魔法
「この数を物ともせずと!?」
そう言いながらも陣形を保ちつつ攻め入ろうとするトロヴァ王。
しかし、風となったシナツヒコには無意味な策だった。
「クッ!」
兵士達の攻撃はシナツヒコを捉えることはなく、空を切るばかりだ。
「・・・騎士道に反するが致し方ない!!」
そう言って全兵士を神堂達に向けて突撃命令を下した。
「今だ、ツラナギ!」
「了解しました」
そう言ってツラナギは螺旋の激流を生み出した。それは次第に力を増し大きくなっていき、やがてトロヴァ王と兵士達全てを包み込んだ。そして、徐々に水の力が弱まっていき周りに霧散していった。そこには倒れている若い少年が倒れている。
「なるほど。先程の鎧姿の彼は幻影でしたか」
「至急増援を!直ちに侵入者を引っ捕らえろ!!」
警報が鳴り出し、街を包み込んでいった。
「ギルドに見つかったらマズイな・・・仕方ねぇが撤退するか。シナツヒコ、頼むぞ」
「了解した」
そう言ってシナツヒコに手を引かれ自分たちは風の如くその場を去った。
「ここまでくれば大丈夫か」
ここは中央部から西へ行った路地裏だ。ここで作戦を練ることにした。
「ここからどうするんです?王に顔がバレてますし」
「また殴り込みに行くってのは愚の骨頂だしな」
「ほとぼりが覚めるまで別の町へ移動したほうが良いな」
そういうわけでここから脱出することになったのだが、今は深夜。街道を抜け森へいくにも魔獣が蔓延り盗賊までいるのだから夜の移動は危険だ。だが、その心配は無用だった。
「ったく、手間を掛けさせやがって」
そう言ってタケミカヅチは最後の盗賊を仕留めた。結局夜の森へ行くことになった。明朝に移動しようにも門番や警備兵が徘徊するはずだと言うので仕方なく危険な抜け道を進むことになった。
「まぁこの程度ならお前さんだけでも充分なんだろうが」
そう言って神堂へと目を向けた。
「いやいや、流石にこの数は無理ですよ!」
ざっと数えて20人はいるであろう盗賊を自分だけで倒すのは無理であるのだが、何故か三人は大丈夫だと言う。
「まぁこの先もっと危険な敵に遭遇するでしょうし、ここらで稽古を付けるのはどうでしょうか?」
と、言うわけで突然三人が一斉に攻撃を仕掛けてきた。まずはシナツヒコの突きを寸でのところで躱す。そこを狙っていたのかタケミカヅチの大剣が振り下ろされた。それをバックステップで数メートル下がると今度はツラナギの魔法が繰り出された。先程の激流とは違い水鉄砲の様な攻撃を連続して繰り出す。それを木を盾にして防いだ。
「いきなり過ぎでしょ!って言うかこんな事してていいんですか!?」
今は逃げている身なのになんの問題もないと言うように稽古を始めた。何故今稽古を付けるのか隠れながら聞いてみると、月明かりを頼りに戦うのは昼の戦闘と比べ神経を集中させる必要があるから効果的なんだそうだ。
「ここまで追手は来ないでしょうし次の町にまで情報が出回る可能性がありますからね。ここらでほとぼりが覚めるまであなたを強化しようと考えていまして」
なんでも、自分がギルド登録している間にここまでの事は練っていたらしい。もしかしたら始めからこれを狙っていたのかもしれない。だから先程は大きな魔法を使って警報を促したのかもしれない。
「隠れても無駄だぜ!」
そう言って木を力任せに倒した。その隙を補うようにシナツヒコがみだれづきをし、追い打ちをかけるようにツラナギが魔法による攻撃をしてくる。途中何発か貰ったが、威力が小さいせいか大したダメージにはならなかった。そうして避けているうちに彼らのパターンが読めてきた。まずはタケミカヅチの攻撃だが、大ぶり故に回避し易い箇所がある。そこに避けたらシナツヒコの斬撃が、そして追い打ちとしてツラナギが魔法による連弾をしてくる。
「くっ!」
パターンは分かったのだが避けきることは出来ず何度も魔法攻撃に当ってしまう。せめてこちらも反撃できればと思うのだが、如何せんこちらには魔法も使えなく武器も持っていないのだ。
「・・・仕方ない!」
次のタケミカヅチの攻撃を避け殴りかかろうとした瞬間。
「ようやくか。随分と遅かったじゃねえか!」
大剣を左へ横薙ぎにし、その遠心力で蹴りを入れてきた。
「っ!!」
殴る瞬間だったため避けきることは出来ず僅かに腹を掠った。普通なら問題ないのだがタケミカヅチの蹴りは雷を纏っていたため、直に食らったのと同じくらいのダメージをもらった。タケミカヅチは雷の魔法が扱えるようだ。せめてこちらも魔法が使えればまともに戦えるのかもしれなかったのだが、無い袖は振れずどうしようもなかった。
「言っておくが私達もお前がなんの属性を得ているか分からないぞ」
立ち直った瞬間、シナツヒコのみだれづきが炸裂した。これは避けきる事が出来ず数発くらってしまった。腕、太ももに数か所穴が空き血がにじみ出てきた。シナツヒコの武器はレイピアであり一撃よりも手数で敵を倒す武器となっている。幸い動脈は突かれていないため大して血が出てないのが救いだ。その理由はこの戦いが稽古であるからで殺し合いじゃないからだ。だが気を抜けば即死する攻撃を出してくるあたり、実践と変わらないようにしているらしい。
「魔法は天性の才によって発現するものらしいです。その才とは個人の強い感情とも強い想いとも言われているようですよ」
動きが鈍くなったところに今度はツラナギの魔法が胸を穿とうとしていた。大きさは西洋の槍と変わらない大きさであり螺旋を描きながら迫る。それを右に避けツラナギの言っていたことを振り返った。
「強い感情・・・」
自然と呟いた言葉は今の状況に対しての感情だ。思えば助けようとしたらありがた迷惑だったと説明され更に稽古と称しての一方的な甚振り。このような状況を今まで理性で抑えつけていたのだ。ツラナギの言葉通りなら理性の枷を外せば魔法が使えるかもしれない。
「怒り・・・憤怒・・・炎・・・?」
「なにブツブツ言ってやがる!」
タケミカヅチが今にも振り下ろそうとした大剣は自分を切り伏すことはなく、剣は右側へと弾き出された。
「ほう」
「おやおや」
「へっ、出来たじゃねえか」
三人が感心しているが、今の自分にとってはどうでも良かった。それよりも自分は弾かれたままである大剣を見つめながら考えていたことを振り返っていた。強い感情、そして想い。始めに怒りを思い浮かべた。次に学校で習ったある偉人の言葉を思い出しこう考えた。この想いを一瞬でも爆発させれば良いのかもしれないと。
その考えに至った瞬間、何かが流れていく感覚を味わいながら自分の想いを大剣へとぶつけてみた。結果、自分に振りかぶった大剣が弾かれ横を掠めていった。もしも、なんて考えは無く確かな確信だけがあった。
「まぁ赤点だが良しとしとこうか」
そう言って、大剣を見つめていた自分に蹴りを入れられ、為す術もなく崩れ落ち気絶した。だがその表情は、してやったりと言うかのように笑っていた。