28.法廷での話
ご都合主義で進んでいます。
雰囲気で読んでください。
深い突っ込みはなしの方向性で…
この法廷を担当する法廷裁判官が入室すると、場は一気に静まり返る。
少しざわついていた記者たちも、この法廷で行われる内容を聞き漏らさないとでも言うように、真剣な目つきになった。
「今法廷は皇室宝物殿の宝の売買調停である。双方に異存はないか?」
「はい」
「異存はありませんよ」
どちらも異存がないので、そのまま話が進められる。
「まず初めに、リアムド・ローレントからの提出書類より、この品が迷宮産魔道具であり極めて貴重なものである為、相応の値段として二十億リラでの売買を望むとあるが、これは相違ないか?」
二十億リラの言葉に、記者が少しざわめく。
件の品は、この法廷の中央に厳重に管理され置かれているけど、見た目は地味な木箱なのだから、その驚きは分かる。
きっと全員、これにそんな値打ちが?とか考えているに違いない。
「……間違いありません」
少し間が開きリアムドさんが答えた。
「次に、この鑑定人たるクローディエ・リデオンに問う。この値段の根拠とその妥当性を説明し、つまびらかにせよ」
わたしに話が振られるのは聞いていたので、立ち上がる。
もうすでに、その根拠妥当性は提出書類で確認済みだろうけど、もう一度それを書いたわたしに事実確認したいのだと理解した。
「はい。まず、こちらの木箱は迷宮産魔道具であることは間違いありません。なぜそれが言いきれるのか、それを問う事は流石にしませんよね?」
一応の確認だ。
鑑定と言うのはそういものだけど、出来ない人からしてみたら根拠理由が分からない。
時々その鑑定の根拠を聞いてくる人もいる。もちろん、そんな事を理論的に説明するのは無理だ。
「鑑定士とは正式に国からの資格を有するもの。そこを疑う事はない。続けなさい」
「はい、では続けます。この迷宮産魔道具はどういう性能、機能があるのか、そこに今回の値段設定の根拠があります」
迷宮産魔道具は、そもそもそんなに流通が多くない。
性能や機能の点でいえば、量産型魔道具よりはるか上を行くけど、産出量が多くないのが現実だ。
その中でも、現段階で量産型魔道具でさえも再現できない魔道具がいくつかある。この木箱もそのうちの一つだ。
「こちらは亜空間魔道具です。時空魔法の亜空間収納が出来るような魔道具で、小さいながらもその性能は言うまでもありません。亜空間収納の魔道具は現在迷宮産しか存在しない上に、利便性もかなりのものですから、こんな小さいものでもオークションでは二十億リラはくだらないと思います」
そう言うと、傍聴席がざわめく。
カーティス殿下も微かに目を張り、驚いたようだった。
「正直なところ、もっと値段が上がってもおかしくありません。適正価格としましては、一番安く見積もってとなります」
これがわたしの見解だ。
鑑定士はその職業において嘘を言う事は許されていない。
偽りの鑑定は、それが露見したときにかなり厳しい処罰が下される。それだけ信用されなければならない職だ。
「わたしのこの値段に対する根拠説明は以上になります」
わたしの役目は一応ここまでだ。
あくまでも、問題となっている迷宮産魔道具の値段設定の根拠を伝えるだけ。それに対して、誰がどう思おうが関係ない。
そこで、カーティス殿下が挙手をする。発言の許しを求める合図だ。
「皇室側からの質問を許可する」
この法廷の裁判官がそれを許可すると、カーティス殿下が立ち上がり発言する。
「鑑定の結果に不満はないよ。それを証明する手立てはないけど、鑑定の結果は絶対だ。その性能を知った今、それが妥当であるということも理解した」
ただし、とカーティス殿下が続ける。
「我々は、この宝が盗まれたものだと考えている。そして、その犯人はリアムド・ローレントではないかと」
「意義あり!裁判官、本法廷はこの品の売買調停です!犯人を捜す事ではありません」
すかさず、リアムドさん側の弁護人が異議申し立てる。
「売買調停において、盗んだ犯人がそれを買い取れというのはおかしな話ではないかな?」
「裁判長、根拠のない発言は不適格であると抗議します!」
弁護人の反論に、裁判官が頷く。
「皇室側は根拠のない発言を控えるように。もし証拠があると言うのなら、それを提示し発言を行うように」
その言葉に、今度は閣下が挙手をする。
裁判官が発言を許可すると手に持った書類を提出した。
「こちらは宝物殿の立ち入り名簿です。例の品が無くなる数日前に、第一皇子殿下とその側近、さらにそこにいるリアムド・ローレントが宝物殿内に入っております」
同じものがこちら側にも配られて、それを読む。
事細かに調べられたそれには、確かにリアムドさんの名前も書かれていた。そして、びっくりする事に、なんと店長の名前も。
しかし、皇室の宝物殿には簡単に入れるものではない。それは、第一皇子も同じだ。
一体どうやって許可を取ったのか知りたい。
そして、なぜ店長も中に入ったのか気になる。
「リアムド・ローレントは非常に優秀な学生のようです。専門は政治経済学ですが、鑑定の素質もあるようです」
なんと、リアムドさんはそっちの素質持ちらしい。
驚いたようにリアムドさんを見ると、無表情でそれを読んでいた。
「宝物殿に入るには皇帝陛下の許可が必要になります。一体誰が、どうやって許可を得たのかは、皇帝陛下が教えて下さいました」
まさかの皇帝陛下にまで事情聴取をするとは。
まあ、ことは皇室の事だし、カーティス殿下かもしくは皇太子殿下が聞けば簡単に分かる事だけど。
「皇帝陛下に許可を取ったのはヴァルファーレ・ゼノン・ルイージュでした。なんでも優秀な学生に宝物殿の宝を見せて勉強させたいと」
やはりリアムドさんと店長は知り合いだった。
自分が一方的に知っている、という感じだったけど皇室宝物殿に入る許可を皇帝陛下からわざわざもらうくらいには親しい間柄のようだ。
気になったのは、そんな理由で許可が下りるのかという事だけど、どうやら下りたらしい。しかし、一応皇族の監視付きというおまけつき。
普通なら、学友とも言えるカーティス殿下かもしくは皇太子殿下が監視に当たるが、どちらも公務で不在だったため、第一皇子が監視と言う名でついてきたようだ。
もちろん第一皇子の目的は自分が欲した品であるあれを見に来るのが目的でもあったと思う。
「そして、考えたくはないですが、彼なら簡単に宝物殿から何かを誰にも悟られずに盗み出す事も可能であると考えています」
閣下は店長の魔法の存在についても言及してくる。
ここにいる人たちは廃れた魔法の存在に懐疑的なところがあるけど、店長の魔法については肯定的だった。
なにせ、皇都ロザリア高等学院で色々と伝説を作った人だから。
「鑑定は魔法の一種と聞いております。つまり、鑑定という魔法が使えるのならば、他の魔法も使えるのではないかと、ヴァルファーレ・ゼノン・ルイージュから、何らかの方法を聞いていたのではないかと考えております」
色々無理やりな理論ではあるけど、リアムドさんが店長と知り合いなのだとしたら可能性はある。
店長の目的は分からないけど、なんの理由もなく動く人ではない。
ただ、それが不可能に近い事であることもわたしは知っていた。
「我々にはバルシュミーデがこちらに対して言いがかりをつけているように思える!一体、何が言いたい!!」
叫んだのは、傍聴席の第一皇子だ。
第一皇子の名前が上がったことで、記者の視線が彼にも集まり、不快気に叫ぶ。
「傍聴席の方はお静かに願います。一度目は警告ですが、二度目は退室していただく事になります」
裁判官は皇族であろうと、容赦はしない。それゆえに法の番人として国民から信頼されているのだ。
流石にまずいと思ったのか、側近が第一皇子の肩を掴んで抑えた。
「我々はこと魔法という分野に対しては無知です。ですので、憶測ではありますが過去にそういった魔法が存在していたという事実も無視はできません。ヴァルファーレという現代の魔法士とも呼ばれる存在がいる事からも、あらゆる可能性を否定できません」
つまり、そういう魔法が使えないと証明しろという事だ。
それがどれだけ難しい事か、たぶん閣下は分かって言っている。
閣下も言ったけど、現代において魔法という分野に対しては無知な人が多い。むしろ、知らない方が普通だ。
そして古来より、人は奥の手というものを隠している。それは魔法士も一緒で。
しかも、現在ではそれを調べる手立てがないのだから、閣下がいかに無茶な事を言っているのか良く分かる。
――これは世論を味方につけた戦法かな?
疑惑が少しでも残れば、記者はそこに飛びつく。
例えお互い証明する手立てがなくても、その疑惑は残り面白おかしく書き立てくれる事だろう。
綺麗に話をまとめたいのなら、リアムドさん側はきちんと証明しなくてはならない。
非常に難しいけど。
そもそも、なんだって店長がリアムドさんに肩入れとも思える行動をしたのか疑問だった。
しかも、リアムドさんは店長と知り合いだって事を隠したがってる節がある。
そして、このタイミングで姿を消す店長。
怪しすぎる…。
お互い一歩も引かずに論戦になってるけど、結局は水掛け論だ。言った言わない、やったやらない、出来る出来ない。そんな長引きそうなそれに、わたしは挙手して発言の許可を乞う。
裁判官もこの現状に少しでも根拠となる発言がほしいのか、すぐに許可が下りた。
「閣下――いえバルシュミーデ卿は暗に空間魔法の事を疑っているように思えます。むしろそれ以外で持ち出す手立てはないとわたしも考えます。いかがですか?」
閣下はわたしが何を言い出すのか眉を寄せながらも、肯定した。
前提条件が違えば話にならないので、そこは安心する。
「しかし、店長は…いえヴァルファーレ・ゼノン・ルイージュ様は空間魔法は使えません」
きっぱりとわたしが言いきった。
騒然となる周囲に、なぜ分かるのか、その根拠は、と記者の間でもざわめきが起こる。
もちろん裁判官も。
「その根拠となる理由は?」
「そもそも、魔法に対して無知である方に説明して今すぐ納得いただくのは難しいですが、一応文献にも残っている事実からお話しします」
わたしはそこで系統の話、店長が攻撃系魔法に適性がある人間で補助系魔法は使えない事、仮に多少使えたとしても空間魔法は補助系魔法の中でも最上位魔法として認識されているので、店長は絶対に使えない事を話した。
一応廃れてはいるけど今でも魔法学と言う分野は細々と生きているので、専門の学者というのも存在しているし、研究論文もあるので調べればわかる事だ。
「わたしは自分が補助系魔法に才能がある事を理解しています。そのうえでの見解になりますが、リアムド・ローレントさんは補助系魔法が使えません。使えたとしても、攻撃系魔法になります」
これが、わたしが感じたリアムドさんだった。
彼は間違いなく、店長と同じ系統魔法の使い手だと断言出来た。




