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今を生きろ  作者: 豆腐
18/32

訪問

「全く危険ではない、という保証は無いんだが」


 放課後の家庭科室で木田は群青に話しかけていた。前日のうちに群青は携帯で木田に相談していたが、メールでは木田は快諾しておらず、会って話してもなお、反応は渋かった。


 椎名と筒井はまだ来ておらず、今居るのは二人だけだった。


 これから群青達は香田の居る場所へ赴こうとしていた。当然、事件の手がかりを探るためである。


「香田が『能力者』であることが確定している以上、何かが起きても戦力にならない奴を連れて行ってもしょうがないだろう」


「『能力』があっても戦う力になるとは限らない。実際に僕や真壁さんの『能力』には攻撃性自体は無い」


 何かが起きることを前提に考えている木田にいささかの不安は感じつつも、筒井の参加を受け入れてもらえるよう群青は説得を続けた。


「男一人分の力があれば、何かと助かるかもしれないじゃないか」

「まぁそうだが」


「それに彼は巻き込まれた人間として、事件の真相に納得をしたいらしいし、僕もその点について気持ちは分かるから、尊重してあげたい」

「…分かった。納得は確かに大事だ」


 思っていたよりもこじれずに、木田は受け入れてくれた。


(…多人数で行った方が香田に対してプレッシャーになるかもしれない、という判断もあるのだろうか)


「ただし筒井という奴には『能力』については説明をしない。言っても理解するのに時間がかかるだろうからな。行った先の状況しだいで俺やお前が『能力』を使うことはあるかもしれない。だが説明はしない。椎名の『シックス・センス』についても教えない。それでもいいか」


「ああ、僕も筒井に教える気は無い」


 程なくして筒井がやって来た。筒井と木田が簡単な自己紹介をしていると、椎名もやって来た。椎名とも面識が無かったので二人は簡単な挨拶をした。


 その後に四人は学校を出た。




「こっちだったはず」


 椎名が先行して道を歩く。


 校門を出て間もないうちに、椎名はかつて香田を見つけた経緯を説明してくれた。


 当時、椎名が『能力者』の匂いを嗅いだのは道端だった。誰から匂いがするのかと観察していたところ、どこかへ向かおうとしている男から匂いがするのだと気づいた。それが香田だった。


 バレないように後をついて行って、男がある建物に辿り着いて中に入るのを目撃した。その建物がこの近くにあるはずだった。


「真壁のコンビニに引き続いて、香田の拠点も高校からそう遠くないのは楽でいいな」


 歩きながら木田が言う。


「この場所の感じだと、高校からここへ向かう際に少し寄り道をすれば真壁のコンビニだな」

「それは、真壁さんに伝えた方がいいのかもしれないな」


 群青は言うが、心中では他人より自分を心配していた。あと数分程度で危険人物と言われている者の拠点にたどり着くのかと思うと、気が気でなかった。


「あった。この道を真っ直ぐ行って突き当たり」


 椎名が言い、他三人は前方を眺める。


「…?正面には倉庫のようなものが見えるけど」


「そう。その倉庫に入っていったの」


「おい椎名、居場所を特定したと言っていたけど、あれは家じゃなくて奴が働いている会社の倉庫かなんかじゃないのか?」


 だとすれば、今絶対にあそこに居る保証はない。


「…目の前についたら改めて見てみたいんだけど、どうも会社の倉庫とかそういうのじゃないと思うの。まるで家のような雰囲気なの」


 とりあえず倉庫の前まで四人は歩いた。


 手前まで来たが、その建物は明らかに倉庫だった。


 敷地は腰ほどの高さの塀に囲われており、群青達の目の前には敷地に入る門があった。校門のような作りで今は閉じられている。門のそばには小さな勝手口があった。


 敷地には大型の倉庫が一つだけあった。倉庫には車二台は同時に通れそうな横長のシャッターが付いている。金属製で上下に開閉するものだ。シャッターは完全に閉められているので屋内は見えない。


 今日は平日だったが、何かの作業をしている気配は無かった。


「やっぱり普通の倉庫じゃないか?」

「うーん。でもね、あそこ見て」


 椎名が指さした先には、倉庫の壁にもたれかかっている自転車があった。


「私が追跡して、香田が倉庫の中に入った時もあそこにあったの。何だか仕事用には見えない気がする」


 確かに自転車はロードバイクと呼ばれるもので、基本的に会社員が業務で使うものではない。


「確かにな。だが誰かの通勤用自転車が放置されているだけかもしれない」

「それと、あれ」


 次に椎名が指さした先には、ゴミ袋があった。倉庫に隣接して水道場があり、その付近にごみ袋が二つ、三つ転がっていた。


「仕事で出たゴミかもしれないけど、でもあれは生ゴミのようにも見える」

「…生活感があるってことか?」


「うん…あともう一つ気づいたことがある」

「今度はなんだ?」


「建物内から一人分の気配がする」

「…最初にそれを言えよ」


 何も知らない筒井が居るためか『匂い』という単語を用いなかったが『シックス・センス』により一人分の存在を確認したと告げているのだと、群青と木田は理解した。


「だがそれが香田だとは限らないな。どうするか」

「ここにインターホンがある。コレを押したらどうかな」


 木田の悩みに筒井が答えた。香田への警戒心ゆえに、筒井の提案には木田は眉をひそめたが、倉庫の前で立ち止まっていても埒が明かないと判断してか、インターホンを押した。


 しかし反応が無く、スピーカーからは何の音も声もしなかった。


「電源は繋がっているみたいだが…椎名、何か反応はあったか」

「…反応は、ある。こちらに気づいている」


 『匂い』の質が変わったということなのだろう。ジワジワと群青と木田に緊張が訪れてくる。


「…警戒の度合いが上がった。おそらくこちらからは気づきにくいように窓の隙間とかで覗いているんだと思う。こちらが複数人だと知って、警戒心が増したんだわ、きっと」


「椎名さんって目がいいんだね」


 筒井は呑気に話しているが、群青と木田はあまり落ち着いていられなかった。


「木田、どうする」


「香田ではないただの従業員がこちらを見ているって可能性も普通にあるからな。ここでまごまごしていても全くの無駄骨かもしれん」


 言いながらインターホンに再度手を伸ばした。


「今はガンガン行こう」


 再び押す。やはり無反応だった。だが群青達は建物内に何者かが居ることを知っているので、無反応であるほど不気味だった。


「椎名、どうだ」


「相変わらず警戒している。このままだと膠着状態かもね」


「諦める気がないって意志を見せた方がいいかもしれないな」


 木田はさらに三度目のプッシュをする。


「大丈夫か。木田」


 群青は慌て始める。


「状況を変えようとしないとどうにもならん」


 木田もどう動けばいいか測りかねている様子だった。だが今度は反応があった。インターホンのスピーカーから、受話器を取る音が聞こえてきた。


「…どちらさん?」


 若い男性の声だった。木田が答えた。


「…香田さんのご自宅ですか?」


 直球だな、と群青は思った。数秒の沈黙の後に返事が帰ってくる。


「…まぁ、そうだけど」


 椎名の言うとおり、香田は倉庫で生活していた。


「あなたが香田さん?」

「そうだけど、そちらは?」


 男の声が少しイラつき始めているのを四人とも感じていた。群青はとにかく落ち着かない気持ちだった。


「俺達はただの高校生です。でもあなたと話したいことがあって来ました。『能力』のこととかで」


 木田がはっきりとその言葉を口にして、そして沈黙が生まれた。


 香田は何も言わなかった。群青は今すぐ木田に話しかけたい思いだったが、インターホンのマイクが起動している限りは迂闊なことは言えない。椎名も顔を強ばらせている。状況を分かりかねているはずの筒井も、周囲の雰囲気を察してか顔を強ばらせていた。


 数秒、あるいは十秒以上経って香田が発声した。


「いいだろう。具体的なことはよく分からないが、話を聞こう。入ってきてくれ」


 そう言った後にガチャリと受話器を下ろす音が聞こえた。交信が消えたのを見計らって群青が木田を問い詰めた。


「おい、こんな堂々と話を切り出してよかったのか」


「仕方ないだろう。向こうの興味を引かない限り会えそうにないんだからな。流石に安住の名前を出したら逃亡されるかも分からんので言わなかったが」


「しかしこれではこっちも『能力者』だと言っているようなものだろう」


「『能力者』?」


 筒井が疑問の声を上げたが、それに返事をする余裕のある者は居なかった。


「だが群青、真壁の話を聞く限り、香田は人材を欲しがっているのだろう。『能力者』を上手く利用して悪金を稼ごうというつもりらしい。それならば俺達も『能力者』だと知っている方が、好意的に接してくれるかもしれない」


 木田の推理は全く無根拠というわけでもないと聞いて感じたが、しかし早々にこちらから切札のカードを切ってしまったような、時期尚早だった感覚が拭えない。


 その時、倉庫から音がした。シャッターが開き始めたのだ。地面に接触していた下部から上へと開いていく。だが百センチほど空いたところで止まってしまった。


「少し開けたから、とっとと入って来いということかな」


 木田が分析する。


「入るのか」


 群青は聞くが、木田がどう答えるのか既に知っている。悪い予感もする。


「ああ、入るしかない」


 勝手口を通り木田は敷地の中に入って行った。やむを得ず群青も中に入る。特に警戒していなさそうな筒井は群青につられて入った。


 それに気づいた木田が筒井へ話しかけた。


「これから香田という男に色々問い詰めなければいけないんだが、楽しい雰囲気にはならないことはほぼ間違いないぞ。来るのか?」


 群青は少し不安そうに筒井の顔を見たが、筒井は、


「いや、大丈夫だ。僕も知りたくて来たのだから、このままついて行くよ」

「そうか、わかった」


 筒井が毅然とした態度で返事をしたことに、群青は軽い驚きを覚えた。心を弱らせて休校している生徒とは思えなかった。それほどに関心があるのだろう。自分を巻き込んだこの騒動について。


 木田とのやりとりを経て、筒井は歩をさらに進めた。


 筒井の決意に驚く一方で、群青は再び悩んでいた。これから起こるかもしれない事態は、筒井が想像しているものを遥かに上回るかもしれない。それを予感しながら何も言わないのは、筒井に対して冷たいような気がしていた。


 だが群青の中で思考は定まらず、何も決まらない間も状況は動き続けている。結局、筒井に止める最後のタイミングを失った。


 三人に続いて椎名が勝手口をくぐり中に入ろうとした時、木田が椎名を止めた。


「椎名はここで待っていてくれ。何か仕掛けてこないかどうか、まずは確認する。危険で無いと判断したらこちらから呼ぶ。そしたら入ってきて、奴の発言の真偽を確認するんだ」


「最初の接触の際に、相手の考えていることを間近で伝えられないけど大丈夫?」


「それはやむを得ない。だがここからでも奴の感情は伝わってくるんだろう?もし、奴から強い敵意を感じたらここから叫んでくれ。それで対応する」


 会話の意味が全く分からないのだろう。筒井が不審そうな表情をしていたが、木田も椎名も無視していた。


「分かった。…今気づいたけど、気配は少しだけ上方から感じる。あの倉庫には二階部分があって、そこに居るみたい」


 椎名と一時的に別れて、三人は敷地の中へ入って行った。

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