛ぶ?


 クロエが何を言いたいのか分からないまま、とりあえず考える。


――普通付き合うとして、飯食ったり、デートしたり…ああ、それから――…!


 そこまで考えてようやく気付いた。

クロエが何を考えているか。

 とんでもない事にまで飛躍しているクロエに、飲みかけていたコーヒーが気管に入った。


「げほげほげほ!」

「ちょっと、大丈夫?」


――いや、大丈夫?じゃねーよ!お前こそ大丈夫かよ!


「げほ…、お前、何考えてんだよ!どうしたら、そういう思考になるんだよ!」


 そう叫んだあとクロエの顔が赤くなるのを見て、俺の考えは当たりのようだ。


「だって、普通考えるでしょ!?」

「お前ちょっと考えすぎ!飛び過ぎだろ!」

「相手は成人した男の人なんだよ?琉唯はそう言う事望まないの?」


 いや、望むけど!付き合ったらそう言う事込みで付き合いてーと俺は思うし、そういうこと出来る相手としか付き合ったことがない。

 だからと言って、あの男が俺と同じ思考であるとは限らない訳で。

 そもそもカーティス殿下にゆっくり待つとか宣言してたし…、こいつは知らないけど。


「まあ俺の事はともかく、そういう事するのが嫌ならあいつと話せよ。報連相は大事だろ。お前に告白した時点で、覚悟できてんだろきっと」

「そんなの分からないじゃん。それに、怖いし…」

「なんで、そんなに後ろ向きなわけ?クロエが嫌だって言って、それを拒否するようならやめとけよ、そんな男。兄貴だってクロエ大事にしないような男なんて許さないだろ」


 まあ俺もだけど。

 なんだかんだ言ってもクロエは大事な妹だ。


「ちなみに、怖いのはヤる事が?そもそも付き合う事が?」

「ヤ!!ちょっと、そう言う事口に出さないでよ!!」


 じゃあなんて言うんだよ。

 面倒くせーな。


「で、どっちなんだよ?大体、クロエはなんて返事したいの?付き合いたいわけ?」


 話が飛び過ぎて一周回る感じだ。

 結局、どうしたいのかそこだ。


「す、す、好きだけど…、でもわたしでいいのかな…って気持ちもあって…」


 おうおう、顔真っ赤にして。

 でもクロエの言っている事も分かる。

 あの規格外男の横に立って歩ける女、それを今のクロエに望んでも無理だと思う。それなりの教育はされているけど、まだまだ子供だ。

 尻込みするのも分かる。


「別に今すぐ結婚するわけじゃねーし、付き合って合わなかったら別れりゃいいだろ。それが男女の付き合いだし。政略結婚でもあるまいし、気楽に考えればいいだろ。付き合った後の事なんて、そのうちどうにでもなる」


 あれこれ考えたところで、上手くいかない事がたくさんある。

 バルシュミーデ卿だって今はクロエに多くは望んでないだろうし、深く考える方が難しい。


「タイミング逃して言いづらいってのも分かるけど、あんま待たせんなよ」


 諭すように言うと、クロエが素直に頷く。

 自分でも分かっているならそれでよし。


――ああ、そうだ…。


「ところで、お前おふくろの事バルシュミーデ卿に言った?」


 突然の話の転換にクロエがぱちぱちと瞬きする。


「言ってないけど…それ言わなくちゃだめなやつ?」


 俺は思いっきりため息を吐いた。

 付き合う付き合わないはともかくとして、おふくろの事を話してないのは問題な気がした。


「お前、バルシュミーデ卿がおふくろと知り合いだって知ってる?」

「知ってるっていうか、新聞に載ってることあるし、知らない方がおかしくない?」


 なんでケロッと言ってんだ。

 そりゃ、クロエに取ってみればどうでもいい事かも知んねーけど。


「もしかして、わたしが昔の女性事情に嫉妬するとでも思ってる?」

「思ってねーよ」


 クロエは過去は過去として割り切るタイプだ。

 そして、あっちは割り切れないタイプと見た。


「あのよ、男の意見として言わせてもらうけど、付き合う女の実家で女遊びしてたって知ったらものすごく嫌なわけよ、一般的に」


 知ろうと思えば、どういうタイプが好みだったのか、どんな風に遊んでいたのかなど諸々の夜事情がモロバレだ。

 嫌すぎる。


「バルシュミーデ卿だって、過去の事は変えられなくても、知ってるのと知らないのとじゃ覚悟が違うんだよ」

「そういうもの?」

「そういうものだよ」


 理解しろっていうのも難しいけど、少なくとも顔見知りのおふくろは知っていて、バルシュミーデ卿が知らないとでは全く違う。

 それに、バルシュミーデ卿は女を買うだけじゃなく情報を買うためにも利用している。女を買わなくなったからと言って、おふくろと全く会わないわけじゃない。

 早めに知っといた方があの男のためな気がした。


「でもなんか、そっちも言いづらくて…。説明するのも大変だし」


 家庭事情の話だ。

 ちょっと複雑?だからこそ面倒というのもうなずけるが、バルシュミーデ卿だって負けていないくらいおかしな家庭だ。

 きっと理解してもらえる。


「とにかくだ、告白の返事もそうだけど、おふくろの事も言っておけよ。あとでバレる方が問題だろ。あとおふくろにも」


 言わなくてもどうせすぐばれるだろうけど、クロエの口から聞きたいだろう。


「分かった、がんばる」


 そうそう、がんばってくれ。

 近いうちに楽しい話が聞けそうで何よりだ。

 というか、出来れば今後はこういう話は女同士でしてくれ。




もうお分かりだと思いますが、琉唯の母親=クロエのママ=マダム(娼館経営の女傑)

ちなみに、殿下と知り合った時、ママの店で遊んでいた訳ではありません。居候しようとしてただけです。

閣下が勝手に勘違いしてるだけ※閣下視点での話にて


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