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23.中央図書館での話

 とりあえず、裁判まで十日ある事が分かり、護衛をつければ外出しても構わないという事で、許可を取って皇子宮の外に出た。

 で、その時の護衛が…


「なんで琉唯なの?」

「ひでーな、お兄ちゃんって言えよ」


 獅子堂琉唯、わたしのすぐ上の兄だ。

 すぐ上と言っても十離れているので、年の近い兄弟のように喧嘩さえしたことのない兄。

 たぶん、カーティス殿下は琉唯がわたしの兄だって知っていて護衛として付けた。琉唯が言ったのかどうかは分からないけど、勘のよさそうな人だから、何も言わなくても察してそうだ。

 ちなみに、わたしは兄の中ですぐ上の琉唯だけ名前で呼んでいる。

 というのも、琉唯は男兄弟の中で一番下なので、当然みんなから名前で呼ばれていた。それを物心つく前から見て聞いていたので、わたしもみんなに倣って一番下の兄は琉唯と呼ぶんだと刷り込まれていた。

 琉唯はどうにか兄と呼ばせたかったみたいだけど、刷り込みのように口に出していたので治るはずもなく、会うたびに“お兄ちゃんと言え”と言ってきて、ちょっとキモい。

 そもそも、“兄様”ではなく“お兄ちゃん”って呼ばせようとしているところが嫌だ。


「大体、なんでリブラリカ皇国にいるの?一兄様は知ってるの?」

「兄貴?さあ、ここにいるっているのは知らないかもな。だって俺喧嘩して家追い出されたんだし」

「はぁ?喧嘩って、一兄様と?またぁ?」

「そうそう、また」


 兄妹仲は悪くない。

 さらに兄弟仲も悪くはない。悪くないけど、やはりそこは男兄弟なのか、喧嘩はそこそこある。

 大体は一兄様が一番下の弟である琉唯の生活態度にキレて叩き出すっていうのが恒例だけど、今回もそのパターンらしい。


「俺だって、なんでお前がバルシュミーデ卿のところにいんのか知りてーよ。おふくろも不思議がってたぞ」

「やっぱり、ママは知ってた?一応名前は出さなかったんだけど…」

「おふくろだぞ?誤魔化したって意味ねーの分かるだろ」


 ママとはリブラリカ皇国内でのわたしの保護者だ。

 実はわたしの三番目と四番目の兄とそしてこの琉唯のお母さんで、わたしとは血が繋がっていない。だけどわたしの事は娘のように可愛がってくれている人だ。わたしはママと呼びなさいと子供の頃から言われているので、ママって呼んでる。

 ママはここではかなり顔が広いので、噂話とかはすぐに耳に入る。

 ここ最近、イリアさんと一緒にいる事が多かったから、たぶんどこかで知ったんだと思う。


「ママが何も言ってこないから、まだ知られていないのかと思ってた…言わないと駄目かなぁ?」

「何も言ってこねーならいいんじゃね?俺にもなんも言ってこねーし」

「琉唯に何か言っても無駄なの分かってるからじゃない?」


 何を言っても響かない琉唯に小言を言っても無駄だ。だからこそ、真面目な一兄様とよく喧嘩になるんだけど。

だけど、なんで喧嘩して追い出されて、今琉唯がカーティス殿下の護衛みたいなことしているのかも謎だ。


「あ、なんで殿下とこに居んのかって顔してんな。いやー、もともとはおふくろんとこでちょっと面倒見てもらおうと行ったわけなんだけどよ」


 そのどうしようもない言葉に、自然と冷たい目つきになった。

 すでに成人して自分で稼ぐことも容易い年なのに母親に世話になろうとするその根性に。


「そんなんだから、一兄様と喧嘩になるんでしょ。どうせいつもの生活態度とか金遣いとかそういうので喧嘩になったんでしょ」

「お、さすがクロエ。良く分かってんなぁ」


 良く分かってるっというか、いつものパターンだ。


「それで、なんでカーティス殿下と知り合ってるの?」

「ああ、それな。カーティス殿下がおふくろんとこに遊びに来てて、なんでか意気投合してよ。雇ってくれるっつーから雇われた…みたいな感じだ」


 みたいな感じって…。

 さっぱり分からないけど、とりあえず気が合ったのだという事は分かった。


「まあ、でもまさかクロエがバルシュミーデ卿のとこで世話になってるって知った時は、どーなってんだよって思ったな。しかも、第一皇子宮であんなことになってるし」

「こっちも色々あったの」

「ま、でも一つ言えるのは……お前、マジですげーって事だな。お兄ちゃんは感心したよ」


 うんうんと頷く琉唯だけど、わたしは何がすごいのか全く分かっていなかった。

 というか、すごく馬鹿にされてる気がする。

 わたしは琉唯の言葉を無視して、目的地に向かう。


「そういえば、どこ行くんだよ」

「調べたいことあるから中央図書館だけど?」


 それを言うと琉唯は嫌な顔をした。


「お前ってさ、ほんと勉強好きだよな、俺は字見るだけで頭痛くなるわ」


琉唯は本人も認めるほど勉強嫌いだ。頭が悪いわけじゃないけど、やりたがらない。そして身体を動かすのが好きなので、図書館のような場所は好きではない。

 

「勉強好きなんじゃなくて、調べたいから行くんだけど」

「似たようなもんだろ」


尤も、勉強好きというのは否定しない。 

 知らない事を知るのが好きなんだけど、それを言うとそれが勉強好きなんだって言われるので言わないけど。


「相変わらずでけーな」


 皇都ロザリアの中央図書館は大陸一の蔵書があると言われている大図書館だ。全部見て回るには一日では足りないし、初めて行くとどこに何があるのか分からない。

 そこで働く司書でさえも、全部の区画を正確に把握している人はいないとまで言われる。

 この中央図書館は、皇子宮――と言うよりも皇宮からはかなり近い。

 昔は知識階級=権力者だったので、皇宮に近い位置に建てられていた。

 中央図書館の中に入ると冷たい風が吹いてくる。

 本は低温低湿が良いとされているので、冷却装置が開発された時真っ先に導入された。そのおかげで、ここは年中快適だ。

 ただ、そのせいで本来の使い方をしない人も現れてきてしまい、現在ではかなり厳しい入館管理をしている。


「涼しいな。皇子宮もそうだけど、こういう公共施設の設備が整ってるの見ると、国が豊かだなっておもうぜ」


 世界中を旅してきた琉唯だからこその感想だ。

 わたしも父や兄に連れられて色んな国に行ったけど、この国ほど豊かな国はないと思う。


「そういえばお前、暑いの大丈夫なの?いつもだったら暑い暑い言ってるのに今日は言わなかったな」

「ああ、これのおかげ。バルシュミーデの試作品なんだけど、閣下にもらったの。感想言うのが条件で」

「……装飾品の類かと思えば…、それって首輪?」


 なんだって閣下にもらったっていうとみんなそう考えるのか知りたい。


「違うから、そういう魔道具なの。身体を冷やすの」

「え、だって色がさ――」

「なんでカーティス殿下と同じ事言ってるの?短い付き合いなのにやっぱり主従って似るの?」

 

 思う事が一緒な主従に呆れた声で返した。

 首輪とか色とかよりもこの魔道具がどれほど画期的か感動するところだと思う。


「こちらで入館証の提示をお願いします」


 入ってすぐの所に職員がいて、入館証の提示を求めてきた。まず、この入館証がないと入館できない。

 近年、本来の使い方をしない、迷惑な利用者の対策で入館証が導入された。

発行自体はそこまで難しくないけど、何か問題を起こした場合、すぐに身元が割れるようになっている。

わたしは入館証を渡し、琉唯がお金を渡す。

入館証がない人は、その場で発行するか、入館証を持っている人と入館する方法があるが、後者はお金を取られる。高額ではないけど、安くもないので普通は入館書を発行してもらう方がいいけど、現在の住所や職業などの証明書類が必要なので、琉唯のような外国人は、基本的にお金を払う方が現実的だ。


「お入りください」


 中に入ると、本の香りがする。

 ずらりと所狭しと本が並んでいるので、始めてきた時はそれに圧倒された。


「んで、何調べんの?」

「一番は隣国について、それからレポート書くのに昔の魔法資料を探して…」

「おいおい、なんで隣国の事なんて調べんだよ。レポートはお勉強好きなお前の事だから良いとして、突拍子もなさすぎなんだよ。いきなり隣国調べるって」

「気になったから」

「何が?」


 琉唯は納得できない顔でわたしに聞いてくる。

 わたしはそんな琉唯の質問を無視して、他国の資料がある区画に入って行った。


「クロエ、俺にも分かるように説明してくれって」


 しつこい琉唯に、本を次々に差し出す。

 どれも現在内戦中の第一皇妃殿下のご実家の隣国に関する資料だ。

 ぶつくさ言いながらも、琉唯は荷物持ちのように本を持つ。


「あの人、たぶん隣国の人だったと思う」


 資料を机に置く琉唯にわたしが言った。


「あの人ってどの人?」

「店長の店に来た人。わたしが鑑定した迷宮産魔道具の現持ち主だよ」


 あの時、確かに南の方の訛りを感じた。

 南の方の訛りでは、隣国とは言い切れないけど、この国の南地域は閣下のお父様が顔を利かせている。なので、このタイミングでは隣国の人間であると疑う。もしくは関わりのある人物か。


「しかも、そんな人が持ってたもので、隣国の血を引く第一皇子が欲しがっていた物って、隣国に関わるものな気がしてならないんだよね」


 そう思ったら、突然あれは隣国でみたような気がしてきた。

 父に連れられ、兄に抱っこされて、そんな思い出が蘇ってきたのだ。


「俺、全然記憶ねー」

「だって、琉唯はこういうの興味ないでしょ。わたしは好きだったから記憶してるだけだし」


 わたしだって閣下みたいになんでもかんでも記憶している訳じゃない。

 

「そんで、隣国の事でも調べてみようって事か。気の遠くなりそうな作業だな」

「そうでもないよ」


 わたしは琉唯に一冊の本を見せる。


「なんだこれ、王族の系譜?」

「忘れているかも知れないけど、基本的に迷宮産魔道具持ってる人って限られていると思わない?性能によっては国宝クラスだって」


 ずっと思い出せなかったのは、わたしが幼かったせいか実際に見たことがないから。もしくはその両方か。

 でもあれが隣国に由来する品である可能性が高いのなら、隣国を調べれば何か分かる可能性がある。

 特に王族、もしくはその周囲の権力者。

 今時、自国の皇族だけでなく他国の王族の専門誌なんてものもあるくらい系譜特化の専門家がいる。

 琉唯に運んでもらっていたのはそういう資料ばかりだ。

 ここには、系譜のほかに一族由来の家宝なんかも載っていたりする。もちろん、そういう家宝はかなり厳重に保管されているので、実際に見る機会はほとんどない。


「なるほどなぁ…、言っとくけど俺は無理だわ。手伝わねーぞ」

「誰も手伝ってほしいなんて言ってないよ。暇ならどっか行っててもいいけど?」

「一応護衛だから、そんなことできねーよ」


 護衛の自覚はあるようだ。

 任された仕事はちゃんとやる辺りは、昔と変わっていない。


「それで、レポートの方は宿題か?」


――なんでそこに話が行くかな…


 一番気になるところは聞いたんだから、そこは聞かなかったことにしてほしかった。

 ただ、黙っていてもしつこいので、さらっと話す。


「学院の課題じゃないよ。それはちょっとしたお礼で…」

「誰に?」

「――閣下だけど…」


 それを聞いた琉唯が呆れたような顔で言った。


「色気なさすぎ、なんでお礼でレポートなんだよ。もっとあんだろ、相手が喜びそうなことが!」

「だって、これしか浮かばなかったんだもん!閣下もわたしのレポート読みたいって言ってたし!」


 それは閣下と初めて会った時。

 バルシュミーデが開発中のものに対して意見したら、レポートが見たいと言われた(くだん)の理論について。

 せっかくなのでお礼に書いて渡せば喜んでくれるかなと思ったのだ。

 でも、琉唯は盛大にため息を吐き駄目出ししてきた。


「どこがだめなの?確かに喜ぶかどうかは分からないけど、参考にはなると思うし。閣下仕事好きだし!」

「仕事好きなのは否定しねーよ。超優秀な人間なのも。だけど、女から貰う礼品がレポートって、そりゃないだろうが。せめてもっと違うものにしろって」

「例えば?父様や兄様たちだったらなんでも喜んでくれるけど、男の人って一般的に何贈ったら喜ぶの?」


 それは難しい問題だ。

 閣下はお金だって持ってるし、ほしいものは簡単になんでも手に入るだろう。

 

――金銭で購入するものに、執着なさそうだし…。

 

そんな風に考え込んだわたしに、琉唯が肩を竦めて全く役に立たない助言をしてくれた。


「俺から言えるのは、せめてハグとかチューぐらいしてやればってことだけど?」


――それこそ、絶対喜ばないでしょうが!馬鹿琉唯!!




※子供は良い事も悪い事もなんでもまわりの真似する。

 まわりがみんなそう呼んでたら、子供も真似して呼ぶよねって話(琉唯の事)

※誰もいない区画+一応声は落としてお話し中



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