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第56話・わたしが居たい場所 その2

 「では皆の衆、まいりましょう!」

 「え、えいえい…おー?だっけ?」

 「ノリが悪いですよ、アプロ」

 「なんで今回はアコがそんなにやる気あるのさ。普段は散々ぶーたれてるのに」

 「………」


 なんでと言われましても。

 新しい雨具を手に入れて、それを存分に試すことが出来る、しかもそれが自分の作ったもの、となるとまたひとしおじゃないですか。


 なんでも雨期も後半に入ると、晴れ間が数日続くことも増え、また雨が降っても土砂降りのような鬱陶しいことはそうそうなく、シトシトと半日ほど降るパターンが増えるとかで、手作りの雨具を試すには実によいあんばい。


 ですので、アプロとおそろいで作ったコートを着て出かけるには都合がいいというわけでなのです。

 …なのですけどねー。


 「なんでアプロはわたしのコート着てこないんですか」

 「なんでって…なんか勿体なくてさ。汚したくない」

 「あのですね、道具は使ってなんぼ、ですよ?ほらいいから今から戻って取ってきてください」

 「無茶言うなって。一応持ってきてはいるからさ、ちゃんと使うよ」

 「頼みますよ?試作品なので使うひとは多いほどいーんですから」

 「目的を完全にはき違えてると思うんだけどなあ。アコ、今回のはモトレの言った通り、あまりはっきりしたことが分かってないことと、こないだアコが聞いてきたようにさ、不穏な事態があるかもしれなんだし、はしゃいだししないでくれるかい?」

 「別にそんなつもりはないですけど。まあ遊びじゃないのは分かってますから。自分のやることはちゃんとやりますよ」

 「ならいいんだけど…」


 わたしの本分をはき違えたことをマイネルが言います。

 まあ確かに最近、趣味を越えつつあるお裁縫のために穴塞ぎやってるきらいもありますけど、基本的にはわたしはちゃんとアプロの手伝いをしてから、それ以外のことをやるつもりですからね?それに付随するあれやこれやは勘弁して欲しいですが。


 「………」

 「あ、ほらゴゥリンも呆れてさっさと行ってしまったよ。二人とも、行こうか」

 「おー」

 「とりあえず浸水の心配はありませんでしたから、動いた時の着心地とか機能に問題がないか、ですね…」

 「「………」」


 ぶつぶつ言いながら続いてくわたしに、もはやアプロもマイネルもあきらめ顔です。

 いいんです。芸術家は常に同じ時代では理解されないものなんですから、って芸術家というより職人ですけど。




 わたしの体調が完全になってから、ではありましたけど久しぶりにアウロ・ペルニカの穴塞ぎに向かってます。

 まあこの街では確かに久しぶり、なんですが、アレニア・ポルトマでも一回やってますしね。

 ですけど、あそこでやった時と違って、今回はこの街の安全のため、ということでわたしの気合いの入り方も違うのです。そこのとこ、三人には分かって欲しいものです。


 「そんなのアコだけじゃないだろー。私だってマイネルだってゴゥリンだって同じことだ」

 「………(コクリ)」

 「まあね。僕個人はそれほどこの街に愛着があるわけじゃないけど、マリスがいるうちは手を抜かないよ」


 わー、素直じゃないひとが約一名おりますね。

 知ってますよ?アプロの意に反して、アプロがアウロ・ペルニカから離れないよう、マリスを通じて工作してるのを。多分アプロが知ったら複雑な顔をするでしょーから黙ってはいますけど。


 「まあそれはそれとして、モトレさんの話、どう思います?こないだのアレも結構なものでしたけど、あれだけ馬鹿力ある魔獣が賢くなったらかなり手こずると思うんですけど」

 「力押しなら負けない自信あるんだけどなー。頭脳戦になると、こっちも一発デカいのをかますだけ、ってわけにもいかないし」

 「あちらがあちらの強みを生かすやり口覚えたら面倒だよね。数だけは多い場合とかとにかく速さだけは手に負えない場合とかいろいろあるし」

 「…まあそれが分かればこっちも対策のたてようはあるんだけど。もーすこしさ、予言で具体的な魔獣の特徴とかが予め分かってりゃな」

 「無い物ねだりしてもしょーがないですよ。今のところゴゥリンさんのお陰で、こっちが先に見つけ出せてるんですし」

 「………(てくてく)」


 まだ雨が降ってないこともあって、対策会議らしきものを歩きながらやってるわたしたちです。

 対策っていうか、現状についてとりとめのない話をしてるだけ、って感じですが。

 なんにしても具体的な作戦の材料がないので、どーしても抽象的な話にはなってしまうんですよね。


 「けどいつも先制出来るとは限らないぜ?こないだのヤツ、場所が場所だけに仕方ねーけど、半ば不意打ちされたよーなもんだし」

 「アプロの呪言を準備する時間稼げたのは良かったけどね。そういえばアプロは今回何か新しいの、身につけてきたのかい?」

 「お兄さ…じゃないや、兄上に見せて褒めてもらったのを。今までみたいに破壊力追求するのもいいけど、もう少し小回りが利くものもあった方がいい、って話だったしな」

 「あとアプロは呪言を唱える時間もう少し短くした方がいいですよね。どーも詠唱中のアプロには直接手出し出来なくても、攻撃するつもりだけはあるみたいですし。おっきな石でも投げられたらアプロはともかくわたしが保ちませんよ」

 「…そうだね。現状、僕らは戦えてもアコは自分の出番までは身を守るっていうか逃げ回るしか出来ないわけだし」

 「そーだなー…防御系の呪言でも考えて……どしたー、ゴゥリン?」


 簡単に結論の出ない話をしているうちに、ゴゥリンさんがいつの間にか立ち止まってます。


 「………囲まれている」

 「ええっ?!…そんな気配無かったぞ!」

 「ちょっと待ってよ、僕にも分からないけど…」


 言いつつ二人とも荷物を降ろして戦闘態勢整えている辺り、流石です。

 ちなみにゴゥリンさんは、いつも担いでいる斧槍を両手に構えるだけで終わりです。


 「…何もいませんけど?」


 わたしは何も準備することはないので、いつでも逃げられるよーに身構えて、周囲を見渡します。

 いつも通りの平原で、雨期で灌木よりやや低めの、茎の太い草木が増えていますが、見通しはよくて曇った空の下の地平線までよっく見えます。


 「いや、なんかいる。足下に妙な振動があるけど……まさか、地面の…下?」


 とアプロが固い声で言ったのと、その地面から小石や土を跳ね上げて何かが飛び出したのが同時でした。


 「…え?ええ?ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!」


 そして、それは…紛う方無き…でっけぇミミズでした。

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