今を生きる
「群青!!」
真壁の距離からでも、銃らしきもので撃たれた群青が、頭部から出血しているのが見て取れた。
「どうなってんだよクソ!お前ら友達じゃなかったのか?」
振り向いて椎名を見る。椎名は驚愕を抑えきれず目を丸くしていた。心底震えていた。
「どうするんだよ!俺達も近づいたら狙われるのか?群青みたいに殺されるのか?」
椎名は何も言わなかった。
「おい、どうすんだよ?もう逃げた方がいいんじゃないか?逃げようぜ、なあ。無理だよ。何か知らんが銃だぞ。群青みたいに撃ち殺されちまうよ」
「ううん、逃げる必要は無い」
椎名が首を横に振り、ぼそりと呟く。真壁には椎名の真意が分からず、全く納得も安心も出来なかった。
「どういう意味だよ?」
「逃げる必要も無いし、私達が向かう必要も無い。もう私達に出来ることは何も無いし、もう役目は終わったみたい。あとはきっと、群青くんが終わらせる」
椎名は震えていた。
群青の今の想いを、全て感じていた。
「あれほどの覚悟が出来るなんて…」
椎名は『シックス・センス』で気づいていた。まだ群青が終わっていないことを。
その心に、決意の炎が燃え広がっていることを。
生きようとする意志、生きる覚悟の炎に椎名だけが気づいていた。
生きる覚悟は出来ていた。
手を貫いた弾は衝撃を頭部まで伝えて、群青の頭部を仰け反らせた。
だが仰け反ってもなお、群青の瞳は筒井を捉えていた。
頭部に衝撃以上のダメージは無い。弾は止めていた。弾は貫いた手の裏から、僅かに顔を出していたが、大部分が傷口の中で留まっていた。
開いた手の穴から衝撃で飛び散った血が、群青の顔を紅く染めていた。しかし頭部には衝撃以外のダメージは一切無かった。
「触れて『能力』を発動させた」
弾が手の平に触れた瞬間に『能力』を発動して、即時に解除していた。弾は『能力』の影響を受けて発動した位置まで戻る。貫通しきった位置から手にめり込んだ位置まで戻ることで、顔面まで届くことは無かった。
コンマ一秒程の猶予も無かった。だが成功した。生きるための必死の決行だった。
生きたいのだ。自分の未来のために、友の未来のために。
(――『能力』は自分の想いの本質だ)
群青は思い出していた。かつての木田のやり取りを。
(あの時は…そうだ、名前の話をしていたんだ。『能力』の名前の話だ)
それなら名付けよう。今のこの想いを、この決意を。忘れないように『能力』に込めよう。そこに刻もう。
「『シーズ・ザ・デイ(今を生きる)』」
群青は跳んだ。足をくじいていたがこの瞬間には痛みを感じず、身体は淀み無く自然に動いた。一歩で筒井の懐まで飛び込んだ。
穴の開いた右手を振り上げる。筒井は呆然としていた。銃は依然として群青に向けていたが力は無く、先程までの覇気は消え失せていた。
勝負は決しつつあった。そして決着の一撃は打ち込まれた。
群青の振り上げた全力の拳は、手の中に弾を埋め込んだまま筒井の頬を勢いよく殴った。
一切身構えていなかった筒井は、何の抵抗も無く吹っ飛び、受身も取らずに床に転げ倒れた。
筒井は床に突っ伏して呻くが、立ち上がることも顔を上げることも無かった。
「筒井、君が何度撃っても、僕は止められるぞ」
群青は筒井に向かって言い放つ。見下しているわけではない。冷酷でもない。ただ事実を宣言していた。
強がりではなく、今の群青には精神的にどんな攻撃でも止められる感覚があった。
…筒井は吹っ飛んだ際に銃を落としていた。意識はあったがそれを拾いに行くことは無かった。何もしない、という行為は言葉よりも雄弁だった。
やがて筒井は顔を上げて群青を見た。群青の手から止めどなく滴り落ちている血を、力無く見つめていた。
その血は覚悟の表れであり、生きることそのものの象徴にも見えた。
どちらが意思を貫き通すか。その決着は着いた。




