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第19話・黒金の少女 その4

 ただまあ、幸いというかわたしがこの場で真っ先に立ち直ったのも、その裂け目から出てきた人影のおかげなわけでして。


 「…………えっ…ア、アコっ?!」


 驚いているアプロの声を後ろにし、わたしはクレーターのお陰で急勾配になってしまった、窪地だったものの斜面を一目散に駆け下ります。

 目指すは…も何も、この状況でそんなもの一つしかありません。

 何せ、裂け目から現れた人物といったらもう、何と言うか。


 「だりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 我ながら品の無いかけ声と共に爆心地に到達。肩でしている息が落ち着く間も無く、その現れた、黒と金の出で立ちを睨みます。

 いやもう、本当にー。


 「……迎えにきてやったぞ、アコ」


 わけの分かんないことを言っている、くらいの認識はありましたけども。

 取るものも取りあえず、わたしはそんな彼女の……


 「こんなところで何をやってるんですかあなたはっ?!」


 頭を一発、ぺちこーん、と引っぱたいてやったのでした。


 「痛い…」


 いえ、そんな痛いわけがないと思うんですけど。息も絶え絶えでたたいたのがそこまでとは思えませんし。


 「アコ!」

 「いきなり走り出してどういうつもりなのさ!」

 「………」


 とかなんとかやってるうちに、置き去りにされた感のあった三人もやってきました。

 まあそれはともかく、今大事なのはですね。


 「ほんっと、少しは心配してたんですからね。あんなにわたしから離れようとしなかったくせして黙って姿消すとか、いなくなるなら一言くらい言ってってくださいよ、もう。で、どこに行ってたんですか」

 「怒ってるのか?」

 「無事だったのなら別に怒ってはいませんよ」

 「無事でなかったら怒るのか?」

 「当たり前でしょうが」


 心配した相手への心配を貫けなかった自分に、ですけどね。

 まあいいです。とりあえず何事もなかったみたいなのでそれはもう言いっこなしってことにしましょう。


 わたしは黒いローブの少女に近付いて、その無事を確かめるべく頭を撫でてみました。

 自分より背の高い相手の頭を撫でるとかどーなの、と思わないでもないですけど、それでもなんだか彼女はほんわかしていましたので、そーしてあげた甲斐はあったみたいです。


 「…で、一体どこで何やってたんですか」

 「教会は嫌いだ」

 「え?…あ、ああ…そういうことだったんですか…。ごめんなさい、配慮が足りなかったですね」


 事情なんか人それぞれでしょうけど、昔教会に酷い目にでもあったのでしょうかね。それなら彼女に断りも入れずに連れて行ったのは、わたしの失敗です。

 ごめんなさい、ともう一度素直に謝るわたしでした。


 「それで、今度は何をしに来たんですか。無事にお家には帰れたよーですけど」

 「ああ。父に事情を話して、アコを迎えに来た」


 あら。娘が世話になったのであいさつしたいとかって話でしょうかね。うーん今どき出来た親御さんです。人の親の見識と常識は地に落ちたものだと思っていましたが、なかなか世の中捨てたものじゃないよーです。

 でも流石にそこまでしてもらうのも何ですしね。


 「そんなこと気にしなくていいですよ。こうしてわざわざ会いに来てくれただけで充分です」

 「アコっ!」

 「きゃっ」


 腕をとられてびっくりしました。もう、人情アレな当世で心温まるやりとりしてたんですから、水を差さないで…って、アプロが何か怖い顔してますが。


 「…はい?あの、アプロ。どうかしましたか」

 「どうかも何も!マイネル、アコを頼む!ゴゥリンはやつの後ろにまわれ!」

 「了解!アコ、こっちだ!」

 「え?」

 「………承知」

 「え、え?」


 マイネルがわたしの腕を掴んで自分の背中に押しやるのはまだしも、アプロの指示にゴゥリンさんが声で返事をするとか…あのー、もしかして大変な出来事の進行中?


 「大変も何も、そいつ…魔獣だろうがっ!!」

 「え?」


 全身毛を逆立てた猫のようなアプロが相対している女の子の顔は、アプロにそう言われ、ひどく険しく、変じていくのでした。



   ・・・・・



 「……あれ」


 気がつくと、真っ暗なところにおりました。

 いやもう、真っ暗ってなんでしょうね、我ながら芸の無い。といって自分の手も見えないくらいの闇なので、他に例えようもないんですけど。


 「もしもーし。ここどこですかー?誰かいませんかー?」


 けど声は出るみたいです。自分の声だってちゃんと聞こえるのですから、真っ暗といっても宇宙空間とかではないみたいですけど、って宇宙だったらとっくに死んでますがな!………ツッコミもいない。さみしい。


 念のため、手の平をつねってみました。痛いです。夢じゃないんでしょう。

 立ち上がってみると、一応上とか下とかの感覚はありますね。いや立ち上がったというか、なんかいつの間にか立ってたような気もしますが。ヘンな感じ。

 ちなみに足下は、異物があったり極端に滑ったり、あるいは暑かったり寒かったりもしません。匂い…といえば、嗅ぎ慣れない香料みたいな匂いが鼻の奥に残ってるようにも思えますが、今の事態に関係があるのかどーなのか。


 ふむん。

 とりあえず、現状把握は完了しました。夢の中とかでは無さそうですし、死んでいるわけでもないよーです。

 じゃあ、大事なことにとりかかりましょうか。


 わたしは、おっきく息を吸って、限界まで吸って、ピタッととめて、それから叫びます。


 「アプロ──────っ!!出てきなさ───いっ!!」


 ………。

 ……………。

 …………………。


 耳に手を当てて返ってくるはずの返事を待ちましたが。


 …来ませんね。

 困りました。本当にわたしひとりみたいです。うーん。

 まあこういう時焦っても仕方がありません。少し喉は渇いてますけど呼吸は出来ますし、熱いだの冷たいだの痛いだのも無いんですから、落ち着きましょう。

 きっとそのうち、わたしをこんなところに連れ込んだ人の方から現れてく


 「待たせた、アコ」


 …来るの早すぎません?

 ただ、相変わらず真っ暗なので誰が来たかはよく分かんない…わけが無くって、黒ローブの女の子なんでしょーけど、せめて姿くらい見せてもらえませんか。会話しづらくって仕方ないんですけど。


 「分かった。これでいいか?」


 これでいきなり真っ白な照明がともって知らない部屋とかにいたら、ミステリーとかSFの定番なんでしょうがそんなこともなく、目の前の空間にただ黒ローブの少女が見えるようになっただけでした。

 これはこれで違和感ありまくりですけど、全く見えないよりはまだマシです。

 ただ、特徴的な黒のローブ姿ではなくなってました。えーと確か、トーガ、でしたっけ?ローマ時代の衣装だとかで紹介される、布を体に巻いただけのよーな衣装。あれによく似た格好でした。色も、真っ黒ではなく、正反対の真っ白です。

 こうして見ると、女の子の金髪には黒の方が似合ってたのかなあ、って思えます。その衣装で黒だったらよく似合うのに、なんて詮無いことを思うわたしでした。


 まあそれはいいとして。


 「…で、待たせたとか言ってましたけど…わたし別に待ってたりなんかしないんですけどね?ていうかここどこです?わたしのお友だちは、どこに行きました?あ、喉が乾いてきたので、何か飲み物あったら欲しいんですけど」


 言いたいことだけ言ってやると、ちょっとスッキリしました。いやスッキリしてる場合じゃないんですが。

 もー、いくら義理堅いとかいっても、お礼を言うためだけに無理矢理連れてきて、とか流石にやり過ぎなんですよぅ。気持ちは分かりましたから、早いところ帰してほしーんですけどねー…って、なんでそんな不満そうな顔してるんですか、あなた。


 「………くれないのか?」

 「え?」


 なんか既視感があるお顔です。てゆーか、きっぱり分かりますけど、アプロが拗ねた時の顔によく似てます。なんなんですか。


 「あのー、何かわたしにして欲しいことがあるのでしたら、そうと…」

 「私の名前を聞いてはくれないのか?」

 「はい?」


 この子の名前、ですか?

 …えーと、と思い出そうと拳を額にあててみます。いえ、こーしたからって記憶力が活性化されるわけじゃないんですけど、まあわたし格好から入るのは否定しない性格なので。

 でもお陰で思い出しました。そうそう、確かにそうでした。

 彼女の名前は………わたし、知りませんでした。

 でもそれくらいで怒るのも、ちょっと大人げないんじゃないでしょーか…?


 「アコは、名前を聞いたら教えてくれた。だから、私にも名前を聞いてくれると思っていたのに、アコは聞いてくれなかった」


 う。

 責めるようでも悲しむようでもない言い方でしたが、それだけにわたしには悔いるところの生じる言葉です。大人げないのはわたしの方でした。反省です。


 「ええと…その、ごめんなさい、ってわたし何度も謝るようなことしてますね。そのことも含めてごめんなさい」

 「うん」

 「もう言い訳もしませんけど、あの時は何だか困った子だなー、つきまとわれたら困るなー、って思って、それだけしか考えてませんでした。あなたの気持ちとか全然気にもかけてませんでしたね。だからやっぱり、もう一度言いますけど、ごめんなさい」


 ぺこり。

 わたしにしては素直に、そして真剣に頭を下げたつもりです。

 正直言いますとねー…やっぱりなんでこの子に気に入られたのかよく分かんないのが引っかかるんですけど、ふざけた気分でーとか、からかわれてる感じはしないので、それならば真面目に接してあげた方がいいのかな、と。

 だから、誠意を見せるつもりで、やっておかないといけないことを、やることにしました。


 「じゃあ、わたしからも。わたしは神梛吾子です。アコと呼んでください。そしてあなたの名前は、なんていうんですか?」

 「私はベルニーザだ。ベルと呼ぶがいい」

 「はい、ベル。…これでいいですか?」

 「…うん」


 …まあその。あんまり表情の豊かでない女の子が、ぱあっと花の咲いたように笑う時って見とれてしまいますよね。

 ともあれ、これで話はまとまった感があります。わたしも皆のところに帰してもらえ……ますよね?

 なんだか不安になって、ベルの顔を見てみます。とても、満足そうでした。うん、これなら…。


 「じゃあ、アコ。父に会いに行こう。アコを招くことだけは許してもらえたが、まだ説得は出来ていないんだ」

 「え?…あのー、ベル?わたしに何をさせたいんですか?あんまり無茶は言わないで欲しいなー、って……」

 「ああ、そういえばまだだったな。アコ」


 と、先に湛えた愁眉を開き、ベルはわたしに近寄り、両手でわたしの二の腕をつかむようにして、抱き寄せます。あれ?


 「アコ」

 「は…あの?」


 真剣な眼差しに戸惑ううちに、ベルが顔を寄せてきます。

 わたしは何だか妙な予感はしたものの…振り解くことも出来ず、されるがままに…。


 「んんっ?!」


 気がついたら、ベルに唇を重ねられておりました。

 何故だッ!!…とか思ううちに唇は離れます。わたしは混乱し通しです。いえあの、実はわたし、酔ったアプロに迫られたときは未遂でしたが…これファーストなんたらだったんですけどー……。


 …なんだかポヤーっとした頭でいるうちにわたしは、離れていくベルの顔に見入ってしまい。


 「アコ。結婚しよう」


 何か言われてたみたいでしたけど。


 ………しょーじきいって、いみがわかりません。

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