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22.朝の第三皇子宮での話2





「実はさ、君の能力を疑っている訳じゃないけど、ちょっと上の連中がうるさく言ってきてね」


 大した値段じゃいないと言われていたところで二十億リラと言う鑑定結果。

 疑いたくもなる。


「と言っても、鑑定士の正式鑑定は絶対的正当なものだ。ただ、値段設定に関しては、個人によって多少差が出る事は知ってるよね?」


 わたしは頷いた。

 鑑定で分かるのは、その品の事だけだ。

 あとの値段設定なんかは経験や相場から鑑定士が恐らくこのくらいでしょうと値段をつけるだけだ。

 なので、ある鑑定士は一万リラと言っても違う鑑定士に見てもらったら十万リラと言われることもままある。

 これは前者の鑑定士が悪いわけではなく、相場の分からない品だったりすると時たまこういうことが起こる。

 前者の鑑定士はその品の相場事情をあまり詳しく知らず、後者の鑑定士の方がその鑑定品の相場を熟知しているという証拠だ。

 これは結構有名な事なので、鑑定を依頼する時は複数人に頼むというのが普通だ。

 ただし、そのたびにお金もかかるので、結局一つの所で依頼する場合が多い。その最も信頼が寄せられる場所が、バルシュミーデだ。

 バルシュミーデは買い取りしないけど、需要の関係で、鑑定所だけは持っている。横の繋がりがとにかく半端ないので、鑑定できない場合は専門の誰かを紹介してくれるのである意味安心。

 もちろん買取に関しても、信頼できる業者を紹介してくれるので、鑑定所は結構忙しいようだ。

 そんな鑑定士の力量によって鑑定品の値段も変わるので、今回の様なケースでは他にも鑑定できる人を探し出してきたいところではあるけど、わたしと同等の人間というとぱっとは浮かばない位には人がいない。

 しかも宝物殿の管理者筆頭で深度九の鑑定もこなせるはずの人が難しい案件何て、外部でもそうそう鑑定できる人がいないのは当然で。

 結局その値段設定が正当かどうか、という論点が残ってしまった。

 それに、わたしが若いという事で、経験も少ない結果誤った値段設定をしているのではないかとも言われていた。


「疑われるのはしょうがない事だと思っています。でも証明の手立てがないので、どうしようもないです」

「そこなんだよ、そもそもあれが何か、誰も知らないんだ。何かを知っていれば、多少は君の値段設定も理解できるんだけど…」


 そこでわたしはあれ?と思った。

 そもそも、その曖昧な値段設定に対し鑑定書というのは効力を発揮するのかということになるけど、鑑定書に書くのはその値段にした根拠もだ。

 基本的に迷宮産になるとオークション関係での売買が多くなる。つまり、オークションにだしたらどれくらいになるのかの根拠を書くのが一般的だ。

 つまり、その鑑定品がどういった品なのかは、一目でわかるはず。値段自体は、ある意味おまけみたいなものだ。

 一番重要なのは、鑑定した品がどういうものか、これにつきる。


「わたしの鑑定書は見てないんですか?」

「それがねぇ、値段しか言われていないんだよこっちは。だからこそ、上が納得できていない」


 それこそ、鑑定書の提出を依頼すればいい。


「ああ、法的義務はないって事ですか?」

「そう言う事。出来るだけ、向こうは内密にしておきたいほどの物なんだね」


 なるほど、だからわたしを確保しておきたかったわけだ。

 それが何か知っているのはわたしだけ。

 自分たちに不利な証言をされてくないというのもあるけど、一番知られたくなかったのは、それがどういう品かという事らしい。


「なので、ぜひ教えてほしいな。あれが、何かを」


 この皇子様は分かっていて言ってるのだろうかと疑いたくなった。

 いや、絶対分かって言っている。

 それを感じてわたしはため息を吐いた。


「言えない事分かって言ってますよね、それは」


 そう、鑑定結果については相手の同意なく他者に話す事は禁じられている。もちろん法律にもきちんと明記されていた。

 なんでも、過去にそれでトラブルが絶えなかったらしく、今では鑑定品を持つ人物に対して不利益が被らないように守られているのだ。


「いやあ、この状況だったらうっかり話してくれるかなぁと」

 

――それは、わたしを現行犯逮捕したいという事なのかな。そうすれば、好きに調べられるから…


 それは考えたくないけど、この目の前の御仁だったら何かやらかしそうだ。

 普通の女性だったら、この胡散臭い笑みに騙されてなんでもかんでも話しそうだけど、あいにくとわたしには効かない。


「うーん、やっぱりだめかぁ。君、色々耐性出来すぎなんだよね」


 それはつまり確信犯と言ってもいい言葉だ。

 そして、自分が世間一般からみても人気の顔である事も熟知している。ナルシストとは違うけど、自分の事をよく理解して武器として使っている人だ。

 どうして閣下のまわりはこんなに癖の強い人間ばかりが集まっているのか。


「ヴァルファーレはともかくとして、クリフォードの顔を間近で見てるせいで、ちょっとやそっとじゃ落とせやしないよ。絶対美人局(つつもたせ)的な罠にはかからないタイプでしょ、君」


 閣下に見慣れれば、ちょっとしたイケメン如きで揺らいだりはしないだろうけど、それってどうなんだろうと疑問になった。


――あれ、もしかしてわたし普通に恋愛って難しくない?


 相手の顔で恋愛するわけじゃないけど、やっぱり第一印象は重要だ。

 容姿が整っていれば、おっと思うし、残念だと、ああ…と思う。それでいうと、閣下の顔になれてしまうと、世の男性全てが見劣りする。 

 そもそも、閣下は容姿だけじゃなく、色々と甘やかしてもくれるし、話をしていて楽しい。

 ふと気付くと、街中で見かける男性と閣下を比べている時もあったりする。


――非常にまずくない?


 ちょっといいなって思った人も閣下と比べれば絶対見劣りするだろう。

 これから先、お付き合いする人を誰か他の人と比べているのは失礼だ。


「あのね、そんな難しい顔しないでほしいな。ちょっとした冗談だよ。深く考え出すとなんか余計な事考えそうだから言っておくけど、鑑定結果は言わないだろうなっていうのは分かっていたから」


 カーティス殿下が何か勘違いした様で、そう言った。

 別に、ちょっと自分の今後を考えてしまっただけだ。考えるとドツボ嵌りそうなのは否定しないけど。


「いえ、わたしが法を犯す事がない事を信じていただけて良かったです」

「別にうっかり口にしてもここだけの話で終わらせておくだけだったけど…、口が堅いのはいい事だよ」


 それは本心のようだ。


「法廷での争いならお互い弁護人を雇ってってなるけど、こっちは証明手立てが曖昧だからちょっと弱いんだよね。こっち側は誰も鑑定できないモノだから、圧倒的に不利だし」

「法廷に立てば、法の下きちんと証言しますよ。その時には鑑定結果の根拠も開示しなければいけないでしょうし」


 お互いの言い分はあっても、法的根拠がなければ、言い合いの水掛け論になってしまう。

 ただし、向こう側にはわたしの書いた鑑定書があるので、有利だ。しかも、それの正当性を判断できる人物がこっち側にいないとなると、不利なのは分かる。

 でも、親しい間柄でも虚偽の発言は出来ない。

 それは向こう側にしてもそうだ。


「あの、一つ確認したいんですけど、その件の鑑定品をもう一度鑑定する事ってできますか?」


 カーティス殿下は少し考えて、難しいねと言った。


「もともと警戒されてるし…でももう一度鑑定するチャンスはあるよ。法廷でもう一度鑑定する事になると思う。お互いの鑑定士を立ててね」


 わたしはすでに向こう側の人間として把握されている。

 なにせ、向こうが有利になるような鑑定書を作成したのはわたしだから。

 だから、こちら側はわたし以外の鑑定士を探すしかない。


「このタイミングでヴァルファーレが戻ってくれたら最高なんだけどなぁ」


 それはなかなかな運次第。

 

「クリフォードも探しているけど、難しいだろうね。深度九の鑑定士って、リブラリカ皇国では君を含めて片手て数えられるくらいだし。そのうち二人は迷宮協会(ギルド)の専任だからすぐにはつかまらないだろうしね」


 迷宮協会(ギルド)は迷宮を管理しているが、当然迷宮産の鑑定が出来る人がいなければ話にならない。

 深度七以上を持つ人は迷宮産魔道具の鑑定が出来る人だけど、その精度は上になるほど詳しい。

 一般的なものだと深度七くらいで問題ないけど、そこで鑑定できない物は深度九の鑑定士に依頼が回ってくるので、彼らは引っ張りだこで常に忙しく動き回っている。

 安全面も考慮して、どこに派遣されているかは教えてはもらえない。

 鑑定品を本部まで輸送してそこから鑑定することも提案されているけど、輸送にかなりの手間とお金がかかるので、結局護衛を雇ったほうが安いとなった。

 現在、リブラリカ皇国内の深度九の鑑定士三人ともどこにいるのか分からないというとっても間の悪い事実に、カーティス殿下はため息を吐いた。


「結局なるようにしかならないけど……ああ、そうだ裁判だけど、十日後だよ」

「ずいぶん早いんですね」


 裁判を起こすにも色々手続きが必要なはずだ。


「裁判の手続きは前々から進められていたんだ。君が鑑定した日からね。で、正式に決まった時に、君の存在を知ったってわけさ。正直、向こうが初めから君を確保してなかったのは、たぶんバルシュミーデにいるって知ってたからなんだろうね」

「どういう?」

「簡単に手出しは出来ないってことさ。結局は力技で押し入ったからあれだけど…何も決まってないうちに動いていたら、バルシュミーデと本格的にやりあう事態にだってなってたよ。だって向こうには正義がないんだから」


 だけど、なんでわたしがバルシュミーデに世話になってるか知っていたのか気になる。

 ずっと見張られていた感じはしなかったのに。


「イリアが一緒だったんでしょ?それを見られていたんだよ。ある意味、彼女はバルシュミーデのなかでも筆頭株で顔が知られているから」


 その疑問をあっさりとカーティス殿下が教えてくれる。

 わたしはそこまで意識していなかったけど、どうやらイリアさんはかなり顔が広いようだ。


「結局、閣下の保護下にいたから無事だったって事ですね」

「そうだね。クリフォードが君を保護していたのは偶然だったかも知れないけどね」


 初めは反発もしたけど、偶然とはいえ結局閣下の保護下にいたからこそ色々守られていたのだと実感する。

 それなのに、自分から閣下の元を離れたのだから、閣下が怒るのも当然だと思った。


「今度クリフォードに会ったら、お礼の一つでも言っておいたら?謝罪よりもそっちの方が喜ぶと思うから」


 カーティス殿下が微笑んで助言をくれた。

 それじゃあねとカーティス殿下が席を立つのに合わせて、わたしも見送りのために立ち上がる。


「ああ、そうだ。しばらくは、夜窓開けないでね」

「えっ?」

「警備の関係上っていうか…、君への安全の考慮っていうか…。申し訳ないけど、夜はそれ付けて寝てね」


 それとは、閣下にもらった魔道具だ。

 警備の問題なのは分かったので、とりあえず頷く。


「本当に、窓開けとくと一番たちの悪い奴が忍び込んでくるから……」


 一体誰の事か良く分からなかったけど、カーティス殿下の言葉に従って夜寝る前にはちゃんと窓を閉めようと誓った。





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