ダレイ国
「ここがダレイ国」
異世界初の街が王国とは驚いた。こういった異世界物は小さな町からと相場が決まっている、と思い込んでいたからだ。周りは白を基調とし所々、金で装飾をしている建物が多い。中央部には一際大きな建物が存在し、他の建物より金を使っている箇所が多い。
「この国の王様はトロヴァ・スレイ・ダレイと言う人物らしいぞ」
彼らどころか国民すらここ最近、見たことがないらしく噂では重症を患ったとか死亡しただとかよくわからない噂ばかりが横行している。
「まぁ、私たちには縁がないと思いますがね」
移動している間にこの世界の文字や文化について聞いてみた。
彼らはその土地の状況でどういったことが起こったのか分かるらしい。勿論、文字も例外ではない。
だが、自分は全く知らないので困ったことになってはいる。
「文明的には中世以前と考えるのがいいぞ。あちらの世界の様に銃なんてものもう無いがな。それに文字は小さい頃に習ったように段々と慣れていけば良い」
なんでも銃は昔には存在したが、魔法が発達している今だと誰でも使えるが精巧な作りの銃は評判が悪かったとのこと。それなら簡単な魔法を放つほうが効率が良いとの考えが芽吹いているからこその評判の悪さに拍車をかけているのだろう。現代文明を知っている身としてはなんと勿体無い事だと思い、それと同時に素晴らしい事だとも思った。
そうこう話しているうちにたどり着いたのは、所謂ギルドだ。ファンタジー好きな者にとっては憧れの場所であり、冒険者にとっては富と名声を得るチャンスの場でもある。同時に情報収集の場でもある。
「ほら、依頼の魔獣とその素材だ」
そう言って向こうでタケミカヅチは、さっきの狼の死体の山から取り出した袋いっぱいの牙を受付嬢に渡した。
「こ、こんなにですか!?」
何やら驚いているが何があったのだろうか。まぁ気にせずこちらは情報収集をしていた。
「スサノオ?誰だそれ」
自分がこの世界の言葉を分かってしまうのは神様の加護のおかげらしい。便利すぎると思いながらも自分も他の人に聞いて回ることにした。
「そっちはどうだった?」
「空振りです」
「そちらは何かありましたか?何か驚かれていたようでしたが」
なんでも狩りすぎて驚かれていたようだ。と、言っても向こうから掛かってきたので迎え撃っただけだと言うが本当なのだろうか。
「暇つぶしに追いかけてたがな」
その事は話していないらしくそれで驚かれていたようだ。聞くところによると今は繁殖期で更に凶暴さを増しているので沢山狩っても問題ないそうだ。
「そういえば・・・噂程度でいいなら一つありますけど」
「話してみな」
「この国の王、トロヴァはスサノオと会ったことがあるらしく戦ったこともあるらしいです」
あくまで噂程度だから信憑性は皆無だ。だが、この三人の反応は自分とは違い何やら考え込んでいる様子だ。
「この噂、どう思う?」
「信憑性は皆無。ですが、今の我々には有益なのではないかと」
「まぁ今まで何も出なかったからな。それに比べたら前進したんじゃねえの?でかしたな神堂」
どうやら役にたったようだ。目的は彼らに任せて自分はギルドに登録しにいった。
「すみません~」
「はい、クエストの受注ですか?」
「いえ、ギルドに登録しようと思いまして・・・それでどうやって登録するんですか?」
「新規の方ですね!まずはこちらの契約書にサインをお願いします」
サインと言っても元いた世界の字しか知らないのでとりあえず、元の世界での字を登録した。
「えっと・・・これは・・・」
「俺が元いた場所での字です。もし。訂正するなら代わりに書いてもらっていいですか?」
「あっ、そういうことでしたら大丈夫です」
「では、規約内容などの説明をさせていただきますね」
そう言って受付嬢、名前はレンさんと言う方の説明を受けた。
簡単に言うと、ギルドでは依頼を失敗した場合は違約金として、報酬金の半額を払わなければならない。但し、歩合制の場合は別とする。
歩合制での報酬額は依頼人、契約者双方の価値観が一致した場合のみ支払われる。契約者が不当と思いギルドに申告すれば双方の意見を取り入れ最終的な判断で支払われる。その場合、証拠となるものを必要とし、証拠となるものがなければ依頼者が有利になる可能性が高い。
ギルドに登録すれば、その国のギルド直属の依頼を受けなければならず、断れば違約金及び降格処分とする。但し、ランクに見合ったクエスト以上の依頼に関しては処分は無し。
ランクの上げ方については地道にコツコツとクエストを一定回数こなす必要がある。
または、ランクに見合ったクエスト以上のクエスト及びモンスター討伐、ダンジョン攻略をした場合はステップを飛ばし昇格となる。
そして俺は、概ね同意し晴れて初心者としてブロンズのギルドメンバーとなった!!
そして最後にレンさんから一言。
「では、これからのギルド生活頑張ってくださいね!」
「親切にしてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、これも努めですから」
「それじゃあ仲間が待っているので・・・また来ますね」
「はい!いつでもお待ちしております」
「んじゃあ、行くか」
「ああ」
「本当によろしいんですね」
「どうしてこうなった!」
何やら作戦を立てるとかで考え込んだ三人を放っておいて異世界生活でやってみたいことNo1、ギルドに登録しよう!と言うことで登録をしに行っている間に決定したらしい。どんな作戦かを聞いてみたが実行するまで秘密だという。そして今に至るわけだ。
その夜・・・
「あの、すみません」
「ここからは関係者以外立ち入り禁止だ。お引き取り願おう」
「私達、国王陛下に呼ばれて参りました」
そう言って招待された証のバッジを四人分見せた。
「・・・少し待て」
そう言って一人の門番が中へ入っていくと同時に別の門番に鞘付きの剣で峰打ちした。その剣は風のように速く音を切り門番の着ている鎧をものともせず衝撃波を与えた。
「ッ!?」
何事かと振り向いた瞬間、タケミカヅチの重い一撃が門番を気絶させた。もうこの二人だけでいいんじゃないかな、そんなことを思いながらツラナギと話しながら奥へと進んでいった。
数分散策したがどこにいるわけでもなく玉座へと戻っていった。
「全く、どこにいやがるんだ」
あのあと寝室や諸々調べて回ったがどこにもいなかった。こうもいないとなると秘密の地下室があったり噂が本当にあったりしそうだ。
「ワシに何か用か?」
「「「っ!?」」」
声のする方へと目をやるとそこには居なかったはずの人物がこちらを見下すように見ていた。
「こいつがトロヴァ・スレイ・ダレイか?」
「いかにも、ワシこそがこの地を治めるトロヴァ・スレイ・ダレイだ」
そこにいたのは全身を白銀の鎧で纏った初老の人物だ。その鎧の所々には外と同じように金が装飾されており、胸の辺りには家紋と思しき紋章が刻まれていた。
「あんた、スサノオを知ってるな?」
「スサノオ・・・あのスサノオの事か!?」
「これは面倒なことになりましたね」
スサノオの名前を聞くと静かだったトロヴァ王がワナワナと震え始めた。
「おぬしら、スサノオの仲間か?」
「そんなところだ」
「ハッハッハ、これは丁度良い所に来てくれたもんだ」
そう言いトロヴァ王は指を鳴らした。すると、今まで居なかったはずの兵士達が囲んできた。
「面倒だな・・・」
「あの、何か知っているのですか?」
「知ってるも何も、幻影魔法を使って兵を隠してただけだ」
「ここは私が行こう」
「ほう。そこの女子がこの数を相手に勝てるとは思えんがな」
トロヴァ王の言うことはもっともだ。仮に兵士を倒したとしてもその間にトロヴァ王が攻撃してきては倒すのに時間がかかる。そうなると増援やギルド直属の部隊が押し寄せてくる可能性もある。
「・・・私は志那都比古だ。風魔法を得意とし、日の本の神の一柱だ」
「うむ、礼儀があってよろしい・・・しかし、神を名乗るなど面白いことを言うな・・・トロヴァ・スレイ・ダレイだ。光魔法を司る者。故に、民に光を届けねばならぬ!」
シナツヒコは剣を抜き、トロヴァ王は指揮を取っていった。