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今を生きろ  作者: 豆腐
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瞬間移動

 次に何をしてくるのか、と群青は身構えた。だが振り向いて顔を見せた男の表情に戦意は無かった。


「お前らなんなんだ?」


 男は聞きたいことが色々あったのだろう。それが混乱で絡まってようやく出てきたのはその質問だった。木田は答えず男に近づいて屈む。


「安住彰という男を知っているか」

「いったいなんの話だ?」


 木田がチラリと椎名を見る。椎名は右手で左手をさすっていた。その様子を見た群青は訝しがる。


(怪我したのか?しかし椎名は何もされていないはず)


 群青は妙に椎名の動きが気になった。木田は尋問を続けていく。


「最初の防犯アラームをこっちに…飛ばした、と言うべきなのか。アレはお前がやったのか。お前の『能力』なのか」

「…だから何の話だ?」


 椎名が自分の髪をいじる。それを見た木田が一気に声量を上げる。


「おい!しらばっくれるな!お前は何かの『能力』を持っているんだろう!どういう『能力』か説明しろ!」


 木田の怒声に驚いた男が呻く。


「分かった。驚かしただけだ。誰も怪我していないだろう」

「お前の『能力』のことだな?」


「多分、アンタらの言う『能力』と俺が考えているものが同じならな。飛ばしたのは俺だ。だけどアンタらが尾行なんてするからいけないんだろうが。俺は高校生にカツアゲでもされんのかと思ってビビらせようとしただけだ」

「飛ばした…?」


 群青が不思議がるばかりだったが、木田は男に凄みつつもまたチラリと椎名を見た。椎名は再び手をさすっていた。


「…そうか。もう一度聞くがお前は安住を知らないんだな。安住を殺してはいないんだな」

「誰だって?誰を殺したって?そんな名前の奴は知らないよ」


 男が答えてすぐに、椎名が三度目の手をさする行為をしたのを群青は見逃さなかった。その様子を木田が一瞬見たのにも気づいた。


(これは嘘発見器だ)


 椎名の『シックス・センス』は相手の感情を匂いから知ることができる。焦りや虚偽の感情の匂いがするかしないかで、相手の嘘を見分けているのだろう。


(おそらく真実を言っている場合は手をさすって、嘘を言っている場合は髪を触るんだ)


 木田が群青に椎名の『能力』について説明する時も、椎名の承認をわざわざもらってから説明していた。その性質を考えれば『シックス・センス』の内容は最低限の者だけが知っているべきだからだ。


 取り急ぎ、木田が聞きたいことはもう聞けた、と判断した群青は男に話しかけた。


「お名前を教えてもらえませんか」


 男は素直に応じた。


「…真壁まかべ昌弘まさひろだ。年齢は今年で十八歳。アンタらのOBだよ。制服で分かる。まぁ俺は中退したから在籍してないけどな」


 聞かれた以上の情報を提供する男、真壁だった。


「じゃあ…『能力』について教えてくれませんか」


 群青は終始敬語で話した。相手が年上ゆえだ。


「…アンタらの言う『能力』ってつまり、上手く説明できない特技みたいなことだろ。俺はざっくり言えば物を運ぶことができる」

「物を運ぶ?」


 木田が聞き返す。真壁はそれまで尻餅を付いていたが、ここで重たそうに腰を上げた。群青も木田も一瞬身構えるが、男に逃げる意思は無さそうだった。ただ地べたに座り続けることに抵抗があったのだろう。


「さっきアラームを運んだろ?あんたの手の方に、あれだよ。そしてそれが全てだ。ただそれだけ」


 言いながら真壁はポケットに手を突っ込む。真壁の一挙一動に木田はまだ警戒しているようだったが、この動作も他意は無く男はすぐに手を出した。手にはライターがあった。


「差し障りが無ければ、改めてお披露目するが」


 木田は再び椎名を見た。椎名は不自然でないような動きで手をさする。


(嘘は言っていない。この場合は好きにやらせて問題ない、という合図か)


 群青は推理する。知らない人と会話をする際には椎名の『シックス・センス』が抜群に役立つことを実感していた。


「よし、やってみてくれ」


 木田が頼むと真壁は三人に見せたライターを拳で握って隠す。


「おい、隠さずにやってみてくれ」


 木田の要望に真壁は困った顔をする。


「手でしっかり包んだ方が早く移動するんだけどな。まぁいいや。…この力は俺自身と、俺と目が合っている奴の手の中の間で、物を自由に行き来させる力だ。だから…今からアンタの手の方へ移動するよ」


 木田が指定される。


「目が合っていないと移せない。やるぜ」

「いいぞ」


 言ってから一秒か二秒あたりで、忽然と真壁が持っていたライターが消えた。幻でも見ていたかのように一瞬にして消えたのだった。直後に木田はたじろぐ。全く無意識のうちに手にライターを握っていたのだ。


「瞬間移動みたいなものか」


 目の前の超現象について若干驚きつつも、木田は割と冷静に感想を述べる。真壁は何故か得意げだった。


「条件はいくつかあるけどな。それにあまり大きな物は移せない」

「これが『能力』の全てなのか」

「全てだよ。誓ってこれが全部だ」


 再び椎名が手をさする。


「アンタ自身に聞くのも変かもしれないが、この『能力』は応用しだいで人を殺せるか?」

「何を言ってんだ?」


 真壁は信じられない、といった表情で答える。


「これで全てだって言ったろう。これで人を殺せるか?」

「瞬間移動なら、相手の体内に移す事もできるんじゃないか」


 群青は木田の発言の趣旨を理解した。安住の死因が心不全からの心臓麻痺である以上『能力』が心不全を引き起こせるものかどうか推理しないといけない。


 一見殺傷能力の無い『能力』だとしても使い方しだいで殺人が成立させられるかもしれないのだ。


 だが真壁は溜息を吐いて、否定の意思表示をした。


「言ったろう。手の中じゃないと移動できないんだ。それがルールだ。それを守らないと絶対にこの力は使えない。そして目が合っていないと出来ない。これらの条件が満たされていないとどうやっても使えないんだ。そういうもんだと俺は割り切ってる。嘘じゃないぜ」


 真壁の説明には真実味があると群青には思えた。群青自身の『能力』にも条件があり、物体に触れないと成立しない。木田も物体を叩かないといけないので同様だ。椎名も匂いを嗅ぐという手段を取らないといけない。


 条件がある、というのが『能力』の共通事項がなのだと、群青は直感していた。


 ふと真壁は自分の手をみんなの目の高さまで上げた。木田の手に移したはずのライターをいつしか持っていた。


 再び物体の移動を行ったのだ。


「目が合っている間に、再び移動させた」


 真壁は簡単に解説をする。


「子供の防犯アラームを拝借した時も、その『能力』を使ったんですか?」


 群青が聞くと、真壁は渋い顔で首を横に振る。


「アレは五百円玉渡して買い取ったんだ。子供は防犯アラームを手に持っていなかったしな。親か学校にもらった大切な物を売り飛ばすなんて、どーいう神経してんだろうな」


 児童から防犯アラームを買い取ろうとする方もどうかしている、と群青は内心思った。


「さて、何かを調べた結果、俺のところへ来たという感じがするが、最低限の誤解は解けたかな?」


 真壁が聞くと三人とも黙る。三人とも真壁は犯人ではないとほぼ確信していたが、真壁という男についてまだどこか測りかねている思いがあった。


「まだ話したいことがあるなら、もっと穏やかなかたちで話し合いたいもんだけどな」


 真壁はそう言って肩を竦める。自分が少しずつ警戒されなくなってきていることに安堵を感じているのだろう。最初の頃より余裕さを感じる。


「分かった。もうちょっと話を聞かせてくれないか」


 木田が言い、真壁は頷く。


「まぁ何かの縁だ。協力するよ」


 結構人がいいな、と群青は思った。


「でも俺の原付どうなっちゃったんだ?これ直るのか?」

「ただのエンストだ。盛大には壊れないように調節した。もう一度エンジンを点ければ問題ないはずだ」

「そうか?よく分からないが何かやったのか。すごいな」


 真壁が原付の無事を確認したあと、四人は近くにあった適当なカフェへ向かった。






 カフェテラスで四人は小さな丸テーブルを囲んでいた。全員注文を終えて席に着き、自由に飲み物を飲んでいる。


(最低限の警戒は解けたとはいえ、今度はリラックスしすぎではないか?)


 と群青はコーヒーを飲みつつも疑問に思った。木田と椎名は今のところ黙っていて、それぞれの飲み物を飲んでいる。木田もコーヒーで椎名はホワイトホットチョコレートなる飲み物を飲んでいた。


「年長だけど奢らなくてすまねえなあ。つってもたかが二歳差だしな」


 群青の右側に座っていた真壁が苦笑しながら言う。真壁はコーヒーだったが飲むのが早く、既に飲み終えていた。


「学校の中だとさ、一歳差とか二歳差に絶対的な壁があるように感じるよな。実際はそんなに変わらないのにな。社会に出たらそれくらいの差はだいたいタメ語でOKだよ」

「はあ」


 木田も椎名も相槌を打たないので、真壁の語りに群青だけが答える。


「三年生とかさ、一年生に対してすごい兄貴分出してこない?そりゃ歳上だけどそんなにか?って思わない?そういう風潮が嫌で高校辞めた節があるわ」

「え?本当にそれが理由で辞めたのか」


 木田が唐突に反応すると、真壁は意外だったのか目を丸くする。


「いやまぁ、もちろん他にも色々あるんだが…」


 言いながらテーブルにあったシュガースティックを手に取る。左手で握ったと思えば次の瞬間には右手にあった。


「手品みたい」


 椎名が素直に感想を漏らすと、真壁が得意げにニヤつく。


「だろ。ちなみに自分の両手なら目を合わせるという条件は無くなる」

「その『能力』名前とか付けているのか」


 木田が指差す。指差した先は真壁ではあるが真壁自身では無かった。『能力』のことである。


「ああ。一応『ジャンパー』と呼んでいる。アンタらはこういう力を『能力』って呼ぶんだな」

「ああそうだ。…そうか、名付ける派か」


 木田は妙に頷いてコーヒーを一口飲んだ後、群青に話しかける。


「お前だけだぞ。名付けない派」

「別に誰かに対して言うわけでもないのに、何で名付けるんだ」


「今じゃもうこうして会話に出てるじゃないか。分かりにくいから名付けろよ」

「イヤだよ」


 群青は自身の『能力』のことを『能力』としか呼んでいない。『アウトレイジ』や『シックス・センス』といった名前は無い。


 群青からすれば何故名前を付けるのか度し難かったが、この場では完全に少数派だった。


「『能力』は自分の心の本質だぞ。もっと丁寧に取り扱えよ」

「別に僕はそういう考え方をしてないよ」


 渋る群青をよそに真壁は喋り出す。


「この手品みたいな『ジャンパー』を使えることに気づいた時、俺は神様に与えられたギフトだと思った」

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