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今を生きろ  作者: 豆腐
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叩いて壊す

 ーー木田の『能力』である『アウトレイジ』については、既にその能力の性質を群青は聞いていた。


 機械を殴ることで、その機械の機能を停止させる『能力』。


 群青が最初に性質を聞いた時は、力任せに破壊しているだけでは?と疑ったが、表面を叩くだけで内部の機構を故障させることが出来るらしい。


 確かに群青の乗るエレベーターを落とした時、木田は扉を思い切り叩いていた。いかに豪腕でも扉を叩いただけでは、エレベーターが故障して落下するというのは考えにくい。


 明らかに常識的では無い力だった。木田の叩く力が強ければ強いほど、より複雑で巨大な機械を壊せるらしい。木田らしい豪快な『能力』だと群青は感じた。






 …警察官が居る方を見ると、歩みを止めてこちらを眺めていた。


「群青くん、それを抜いちゃダメだよー」


 椎名があえて大きな声で言う。こんな大きな声も出せるのかと群青は驚いた。木田も同様に驚いているように見えた。


 あくまで自分達の持ち物である防犯アラームが誤作動した、という椎名の誘導だったがこれは成功した。


 警察官は大したことではないと判断したのか、振り向いてパトロールに戻って行った。三人が高校の制服を着ていて不審者の雰囲気が出ていなかったのも好を奏したのかもしれない。


「しかしこれはどこから出てきたんだ。何故お前が持っているんだ」


「分からない。気づいたら手の中にあったんだ。握っていた手の中に、急にあったんだ」


「きっとあの人は、何が起きたかを分かっていると思う」


 椎名が言って、言われた二人は椎名が見ている方向を見る。あの男がまだそこに居た。この一部始終をずっと眺めていたのだ。


「あいつ…さっき子供と話していた。こういう防犯アラームを持っているような小さい子に。何かをやったんだ。何かは分からんが」

「何であるかも重要だけど、私達が何をしたのかを見られたことも重要だと思う」


椎名が指摘する。


「木田くんが、こづいただけでアラームを止めたのを、あの人は見ていたはず。そして今感じるこの匂いは…これは強烈な不信感、そして警戒心」


 距離的に会話は聞こえていないはずなので、完全な偶然ではあったが椎名が喋り終えるのとほぼ同時に男は動いた。


 視線を群青達から外したかと思えば、思い切り踵を返して群青達が居る方向とは逆方向に走り出した。


「おい走ったぞ!」

「逃げたってことかな」

「追うぞ!」


 木田が走り出して群青と椎名が追う。群青は走りながらも逃げ出したい気持ちに駆られていた。


 今のが『能力』だとしたら追いかけるのは果たして上策なのか。しかし群青がどう考えようとも事態は流転し続けて、それに群青は対応できないでいる。ただ木田の後を追って車道を渡るしかなかった。


 男は角を曲がり、少しして木田と群青が追いついて曲がる。椎名は二人より足が遅いためすでに大分遅れていた。


 男にはほとんど追いついていた。十メートルほど先、すぐ目の前にいた。男は立ち止まっていたからだ。だが逃げるのを諦めた訳ではない。むしろ正反対で、男が居たのは有料駐輪場で原付に跨っていた。


(コンビニから出て歩いていた先はこれか…!)


 この男がバイト先まで原付で通勤していたことを三人とも初めて知るところとなった。だが知ったこの瞬間にはもう、男はエンジンを点けて逃亡を図ろうとしていた。


「捕まえろ!」


 木田が叫ぶが原付は既に発進してしまっていた。原付相手ではまず逃げられてしまう。


「群青!なんとしても捕まえるんだ!」


 走りつつ木田は群青に呼びかけるが、群青は内心ほとんど諦めていた。


「あいつは俺らの顔を見ている!もしあいつが犯人なら、ここで逃がすといつ何処で襲われるか分からないぞ!」


 しかし木田の言葉が群青の生存本能を揺さぶった。


 確かに男はこちらを十分なほど観察していて、顔や姿は記憶しているだろう。制服を着ているからどこの高校の生徒かも分かる。


 バイトのコンビニなど、このような事態になればもう来ないかもしれない。自分達が男を追う手がかりは失うが男が自分達を探せるとしたら、どこで狙われるかは分からない。


 ましてや『能力者』ならどんな行動に出るのか、どんな行動ができるのかは全く未知だ。


 群青の脳裏には木田に襲われた場面が蘇っていた。あのような命を脅かされる事態は、二度と御免だった。


 群青は走った。命を脅かされたくない一心で全力で走った。襲われたくない。死の恐怖は二度と感じたくない。


 やらねば。死にたくないがゆえに。


 死にたくないのだ。理由は無くとも。


 原付はアクセルを踏み始めたばかりだったのでまだスピードは出ていない。全力で駆ける群青の方が速かった。あと数秒、この全速力のまま走れば男の肩に手を置くことができる。


 そう希望的観測を持ったが、原付の始動直後のスローさはたちまち無くなり、とても追いつけない速さに変わりつつあった。


(もうちょっと…!)


 群青は強く地面を蹴り腕をピンと伸ばした。死にものぐるいだった。可能な限り自分の射程を伸ばした。


 しかし健闘虚しく、群青の伸ばした手は男を掴むことは無かった。原付は加速してたちまち群青達の視界から小さくなっていった。


「逃げられたか…」


 後方で木田が力無く言う。間に合わなかったのは明白だった。だが群青は、


「いや、間に合った」


 はっきりと言い切った。木田の位置からは見えなかったがその表情も言葉同様に安堵に満ちていた。


「ほんの僅かだが、原付の後部に触れていた」


 伸ばした右手をやや上にあげる。


「僕の『能力』によって物体は位置を記憶する。そして解除すれば…」


 木田は遠くに去っていく原付を見ていたが、原付の様子がおかしいことに気づいた。静止しているように見えた。


「…元の位置に戻る」


 静止していると思った原付は、今度は視界でどんどんと大きくなっていく。戻って来ているのだ。


 まだ遠いので男の様子は分かりにくかったが、ハンドルを動かしたりペダルを踏んだりして焦っているようにも見えた。


 木田は自分が群青に攻撃された時のことを思い出していた。


「なるほど、理解したぜ」


 そう言って身構える。振りかぶって拳に力を入れる。


 原付は高速で一直線に戻ってきていた。タイヤこそ地面に接しているがバック走行などではなく抗いようのない引力に引っ張られているように見えた。


 木田と群青に高速で向かってきている。だが群青も木田も避ける動きは一切しなかった。


 原付は高速で向かって来た後、群青達の目の前で唐突にピッタリと止まった。慣性など一切無く完全に停止した。


「『アウトレイジ』!」


 木田が叫びながら固めた拳で、目の前に停止した原付を殴り叩く。運動エネルギーを完全に失っていた原付は、叩いた直後に異音がした。そしてエンジンが止まり完全に起動を止めた。


「原付を内部から壊した…!」


 木田が勝利宣言のように言い放つ。そして後ろを振り返った。群青もつられて見る。


二人が向いた方向には、遅れてやってきた椎名がこちらへ走って来ている姿があったが、二人が見ていたのは椎名より手前でうずくまっている男の姿がだった。


 群青の『能力』により原付ごと高速で戻ってきた男は、原付の急停止により慣性で吹っ飛んでいた。原付は元の位置に戻った後はその場に留まるのみだったが、上に乗っていただけの男はそうはいかなかった。


「捕まえたぜ…」


 群青と木田は男を見下ろす。男は痛そうに身体をさすりながら徐々に身体を起こし始めた。

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