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今を生きろ  作者: 豆腐
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見舞い

 木田、椎名と話をした翌日の放課後、群青は放課後に高校を出てある場所に向かっていた。


 悩んだ末に筒井に連絡を取ったのが、木田達と別れた日の夜だった。


 お見舞をしたいのだが住所を教えてくれないか、と簡単なメールを送付すると、すぐに返事は来た。


『ありがとう。でも時間があればでいいよ』


 お礼の言葉の後に住所が書かれていた。高校から徒歩で向かえる距離だった。


 書かれた住所に着くと、そこにはごく庶民的な二階建ての一軒家があった。インターホンを押すとすぐに筒井が出てきた。


「やあ。わざわざすまないなあ」


 寝巻きではなく普段着で、休んではいるものの健康そうに見えた。


「狭いがどうぞ」


 群青は家へ入って筒井の後をついて行った。部屋は二階だった。五畳くらいの洋室でテレビにベッドに勉強机があった。群青の部屋とそれ程大差ない構成だった。


 クッションを勧められるので座る。筒井はベッドの縁に座った。


「久しぶりって程でもないはずだが、久しぶりだなあ」


 筒井が言う。微笑んでいたがどこか影が指しているのを群青は感じ取った。


よく顔を見ると、先程の玄関先では気づかなかったが目の下に隈が色濃く付いていた。肌もがさついていて生気が無いように見える。


「大丈夫なのかい」

「…大丈夫と言えば大丈夫。身体は悪くないからね」


 その返事はつまるところ、精神的な問題を抱えているということになる。


「あんまり眠れていないのかい」

「…そうだなあ。寝てもすぐに覚めるんだ。でも起きていても何かをする気にならないし、外にも出たくないんだ」


 いわゆる不安障害だな、と群青は考えた。その原因は言うまでもなくあの事件の目撃だろう。


 川に流れ浮かぶ死体は群青にとってもショッキングだった。その晩は悪夢を見た記憶もある。目撃した死が事件だろうが事故だろうが、記憶にこびりついて神経に障るのは変わらない。


「そう言えば、安住くんの死因…いや…」


 言いかけて口を噤む。筒井が不登校になっている原因であろうことについて話すべきかどうか迷ったからだ。


 だが筒井の方は軽く首を横に振って「問題ない」という意思を示すと質問を先読みして答えた。


「あれが殺人じゃなくて…事故だったって事は知ってるよ。親がどこかから聞いて話していた。心臓麻痺なんだってね」


 群青が今日、筒井のもとへ来たのは純粋なお見舞の気持ちもあったが、ここ最近起きた自分自身の騒動について話そうかと思ったからだ。


 木田に襲撃されたこと、椎名の存在、捜査を始めるということ。どのみち木田が捜査を続けていけばいずれ筒井と対面させることになる。


 しかし今の筒井の様子では、新しい情報などを出すタイミングでは無いと思えた。何より『能力』の説明無しに、木田に襲われたことや捜査を始めた理由を説明するのはかなり難しく思えた。


 群青は自分の『能力』について率先して他人に話す気は、依然として無かった。


「…そういえば君は安住くんを知っていたのかい」

「…いいや、知らない。クラスが一緒じゃないからね。俺はB組、彼はC組」


 そうなると自分と筒井は同じ境遇なのか、と群青は考える。


 二人とも知り合いではない同級生の死亡を見たのだが、自分と筒井でこうも心の影響に差があるとなると、自分の方が恐怖や不安に鈍感なのかな、とも思ってしまう。だがそれが反省すべきことなのかどうかは分からない。


「群青は知り合いだったのかい」

「いや、まるで知らない。亡くなってから存在を知ったけど、学年の皆はだいたい知ってる感じだった。C組では結構人気者だったみたいで、学年でも知り合いが多かったみたいだ」


「…そうか、そう、人気者か。亡くなってうちの学年…いや学校自体が大騒ぎだろう」

「大騒ぎというか、どこか皆騒ぐのを自粛しているような、物静かになっている感じはするな」


「死ぬっていうのは、大変なことだからな。多くの人に影響を与える…」

「…」


「…来週くらいには学校に戻ろうと思うんだ」

「大丈夫なのかい」


「正直言って人の死を見るのは本当にショックだったんだ。群青はその点強いみたいだけど」


 こういうのを強いと言うのだろうか、と思ったが口を挟まなかった。


「ショックでその日は眠れなかった。一人になるのも怖かった。無性に心細くて、誰かに 慰めてもらいたい気分だった。でも誰にも会いたくないし、誰とも喋りたくない気分だった。矛盾しているけど言葉にすると本当にそんな感じだったんだ。一人にさせて欲しかったけど孤独に耐えられなかった。昨日まではね、今は落ち着いてきているし、群青と喋れてよかったよ」


「どういう気分なのかは感覚としては分かるよ。あまり考えすぎない方がいい。僕らはただ最初に発見しただけなのだから」

「…そうだな。早いところ立ち直って、もっと前向きな気分になった方がいいな」


「この件に関しては話せる人が限られるからな。聞くだけでいいなら僕が聞くよ」

「…群青、少し変わったな」


「…?そうだろうか」

「少しな、なんというか分からないけど、変わったよ」


 そう言って筒井は微笑む。未だ影が差しているがそれでも先程より明るい笑い方だった。群青の小さな変化を祝福してくれているような温かいもので、群青は自覚がないままに少し照れた。


 人との出会いは何かを変える。


 出会いが死体であったとしても、出会いが自分を殺そうとする者だったとしても。






 群青、木田、椎名が家庭科室で再会したのは、筒井のお見舞いの翌日の放課後、場所は校門を出てすぐの場所だった。


「よし、歩いて向かうぞ」


 集合するとすぐに出発となった。前回と同じく制服の木田は先頭に立って歩き始めた。目的地へ向かう。


(まるで意気投合している友達のようだな)


 一緒に街を歩いているその様は、確かに友達と一緒に買い物に来ているようにしか見えなかった。しかしその関係はもっと歪である。


「もうすぐそこだよ」


 椎名が群青に言う。椎名が『能力者』と分析した二人のうち一名は、高校からそう遠くない距離にあるコンビニでアルバイトをしているということだった。


 名前は知らないが顔や背格好は知っている。椎名がたまたま立ち寄ったそのコンビニで『能力者』の匂いを嗅いだのだ。


「『能力者』らしい匂いがした人が本当に『能力者』かどうかは、百パーセントじゃないんだろう?」


 気になるので群青は椎名に聞くと、


「そもそもあまり出会ったことがないから…。だけど群青くんからは確かに匂いがして、実際に君は『能力者』だったから」


 そう言われると確かに正確ではある、と思ってしまう。だがこうも形の無いフワフワとした話だけを理由に、知らない人のもとへ尋ねるという行動がやはり不思議に感じた。


 三人は大通りに出た。道は国道で車道は二車線ずつある。歩道は左右にそれぞれあり、その片方を群青達は歩いている。


「着いたぞ。あの店だろ」


 木田が指差す方向には大手のコンビニがあった。三人は手前まで歩いて店の前で立ち止まった。


「椎名からコンビニ店員に『能力者』が居るって話を聞いたのは結構前だったが、その後に何回かこのコンビニに来て、そいつの出勤時間が何となく分かった。水曜と木曜のこの時間頃には大体居る。接触したことは一度も無いがな」


 木田が説明をする。


「あと二、三十分もすればシフトを終えて上がるはずだ。そこを話しかける。まずは店内にまだ居るか念のために確認しよう」


「…困った事があるの」


 椎名が突然切り出した。


「なんだ?店に居なさそうか?今週はシフトをずらしたのかな」

「いや、そうじゃなくて。いや…それもそうなんだけど…」


 要領を得ないが、ゆっくりと説明する。


「まず店には居る。既に匂いがするの。あの人は今ここに居る。ただシフトをずらしたのも事実。多分三十分くらいずらした」

「何故分かる?」


 木田が聞いたタイミングでコンビニのドアが開く。男性が出てきて群青達から離れて、群青達が来た方向とは反対に歩いていった。椎名が背中を指さす。


「あの人だもの」


 木田と群青に緊張が走る。木田は焦りつつも歩を進める。


「追うぞ」

「声をかけるのか」


 群青も依然焦っている。


「…ああ。だがまだだ。今思いついたがもし容疑者だった場合、逃げ出してしまって捕まえられないかもしれない。その可能性を考えて、このまま追跡して家の場所を知った方がいい」


「それじゃまるで尾行じゃないか」


「まるっきり尾行なんだよ。だが最悪の状況を考えたらその方がいい。逃げてバイトを辞められたらもう居場所を探せない」


「深入りし過ぎなんじゃないか。それに乗り物を使って帰ろうとしていたらどうする。あるいはすぐに家に帰らないかも」


「厳しかったら諦めるさ。とりあえず今のところは追うぞ」


 歩みは止めず、進みながら群青に言う。群青もついて行くが気乗りは全くしていなかった。コンビニ店員に話しかけるだけでも億劫に感じていたのに、今や立派な尾行だ。


「悟られずに行くぞ」

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