つり橋で・・・
高い場所は風が強い。
私達二人は高い場所へ行き風に当たる事が大好きだった。
「まるで仙人の住処ね」
「そうだな、下の方が雲でまったく見えないよ」
二人でそんな会話をしながら昼食を取っていた。
「昼飯も食べたしそろそろ下山しようか?」と彼が言った途端突風が吹いた。
「大丈夫か?凄い突風だったな、下の方雲で見えなかったのに今の突風で吹き飛んじまった」
「あなたあれ見て、登ってくる時は気づかなかったけれどあんな所につり橋があるわよ」
「ほんとだ、まだ時間もあるしあのつり橋の向こうに行ってみよぜ?」
この時の私は好奇心の方が勝っていて危険性について考えていませんでした。
私達はつり橋の丁度真ん中で足を止めました。
「こんなに凄い景色見た事無い」
「テレビの絶景特集もこの絶景には敵わないな」
二人ともただただこの絶景に見惚れていました。
その時です、強風が吹いたのは。
つり橋の上という事もとても揺れました。
私達はとっさにロープにつかまり揺れが収まるのを待とうとしました。
「うわぁ」と叫んだのは彼でした。
彼の足元の木が落ちたのです。
彼は別の板に掴まりなんとか落下は免れました。
しかし、不幸は去っていません。
彼が動くとつり橋が揺れるのです。踏板はギシギシと音を立てるのです。
彼が助かろうとして動くとつり橋が落ちるかもしれないのです。
私に落ちるかもしれないという恐怖が生まれました。
「揺らさないようにリュックを下に落として」と私は彼に言いました。
この時私の声は震えていたと思います。
私は発狂しそうだった事を覚えています。
私の姿を見ていたからでしょうか、彼は自分が一番危険な状況なのに至って冷静に背負っていたリュックを下へ落とそうと頑張っていました。
リュックが下に落ちた時私はこれで彼は助かると思っていました。
彼が這い上がろうとすると私は「ゆっくりね、慎重にね」と言っていました。
「解ってるよ」そう言って彼は踏板に力をかけました。
バキッっという音が聞こえると共に私の腕が下へと引張られました。
彼が力を入れた踏板が割れ、彼はとっさに私の腕を掴んだのです。
「頼む、引き上げてくれ」とさっきまでの声とは違い焦りを感じました。
彼を引き上げるために私も必死になっていました。
運命は残酷でした、また強風が吹いたのです。
彼は振り子のようになっていました。
「た、頼む離さないでくれ」彼は必死に叫びました。
ですが私は男の人を長時間支えるだけの力がありません。
今でも彼の恐怖に歪んだ顔が私の頭から離れてくれません。
強風が止んだ時私は肩の荷物が降りた感じがしました。
ですがすぐに、助けられなかったという罪の意識が私を蝕みました。
私は高い場所に行くことを止めました。
しかし、またすぐに高い場所へ行くようになると思います。
パートナーを連れて・・・。
「おかあさーん、風鈴についてた短冊落ちたーテープどこー?」