27.法務局での話2
完全に歓迎されてないムードの中、琉唯は気にせず中に入って行く。
もちろん、当然のように止められていた。
「貴様、一体何の用だ!」
第一皇子の前に出てきたブルドガスが琉唯に向かって叫ぶ。
琉唯が一体誰の元にいるのかは知られているので、警戒心を露にしている。
「あぁ?妹の付き添いだけど?」
その通りだけど、相手を馬鹿にしたような言い方は止めてほしい。喧嘩しに来たわけじゃないんだから。
わたしは両者の間に割って入るように琉唯の前に出て、とりあえず琉唯を抑える。
「こちらは、確かにわたしの兄です。未成年のわたしは望めば付き添いが可能だったはずです。もし認められないのなら、この場を立ち去っても構いませんが?」
わたしは正直どっちでもいい。
もしそれであっさりいらない子扱いされたら、カーティス殿下の所に行くだけだ。カーティス殿下も歓迎するよって言っていたので。
「ブルドガス、静かにしろ」
「しかし、殿下!」
反抗しようとしたブルドガスをぎろりと一睨みし黙らせる。
皇族の威厳とかなさそうに感じていたけど、主人格としての威厳と格はあるようだ。少なくとも、反抗する部下を黙らせることが出来る位には。
「おいおい、俺ら客人だぜ?このまま突っ立たままにさせる気かよ」
「琉唯」
だから喧嘩しに来たわけではないというのに。こういう煽りは大好きだから困る。
「兄と言うのは本当のことなんだろうな?」
「はい、証明書も持ってます」
カーティス殿下の計らいで登録しておいた。
こういう事務手続きはなかなか面倒だけど、流石権力者。あっと言う間に手配してくれた。
「私はお前たちを信用などしていない。鑑定書を書いたのがお前だから呼んでやっただけだ。せいぜいこの鑑定書が正しい事を証明すればいい」
上から目線だけど、この皇子様は勘違いしている。
確かにこの目の前の皇子が欲しがっていた品なのかも知れないし、皇帝陛下が譲る約束もしているのかも知れない。
ただ、この件に関しては一応の部外者だ。
これは、リアムドさんと皇室とのやり取りなだけであって、その皇室の代表者は第三皇子のカーティス殿下だ。
さも、自分にも口を出す権利があるかのようだけど、法廷内に立てるのは当事者同士とお互いの弁護人、証人者だけなのは知らないのだろうか。
「んじゃ、そっち座ろうぜ」
わたしの手を取ってソファに座らせる。
この国のお偉い皇族に許可も求めず堂々と座ろうとするとは、なんて空気の読めない…、いやわざとだろうけど。
「貴様!」
第一皇子ではなくブルドガスが反応して声をあげた。
「勝手にさせておけ」
ふんと鼻であしらい、グラスに注がれたものを飲んでいた。
入った時から思っていたけど…
「酒飲んでるとか、超余裕だな」
わたしにだけ聞こえるように琉唯が言う。
そうなのだ。入った瞬間から酒臭かった。祝杯なのかは知らないけど、こういう場で飲む飲み物としては不適格だ。
飲んでいるのは、第一皇子だけじゃなく、まわりの軍人もだ。
一応仕事中じゃないのか、堕落軍人が。
そして、この件の中心とも言えるリアムドさんは端に座って顔を俯かせていた。
「そういえば、ずっと聞けなかったけど、あの時なんで警戒してたの?」
「あの時?」
「リアムドさんが入ってきた時」
ちょっと不自然だった。
この場で聞く事でもないけど、顔を俯かせているリアムドさんをみたら急に思い出してしまった。
琉唯の実力だったら、リアムドさんを警戒する理由もない。
「ん?ああ、勘かな?」
出た、琉唯の野生の勘。
勘とか、ただなんとなくとかそういう事が非常に多いけど、それがよく当たるから怖い。しかも、勘だから明確な理由がないというおまけつき。
「でも、ただぼんやりした流され系お坊ちゃんじゃないのは間違いないと思うぜ?」
「そりゃ、優秀だからね」
最高学院で学んでいる学生だし、一癖も二癖もあってもおかしくないとは思うけど。
「そう意味じゃねーよ。なんつーか、得体が知れねーって感じだ」
抽象的過ぎて良く分からないけど、琉唯的に警戒する何かがある、という事だ。
「つーか、向こうは賑やかだな」
お酒を飲んでいるのもそうだけど、まるで宴会とでも言いたい。
こんなところで、場違いにもほどがある。
第一皇子の人格というか性格が良く分かった。
「俺がいなかったらちょっと大変そうだったな」
「お酒入ってるから特にね」
「こんなところでやり過ぎたら流石にやばいしな」
この間は皇子宮での出来事だし、表に出せないからそのまま終わったけど、こんなところで事を大きくしたらまずい事くらい分かる。
琉唯がいるからか、向こうはこっちをかなり意識していたけど、わたしたちは無視を決め込んでいた。
しばらくするとドアがノックされた。
すぐに、第一皇子の私設秘書が動きドアが開かれる。
そこには、法務局の制服を身に纏った眼鏡をした神経質そうな男性職員が立っていた。彼は中の現状を目にすると、不愉快そうに言った。
「お時間になりましたので、リアムド・ローレントさんとその弁護人、証明人と付き添いの方はこちらへどうぞお越しください」
「待て、我々も同席する。当事者だからな」
席を立ちあがって、第一皇子が権力を振りかざすように言った。
「申し訳ありません、許可出来かねます。この度の事に関しましてウィリアム殿下は当事者ではございませんので」
「なに?」
「今法廷は、リアムド・ローレントさんと皇室との話でございます。皇室代表者はカーティス殿下であると正式に通達されております」
やはり、何も分かっていないらしい。
それとも、分かっていて権力で押し通せると思っていたのか。
目の前の法務局の職員はなかなかやり手なのか、たとえこの国の皇族でも規則は規則ときっぱり受け流した。
「貴様!」
「おっと、やめとけよ」
いきり立つ軍人に琉唯が止めに入った。
「ここは法務局だぜ?正義のない争いは、皇子様の名を汚す事になるぜ?皇子様もな」
正論なだけに、言い返す事は出来ない。
向こうが静まり返ると、職員がその隙に伝達事項を続けた。
「殿下とお付きの方は傍聴席にてお席のご準備がありますので、そちらにお願いします。四名の方はこちらにお越しください」
リアムドさんが立ち上がり、わたしたちもそれに倣う。
感情を読ませないような無表情な姿が気にかかる。
この間中央図書館で話した時はこんな感じじゃなかった。
「リアムドさん?大丈夫ですか?」
「ああ、たぶんね」
リアムドさんはそれ以上何か言う事もなく、職員について行く。
流石に無駄話を延々とするのは躊躇われたので、わたしもその後ろをついて行った。
わたしは法廷内に入ると、その広さと明るさに圧倒される。場の空気に呑まれる、そんな感じだ。それだけ法廷の空気は独特だった。
初めての場所で、緊張もしていたけど、なんだか息苦しい感じがした。
「すげーな。なんか、神聖な場所って感じがするな。むしろ、ちょっと息しづらい感じもするか?」
琉唯もわたしと同じ気持ちだった。
言葉にするには難しいけど、とにかく肌がピリピリするような、神聖さがそこにはあった。
「大丈夫か?」
「大丈夫だけど、ちょっと場違い感が半端ないんだけど」
ちらりと視線を傍聴席に向ければ、多くの人。その多くは新聞記者。
確かにカーティス殿下が言っていた。向こう、第一皇子陣営は公開裁判を望んでいると。
だけど、ここまで注目されているとちょっと怖い。
「皇室の宝物殿からの盗品ってだけでも話題性抜群だからな」
その通りだし、ここ最近の新聞はそればかりだったのも気付いていた。
世論を巻き込んで何がしたいのか分からない。
「ここで発言するお前は、一躍時の人だな」
注目されたいわけじゃないけど、嫌でも注目される。
カーティス殿下は絶対に出廷しなくちゃいけないとは言わなかった。後日呼び出される可能性は高いとも言っていたけど。
でも、わたし自身で決めたことだ。早期の決着が必要だと感じていたから。
「こんな大国で有名になる妹持つと、ちょっと鼻が高いな」
「一時の事だと思いたい…」
「そりゃ無理じゃね?」
琉唯があっさりと否定する。
「なんで?」
「いや、なんでって言われてもな…。俺が言っても納得しねーだろ。本人から聞けよ」
「はあ?本人から聞く?それと有名になるのとどう関係してるの?」
本人とは誰の事かも分からないけど…。
もしかしてカーティス殿下と知り合ったから有名になるとかそう言う事なのか。
確かに皇族は国民には人気の人たちばかりだから、カーティス殿下と関わりがあればそれだけで注目はされると思う。
「そのうち分かると思うけど、お前色々覚悟が必要だぞ。たぶん、逃げらんねーだろうし」
意味不明なところがあるけど、今日はいつにもまして謎だ。
覚悟が必要とか、逃げられないとか一体何のことか分からない。
「まあでもよ、何かあったらバルシュミーデ卿に言えば問題解決しそうだけど?お前に頼られて向こうもうれしいんじゃないのか?」
琉唯はそう言うと、くいっと顎で対面に座る閣下を指し示す。
すでに準備が整っているのか、正面にはカーティス殿下とその弁護人、そして閣下が座っている。
閣下は証人枠のようだけど、何を言うのだろうか。
閣下が何か調べていたという事は聞いているけど、何を調べていたかは分からない。
たぶん、リアムドさんの事とかあの魔道具の事とかだとは思う。それにカーティス殿下も閣下から伝えられたことで考える事が出来たって言っていたので、かなり有力で重要な情報だったのは間違いない。
閣下をじっと見ていたら、それに気付いた閣下がわたしに向かって頷いた。
頑張れといっているのか、問題ないと言っているのか、その両方か。
少し、ほっとした。
「とりあえず、座ろうぜ」
琉唯に促されてわたしは指定された席に座った。その後ろには琉唯がいる。
なぜか閣下が琉唯を睨んでいるような気がして琉唯を見れば、にやにやと笑っていた。
閣下にこんな態度出来るのはある意味すごいとは思う。思うけど――
――お願いだから閣下に喧嘩売らないでほしい…
なんとなく後々面倒ごとが起こりそうな気配を感じて、そう願った。
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