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第29話・わんことにゃんこのワンダフルデイズ その3

 「マイネル!まだ撃てるか?!」

 「充分だ!」

 「ゴゥリン、私が先に突っこむからお前はアコを頼む!」

 「………」

 「よし、呪言が無くても一廉ひとかどの剣士だということを思い知らせてやるッ!征くぞ、ベルニーザ!!」

 「止めなさいこのおバカっ!!」


 猛るアプロのアタマを一発どやかし、マイネルのすねにケリをいれました。ちっとも動じてないゴゥリンさんを少しは見習いなさい。

 まあ確かに、マイネルやゴゥリンさんはあのデッカい穴から出てきたベルしか知らないので無理もないですけど、アプロはちゃんと会話もしてるし、ベルのことはわたしから何度も話してるでしょーが。なんで仲良く出来ないんですか、もう。


 「…だぁって、アコが……」


 その一発はゲンコツだったので、まだ痛そうに頭に手を当てています。でも長時間の針仕事の後にそんな真似したわたしだって、拳が痛んでいるんですからね。


 「だっても何もありません!な・か・よ・く・し・ろ、と何度言ったら分かるんですかあなたはっ?!」

 「ア、アコ…?その、得体の知れないヒトガタの魔獣と仲良くしろとか君も無茶を言うと思うんだけど…」

 「やかましいです。これ以上逆らうならマイネルにセクハラされたーってマリスにチクりますからねっ!」

 「うん、言葉の意味は知らないけど、大変なことになりそうだってことは分かるよ。けど、本当に安全なんだろうね?」

 「わたしの友達に安全だとか危険だとか言わないでください。失礼ですよ、もう…」

 「アコは私の友達などではないぞ?」

 「ベルっ?!今あなたの立場を守ろうとしてるんですから余計な…」

 「アコは私の嫁だ」

 「ベルニーザ!お前言うに事欠いてなんてことを…アコは私の」

 「言わせませんよっ!これ以上話をややこしくされてたまりますかっ!!」

 「ベルニーザにはキスさせてたくせに…」

 「はあっ?!…アコ?その、大丈夫なのかい…?いろいろと。頭とか」

 「もうこの連中はっ!!い、い、いいかげんに…」


 「いい加減にせんかっ!!このバカ共が!」


 「ひぃっ?!」

 「わっ!」

 「きゃっ!!」

 「むぅっ?!」


 怒号と轟音が響いてついでに石つぶてがいくつか飛んでくる中、わたしたち四人はその声の主、即ち斧槍を足下に撃ち下ろした体勢のままのゴゥリンさんを、つい見つめてしまいました。

 もちろん、アプロとマイネルはビビり気味に。わたしは呆然と。ベルについては…最初はびっくりしてたようでしたけど、いつもの無表情に戻ってます。慣れてるんでしょうかね、こーいうこと。


 「ゴゥリン……けどさあ、アコがハッキリしねーんだもん。ベルニーザよりもアプロの方がかわいいよ、って一言言ってくれれば解決するのに…」


 アプロもベルが絡むとけっこーアホになりますよね…。


 「……おい、言ってやったらどうだ」


 そしてゴゥリンさん、滅多に無い声を聞く機会をこんなことに使わせてごめんなさい。

 ともかく二人の仲立ちをしなければいけないのですから、わたしは。ええ。


 「別にどっちがかわいいとかそーいうことはありませんよ。二人ともわたしのかわいい妹分です」

 「………」

 「………」


 …両方から睨まれてました。なんででしょうか。

 ついでにゴゥリンさんにも呆れられたように見られてました。マイネルは…まあこの際どーでもいいです。


 しかし何ですね。普段、何事にも動じなくて声を荒げるどころか話すところさえ滅多に見られないというのに、ベルが現れてみんながボケまくったお陰で、こーですよ。いえ、地面を抉る勢いのツッコミはやり過ぎだと思いますけど。

 そのゴゥリンさんが怒鳴り声を上げてこの場を収めるとか。吃驚です。奇跡です。今夜は眠れそうにありません。


 「…いや、アコの気になるとこって、そこなのか?」

 「そりゃーそうに決まってます。何せゴゥリンさんとの会話なんて、全部の内容思い出せるくらいなんですから」


 そこだけ聞くと睦まじい恋人同士のよーですが、実際は極端に会話の回数が少ないだけですしね。


 「………(イライラ)」


 あ、そんな話してる場合じゃなさそうですよ。ゴゥリンさん、めっちゃ怒ってます。


 「え、こほん。とにかくですね、アプロとベル。あなた方は…」

 「もういないぞ」


 え。


 「…あの。ベルが、ですか?」

 「ああ。あいつ現れる時も唐突だけど、去る時もいつの間にかだなー」


 アプロも感心したよーに言います。

 わたしは月明かりの照らし始めた草原を、端から端まで首を巡らして見渡しましたが、確かにベルの姿はありませんでした。


 「…いったいあの子、何しに来たんでしょう?」

 「さーなー。それよりアコ、お腹空いたからメシにしよー」

 「それよりもさ、アプロ。ちょっとここから離れた方がいいよ…そんな心配無いとはいえ、さっきの奴が暴れてた場所だと思うとなんか落ち着かないよ」

 「………(ため息)」


 マイネルの言うことももっともです。アプロは「えー…もう歩きたくねー…」とか駄々こねてましたけど、ここは多数決で言うことを聞かせ、わたし達は街道のすぐ脇まで戻ると、消えたベルの姿をことを思ってなんとなく納得のいかない一夜を過ごしたのでした。



   ・・・・・



 結局あれからベルが顔を出すことはありませんでした。アプロじゃないですが、ほんとーに何しに来てたんでしょうね。わたしの顔が見たいなら街で買い食いしてればいいのに。


 「んじゃ、解散なー。私はすぐ屋敷に戻るから」

 「僕はいつも通りマリスに報告に行くよ」

 「…ですね。ゴゥリンさんは…もういませんか」


 丸二日歩いて街に戻ってきました。やることはもう済ませたので自由行動、ってとこですけれど、わたしはベルがあれからどうしたのか、なんとなく気になって屋台通りでも捜してみようかと…。


 「アコ」


 …アプロには見透かされてたよーです。


 「分かってますって。ちゃんと家に帰って休みますから」

 「ん。明日はいくから、用意しといて」

 「はいはい」


 用意といいましてもね。ちょっとした食事の仕度と、あとは…まあたまには甘いものでも作ってみましょうか。あ、それとアプロの分、そろそろ出来そうですしね。


 わたしは二人と別れるとさっさと自分の部屋に向かいました。そろそろ日も傾いてきてますし、近所の出来合いの惣菜屋さんか、酒場の勝手口から何か買って帰ろうかと重追います。外食は避けろと言われてますし、ご近所付き合いのあるとこの方がいろいろと安心して買い物は出来るんですよね。

 と、結局今日はあっさりしたものが食べたくて、惣菜屋さんに行きました。あとは余ったパンと…あー、アプロから取り上げたお酒がありましたね。酸っぱくなってなければいいんですけど。


 そして一通り買い物を済ませ、部屋に戻りました……が。


 「…鍵、開いてますね」


 物騒な事件の話などはこの辺りでは聞きませんけれど、空き巣か、もしかしたら強盗とか。

 というか、わたしの部屋の鍵は特別製も特別製で、もーなんでもありの聖精石で出来てて、わたしかアプロしか解錠出来ないハズなんですけどね。わたしが鍵をかけ忘れたのでなければ、アプロが来てるか。まさかとは思いますけど。


 「ま、アプロじゃなければ、わたしが閉め忘れたんでしょーけど」


 それならそれでまた別に問題もありますが、わたしはそれほど深刻にもとらえず、さっさと扉を開けて中に入ったのでした。


 「ただいまー」


 これはただのクセみたいなものです。誰もいないのが分かってて言ってしまうのは、日本にいた頃の習慣ですね。たまに、わたしをおつかいにやったアプロが返事してくれることもありますが。


 「おかえり」


 そうそう、こんな風に…って、あれ、まさか本当にアプロが来て?


 決して広くは無い部屋ですけど、わたしの部屋の他にアプロの部屋もわるわけです。

 短い廊下ですが、その部屋を通り過ぎて奥にあるわたしの部屋から聞こえてきた声にはもちろん聞き覚えがあって、その主は、といえば。


 「遅かったな、アコ」


 …慌てて自分の部屋に入ったわたしを迎えてくれたのは、いつもの黒い装いのベルだったり、したのでした。

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