表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今を生きろ  作者: 豆腐
31/32

今を生きる

「群青!!」


 真壁の距離からでも、銃らしきもので撃たれた群青が、頭部から出血しているのが見て取れた。


「どうなってんだよクソ!お前ら友達じゃなかったのか?」


 振り向いて椎名を見る。椎名は驚愕を抑えきれず目を丸くしていた。心底震えていた。


「どうするんだよ!俺達も近づいたら狙われるのか?群青みたいに殺されるのか?」


 椎名は何も言わなかった。


「おい、どうすんだよ?もう逃げた方がいいんじゃないか?逃げようぜ、なあ。無理だよ。何か知らんが銃だぞ。群青みたいに撃ち殺されちまうよ」


「ううん、逃げる必要は無い」


 椎名が首を横に振り、ぼそりと呟く。真壁には椎名の真意が分からず、全く納得も安心も出来なかった。


「どういう意味だよ?」


「逃げる必要も無いし、私達が向かう必要も無い。もう私達に出来ることは何も無いし、もう役目は終わったみたい。あとはきっと、群青くんが終わらせる」


 椎名は震えていた。


 群青の今の想いを、全て感じていた。


「あれほどの覚悟が出来るなんて…」


 椎名は『シックス・センス』で気づいていた。まだ群青が終わっていないことを。


 その心に、決意の炎が燃え広がっていることを。


 生きようとする意志、生きる覚悟の炎に椎名だけが気づいていた。


 生きる覚悟は出来ていた。




 手を貫いた弾は衝撃を頭部まで伝えて、群青の頭部を仰け反らせた。


 だが仰け反ってもなお、群青の瞳は筒井を捉えていた。


 頭部に衝撃以上のダメージは無い。弾は止めていた。弾は貫いた手の裏から、僅かに顔を出していたが、大部分が傷口の中で留まっていた。


 開いた手の穴から衝撃で飛び散った血が、群青の顔を紅く染めていた。しかし頭部には衝撃以外のダメージは一切無かった。


「触れて『能力』を発動させた」


 弾が手の平に触れた瞬間に『能力』を発動して、即時に解除していた。弾は『能力』の影響を受けて発動した位置まで戻る。貫通しきった位置から手にめり込んだ位置まで戻ることで、顔面まで届くことは無かった。


 コンマ一秒程の猶予も無かった。だが成功した。生きるための必死の決行だった。


 生きたいのだ。自分の未来のために、友の未来のために。


(――『能力』は自分の想いの本質だ)


 群青は思い出していた。かつての木田のやり取りを。


(あの時は…そうだ、名前の話をしていたんだ。『能力』の名前の話だ)


 それなら名付けよう。今のこの想いを、この決意を。忘れないように『能力』に込めよう。そこに刻もう。


「『シーズ・ザ・デイ(今を生きる)』」


 群青は跳んだ。足をくじいていたがこの瞬間には痛みを感じず、身体は淀み無く自然に動いた。一歩で筒井の懐まで飛び込んだ。


 穴の開いた右手を振り上げる。筒井は呆然としていた。銃は依然として群青に向けていたが力は無く、先程までの覇気は消え失せていた。


 勝負は決しつつあった。そして決着の一撃は打ち込まれた。


 群青の振り上げた全力の拳は、手の中に弾を埋め込んだまま筒井の頬を勢いよく殴った。


 一切身構えていなかった筒井は、何の抵抗も無く吹っ飛び、受身も取らずに床に転げ倒れた。


 筒井は床に突っ伏して呻くが、立ち上がることも顔を上げることも無かった。


「筒井、君が何度撃っても、僕は止められるぞ」


 群青は筒井に向かって言い放つ。見下しているわけではない。冷酷でもない。ただ事実を宣言していた。


 強がりではなく、今の群青には精神的にどんな攻撃でも止められる感覚があった。


 …筒井は吹っ飛んだ際に銃を落としていた。意識はあったがそれを拾いに行くことは無かった。何もしない、という行為は言葉よりも雄弁だった。


 やがて筒井は顔を上げて群青を見た。群青の手から止めどなく滴り落ちている血を、力無く見つめていた。


 その血は覚悟の表れであり、生きることそのものの象徴にも見えた。


 どちらが意思を貫き通すか。その決着は着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ