神の加護
「つまり、貴方達はスサノオを追ってきたと」
掻い摘んで説明すると彼らは突如、高天原に現れた須佐之男命を追ってきたのだと。その時、スサノオが言っていた事が気にかかった天照大神がを彼らに命を下しスサノオを探し出し状況によっては協力せよとのこと。
「大雑把だがな」
タケミカヅチがイラただしげに吐き捨てると宥めるようにツラナギがやってきた。どうやら独り言は終わったようだ。
「まぁまぁ、そんなに怒らない。この子が怯えてるでありませんか」
血まみれでイライラしてる人?を見ては誰でも怯えるだろう。それが神様の名を語っている者だと特に。
「苛ついてねえよ。で、こいつどうすんだ?」
「我々と共に来るか?」
血まみれで勧誘してくる姿は紛うことなき悪魔。あいたっ!
「君は随分と生意気なんだな」
どうやら自分の考えていることはお見通しのようだ。これからどうするか悩んでいるとツラナギが提案してきた。
「ここは神と人、ともに手を取り合おうではありませんか。あの方を探し出さないとあなたの居た世界に問題が起こるかもしれませんし」
「ツラナギ、喋りすぎだ」
どういうことか説明を要求すると、罰が悪そうにツラナギが答えた。
「えっとですね・・・高天原に来たスサノオが去り際にこう申したらしいのです」
ー俺が止めないとこの世界は黄泉の国と同じになるー
その事に疑問を抱いたアマテラスはスサノオに説明を要求するが返答は無く去って行ったという。そしてツラナギ、シナツヒコ、タケミカヅチの三神はスサノオを追ってきたと。
「・・・そちらの事情は分かりました。ですが、自分は戦力外ですよ?」
そう、自分は人なのだ。神々と対等な立場に無くて当然なのだ。それが力を使うとなると尚更だ。
「大丈夫だ。君は我々と共に来てくれるだけで良い。その方が君のことも守りやすいからな」
「それに、この世界には所謂魔法と呼ばれるものが存在している」
そう言ってシナツヒコは宙に浮いてみせた。
「魔法には驚かないんだな」
「異世界なんだから魔法も存在して当然だと思ってましたから」
「だが、戦闘になったらその思い込みは捨てることだな」
事実、この世界ではの住人は魔法が使えるし、魔獣も存在する。なんて王道的な異世界なんだろうと思っていると釘を刺されてしまった。それにしてもシナツヒコは俺を戦力にしようと思っているように感じる言動が多い。
その疑問を察してかシナツヒコが答えてくれた。
「君には、とある神の加護がある」
そう言って剣を横薙ぎに振るってきた。無論、動けないで真っ二つ。にはならず、その剣は空を切った。
「今のは一体・・・」
自分でも分からなかったが、自分がいた場所より数メートルも下がっていた。
「その神が誰なのかは私達にはわからない。だが、君に神の加護があることだけは分かっている」
その説明を受けて自分はゾッとした。なんせ彼女たちですら、誰が付いているのか分からないからだ。もしこれが身体に働きかけない神様の加護だった場合、真っ二つにされてもおかしくはなかったからだ。そう考えているとシナツヒコが笑いながら謝ってきた。
「すまない、さっきの礼だと思ってくれ」
「戦闘に役に立たない神はこっちには来ないと思うぜ」
「何せ、スサノオ様絡みですからねぇ」
と、言いたい放題の神様達に弄ばれたわけだ。納得がいかないと思っていたら今度はタケミカヅチが大剣を突いてきた。それを僅かに左に躱し重心がズレた瞬間、右腕がタケミカヅチの鳩尾を捉えた。
「・・・」
「ほらな」
自分でも付いていけない反応速度で一連の流れを決めていた。まるでそうするように動くのが当たり前のように。
「武術に長けている神なのかもしれませんね」
武神と言うとタケミカヅチが真っ先に上がるが本人?は目の前にいるし、何者なのだろうか。もしかしたら西洋の神様なのかもしれない。
「それか、もともと君には才があったのかもしれない」
「なんにしてもそこらの魔獣相手には不足なしだな」
やっぱり戦うのか。せっかくの異世界だしそう言った楽しみもありなのかもしれない。だが事が事なだけにのんびりと、という訳にはいかないのは少し残念ではある。
「そういえば、俺は元の世界に帰れるんですか?」
異世界という言葉に浮かれていたが大事なことを聞き忘れていた。疑いを感じつつも信じているということだろうか。
「結論から言うと、無理ではない。だが、戻ったとしても轢かれる瞬間に戻ることになるぞ」
「この世界に居続けなければならないわけか・・・」
学生生活をエンジョイできていないので残念だ。家族とももう会えない、友人とも。未練ダラダラで元いた世界を去るのはあまりにも無念だ。
「今回の件、上手くやれば向こうでも生きていけるかもな」
今回の騒動が丸く収まれば神の加護によって生きていけるそうだ。もちろん電車なんかとぶつかる訳だから瀕死にはなるらしいが。
「それでも未練があるよりはマシかな」
二度と会えないという恐怖よりマシだとこの時はそう思っていた。