24.中央図書館での話2
全く役に立たない、人を馬鹿にしたような発言にむくれて、しばらく琉唯を無視して本と資料を読んでいく。
琉唯はそんなわたしを横目に眠そうなあくびを噛み殺しながら、椅子の上でだらけていた。
「何か分かったか?」
「全くだけど?」
しばらくすると琉唯がわたしに声をかけてきたけど、それに冷たく返す。
簡単に分かったら苦労はしない。
「ちょっと冷たくないか?お兄ちゃんは悲しいよ」
ふざけた事言ってきた奴に慈悲はない。
しかし、そんなわたしに慣れている琉唯はそんな態度に怯むことなく、わたしに話しかける。
「つーか、楽しんでないか?」
流石家族、流石兄。
ただ調べているだけじゃなくて楽しんでいる事はバレていた。
「いいでしょ。イヤイヤ調べるより楽しんでいる方がはかどるし、記憶に残るし」
他国の歴史というのは機会がなければ調べることなどしない。とくに、王族のことなんかは。
国の成り立ちはともかく、どういう風に王族の家系が続いてきたか、そんなことまで載っている本と言うのは貴重だ。
「ま、歴史はともかく今の第一皇妃の実家が内戦なのはしょうがねーと思うぜ?なにせ、このご時世に重税重ねて、王侯貴族は豪遊だ。これじゃあ国民が黙っていないのも分かるぜ」
そうなのだ。
第一皇妃殿下の実家の内戦は、権力争いによるものではない。そのせいで、他国からはかなり厳しい批判に晒されている。
一昔前に比べて、この世界は平和になった。
国家同士の戦争がほとんどなくなり、人はその分豊かになった。
階級にとらわれない優秀な人材の起用。自由競争による、人の成長。自由を謳歌し国家に奴隷のように使われていた国民の時代は終わりを告げた。
そんな中第一皇妃殿下の国では、時代錯誤な時代を逆行したようなことが行われていた。
自分たち権力者のための重税、世論統制による発言の規制。その他諸々の独裁国家。
現王朝以前は、周辺国同様のまともな国家だったが、現王朝が傍系という事もあったせいなのか、まともな考えを出来なかったようで、国は自分の物というどうしようもない思考の元、この国を憂う官僚たちを国家反逆罪で次々と処刑。
軍による統率と規制で騒ぐ市民まで問答無用の刑罰で処罰。
そんなことが続き、ついに二十年前に武力衝突が起こった。これが、隣国の内戦の実情だ。
「噂によると、旧王朝も現王朝一派に消されたって話だしな」
権力争いというのはどこにでもある。
しかし、昔ならともかく今の世で表立って軍で制圧するものなら周辺国からの非難は必須。
ゆえに、国家転覆をはかるのなら、証拠が出ないようにやるしかない。
始めの頃はそんな噂もでることは無かったが、次第に国がおかしくなる中で、こういう噂が出るようになった。
ただ、かなり信憑性のある噂でもある。
隣国ではその噂話を聞かれたら、すぐに軍が介入してくるのだから相当だ。
「かなり怪しいけど、どこの国だって証拠がなければ非難も出来ないでしょ。周辺国はいい迷惑だよね、難民が押し寄せてきてるから」
リブラリカ皇国もその被害者だ。
第一皇妃の出身国ということで、冷たく追い返すわけにもいかない。そして、その被害を一番被っているのは国境が接している南の大領主たる、閣下のお父様だ。
「実は旧王朝の資料って、向こうだと禁書扱いだって知ってた?全部燃やしたらしいよ。貴重な歴史をなんだと思ってるんだろうね」
そこまで徹底すると怪しさがかなり増す。
しかし、そういう禁書も他国では禁止されていないので、なんとか残そうと他国に流すものもいたおかげで、貴重な歴史が全て消されずにすんでいる。
「これも、たぶん隣国からひっそりと流れてきたんだと思うよ」
旧王朝までの時代背景が書かれている本だ。
この中央図書館の蔵書選定がどうなっているのか知らないけど、おそらく多くの禁書が眠っている事だろう。
リブラリカ皇国では自由な発言が法律で認められているので、他国の禁書扱いの品の隠し場所としては最も安全と言えた。
「旧王朝の事、すごく詳しく書いてあるんだよね…、ここにいる全員が殺されたっていうんだから、現王朝を疑う人が出るのは当然とも言える―――……琉唯?」
ふいに、琉唯が席を立った。
わたしを背に、区画の出入り口に身体を向ける。
静かな足音が近づいてきた。
ここは中央図書館で、この区画はわたし専用の場所ではない。ここに人が来るのはおかしい事ではないのに、琉唯は何かを警戒しているようだ。
足音が迷いもなくこの区画に入って来る。
すぐに、姿を現し、わたしは琉唯の背の陰から入って来た人物の顔を見た。その瞬間、わたしは琉唯の背から出て行った。
「こんにちは、珍しい所で会いますね」
逃がさないぞ、と圧力を込めて挨拶すると、向こうも驚いた顔でわたしを見ていた。
一瞬逃げそうな雰囲気も感じたけど、琉唯がそれを許さなかった。
「おっと、折角来たんだから少しぐらいゆっくり本でも読んでいけよ」
肩をぐいっと掴んで、わたしの方へ身体を差し出す。
わたしは彼の手を取って、琉唯がさっきまで座っていた席に座らせた。
「…結構強引だね」
「はい、わたし知りたいことに関しては貪欲に喰らいつくタイプなんで」
嫌そうにしながらも逃げられないと悟ったのか、わたしに魔道具鑑定を依頼してきた件の彼が諦めたように、肩の力を抜いた。
「そういえば、お互い自己紹介してなかったですね?」
「そうだね、必要もないけど」
「そうですか?わたしはぜひともこんな面倒ごとに巻き込んだ人の名前くらい知っておきたいですけど?」
嫌味を込めて言えば、向こうは少し目を伏せた。
多少の罪悪感はあるようだ。
「僕もこんなことになるなんて思ってなかったんだよ。急いでいたから鑑定を依頼したけど、まさか出来るとは思ってなかったんだ。その結果でこうなるなんてね」
「その言い方ですと、店長なら問題なかったって聞こえますけど?」
「少なくとも、あのお方にどうこうできる人でないのは間違いない」
あのお方っていうのはおそらく第一皇子の事だろう。
鑑定に対しては嘘偽り、忖度しない店長だけど、確かに第一皇子がどうこうできる人ではないのは確かだ。
「やっぱり、店長の事よくご存じなんですね?誰かに紹介されたって言ってましたけど、本当はもともと知り合いだったんじゃないですか?」
「知り合いではないね。ただ、知っていただけで。あの人は色んな意味で有名だから、この世界では特に」
狭い世界ではあるけど、むしろ狭い世界だからこそ店長は迷宮産魔道具を扱う店の店主としては有名だ。
「そういう意味では、君も有名だったんだね。クローディエ・リデオンさん。あの時は知らなかったけど、調べたらすぐに分かったよ。さすが、最年少であの資格を取る天才。あれぐらいの鑑定は簡単だったかな?」
「鑑定は相性ですから、たまたま相性が良かっただけです」
「それを人は才能と呼ぶんだよ」
にこりと笑う彼は、どこか自嘲気味だった。
「ああ、一方的に君の事を知ってるのは申し訳なかったね……僕はリアムド・ローレンド、一応皇都最高学院の学生だよ」
そう名乗ったリアムドさんは、手近にあった本を手に取った。
「隣国、リ・アードロの王族の本か…なんかあれだよね。向こうではすでに手に入らないようなものがここに普通に置いてあるって滑稽じゃない?」
その通りだ。
隣国では必死で消し去りたい過去が他国ではそのまま歴史として残っている。
どれだけ必死で規制したところで意味はない。
「リ・アードロは詳しいんですか?」
暗に、あなたは隣国の人間か聞くと首を横に振った。
「歴史的にはあまり詳しくないよ。僕は生まれも育ちもリブラリカ皇国だし。ただ、なんとなくね、母が向こうの生まれだからか気に掛けるところはあるんだよ」
「お母様のご実家は?」
「もうないよ、母の実家は旧王朝派だったし、今の王朝になった時に真っ先に消えたよ」
なんとなく苦労したのだろう雰囲気は伝わってきた。
「実は、これはもう知られているんだけど、母は父の愛人だったんだ。身籠って、一応責任を取るって形でこっちに来たけど、まあ、歓迎されるわけもなくて」
実家は無くなり、食うにも困る生活の中、愛人になったらしい。
ただ、当たり前だけど彼の父親にはきちんと婚姻に基づく結婚相手もいたわけで。
責任をとるところはましだと思えるけど、そういう配慮は足りなかったようだ。
ただ、食うに困る生活で無くなっただけましだとも言えた。
「愛人の子供ってさ、扱いは色々あるじゃない?無視されたり、奴隷のように扱われたり。それに比べたら僕はまだましかな。教育も授けてくれたし、援助もされてる。向こうの家族には無視されていても、兄なんかは一応弟としてこき使ってくるしね」
「仲が良いんですか?」
「兄と?まさか、仲が良くなるほどの交流もないよ。ただ、むこうからしたら便利な道具ぐらいにしか思ってないかもね。一応、僕って優秀だから」
皇都最高学院の学生なら手元においておけばかなり役立つだろう。
それほど際立った優秀な学生ばかりなのだから。
「兄とは、会ったんじゃなかった?」
リアムドさんにそう言われて、首を傾げた。
少なくとも、記憶の限りではないと思う。
「第一皇子殿下の私設秘書。会ったんじゃない?兄がそんな事言ってたけど…」
「あっ!」
あの皇子の後ろにいた中肉中背の男。神経質そうなイメージしかない。
リアムドさんはどちらかと言えば穏やかそうな雰囲気なのに、全く似ていない。ちなみに顔も似ていない。
そのせいで、全然思いもつかなかった。
「全然似てないでしょ?兄は父似だけど、僕は母似だから。そのせいで、更に向こうの家族、特に奥様は僕の事を嫌っているよ」
まあ、本妻と愛人の子供とはそういうものかも知れない。
「とにかく、そう言う感じで兄経由で第一皇子殿下と知り合った」
なるほど、兄経由で知り合って、第一皇子側についているという事なのか。
でも彼の言葉は、あっさりしすぎて第一皇子の事なんてどうでもいいように感じた。
彼もわたしの視線に気づいたようだった。
「第一皇子殿下の事はどう思っているんですか?」
直球で聞くと、それ僕に聞く?とでも言うように肩を竦めた。
「正直、僕は第一皇子殿下の事も兄の事も家族の事もどうでもいいんだよ。本当は、すごく単純に普通に働いて普通に結婚して、そんな事を夢見てた」
権力争いには興味はない。
なのに、なぜ渦中のど真ん中に飛び込んでいくような事になったのか。
その理由が、件の迷宮産魔道具なんだろう。
「全部投げ出して、逃げたいって良く思う。あんな魔道具が存在して、それを第一皇子殿下が欲しがったから話が面倒になったんだよ。全部消し去りたいなら、全部消し去ってくれればよかったのに」
最後は呟くようにそう話すリアムドさんは、手に取っていた本をそっとなぞった。
急いで書きすぎた…
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