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第152話・ここで見つけたもの その4

 わたしの性格知ってれば、わたしが拒否して当然と思うはずなんですけど。


 最近やりとりのあるマギナ・ラギさんからの手紙を読んでいたわたしにアプロの告げた内容には、ただただポカンとするしかありませんでした。


 「……それ聞いてわたしが諸手を挙げて大賛成!…とかすると思います?」

 「少なくともフィルスリエナの手紙読んでるアコよりはありそーだと思うけどな」


 うっ、と返す言葉もなくなるわたしでした。

 仕方ないじゃないですか。あのひと搦め手が巧みでわたしが興味持ちそうなことを前面に押し立てて、でもいつの間にか自分の言いたいことを聞かせる体勢に持ち込んじゃってるんですから。

 …そもそもどーしてそういうやりとりをすることになっているか、についてはいずれ語る時が来たら、ということで。


 「ま、それはともかくさ。私だけじゃなくてうちの屋敷の連中も是非にと勧めるから断りにくくて。なーアコー、頼むよー。私を助けると思ってさー」

 「もー、お屋敷の皆さんに言われたんじゃ是非もありませんね。しゃーないです」


 結局、受諾せざるを得ないわたしでした。

 ……アプロとわたしをセットで絵に描く、というお話を。




 「って、早速ですかっ?!」

 「うん。まーアコの説得ならなんとかなると思ったし。場所もこの執務室でいいって話で、ついでに天気も今日は良いから、だってさ。んじゃ、入ってきていーぞ」


 絵を描くのに天気とか関係あるんですかね?とわたしが首を捻ってる間に、部屋の外に待期していたらしきところをアプロが呼び入れたのは、「絵描きなら若くてひとの話聞かなさそーなお兄さんか、それとも偏屈なおじーさんとかですかね」というわたしの偏見は全く当たらず、どちらかといえばお役人?とでもいうのがしっくりきそうなお堅そうな顔と、マッチョな肉体をお持ちの中年男性でした。


 「マウザプ・マンダレアと申す。この度は無理を聞き入れて頂き、アプロニア様とカナギ・アコ様には感謝致す」

 「はあ」


 で、物腰も何と言いますかー……かてぇ。こういう来客にあんまり芳しくない思い出しか無いわたしを感心させるくらい、自分の仕事にしか興味が無い様子です。


 「今日王都からやってきたとこ。陛下の紹介状持っててさ、あんまり無下にも出来なかったからアコが承諾してくれて助かったよ」

 「陛下の紹介状?!…それはまた、けっこーとんでもない話ですね…」

 「愚直しか能の無い男です。陛下にお認め頂いたのは光栄に存じますが、その信託に恥じること無きよう励むのみですよ」

 「ま、こーいうヤツだからさ。あんまりアコも嫌がらないだろうとは思うよ」

 「そうですね。ただわたしもそれほど時間に自由の利く身じゃないので、手短にお願いしたいとこですけど」

 「それはご心配なく。では早速」


 いえその、本当にすぐ済むならそれで構いませんけど絵を描くのってそれなりに時間かかるんですよね?

 一体どうするのかと思って、マウザプさんが荷物から何やら取り出すのを見てましたら。


 「お二方。いつもなさっているように振る舞って頂けると」


 わたしとアプロの視線に気付いてそんなことを言います。

 いえそのあの、いつもなさってるようになんて、そんな真似他人のいるところで出来るわけが…。


 「アコ、何考えてんの…ほら、私はこっちに座ってるから、アコも普段みたく私に話しかけるカッコとかでいいんじゃない?」

 「あ、ああ、そーいうことですか」


 わたしよりアプロの方が常識的とかどーいうことですか、まったく。

 ともかく、この部屋に来たときによくやってるように、街の話をアプロがしてわたしも相鎚をうったり、逆にわたしが見聞きしたものをアプロがマジメに聞いたりといった、要するにいつもやってることを…なるほど、これが普段通り、ってやつですか。納得しました。




 「…で、そっちは何やってんのさ?」

 「え?あー、そういえば絵を描いてるんでした……っけ?」


 最初はフリのつもりだったのに、いつの間にやら熱心に話し込んでしまってるわたしたちです。

 で、気がつけばマウザプさんはご自身の道具なのでしょう、見たことの無い箱形のものを抱え、その上面を覗き込んでいます。というか、その箱形の道具の前面、こちらに向けられてるものは……レンズ?あ、もしかしてカメラみたいなもの、なんですかね?


 「かめら?アコ、なにそれ」

 「いえ、目の前の光景を見たまんまに記録する道具なんですけど…あ、それで絵にするとかそういう感じなんです?」

 「……………」


 へんじがない。

 なんか熱中しすぎてこちらの声にも気がつかないみたいでした。


 「どうします?」

 「好きにさせとけばいーんじゃないかな。そのうち目が覚めるだろー」

 「いえ、それには及びませぬ」

 「お」

 「あ」


 …しっかり聞こえてたんですかね。カメラのような道具から顔を上げてこちらを見ていました。


 「これはあくまで、この小箱の中に像の記憶を留めるものに過ぎませぬ。参考にはしますが、我が想いの丈を残すのは手に執る筆に依ります」

 「そ、そうですか…まあ、あんまり根を詰めないでくださいね。アプロはともかくわたしの絵で喜ぶひとは……あー、心当たりは幾人かありますけど、それでわたしが嬉しいとは限らないのでー」

 「?……意味が分かりかねます…ただ、お二人が語り合う姿は我が心に強く響くものがありますがね。これを世に知らしめたいという情熱は、己が使命として筆を執る力の源泉となるものですよ」

 「つまり私といるときのアコはいー顔してる、と」


 言い方ー。

 でもマウザプさんは厳つい表情の中にもすこーしばかりユーモアを覚えたのか、口の両端を緩く持ち上げる、他のひとにはあまり真似の出来ない笑い方をしていました。

 あ、そういえばその道具にはちょっと興味が沸くのですけど。


 「その箱って、やっぱり聖精石を使って像を記録するんですか?」

 「ああ、これですか。左様ですがいろいろありましてな。ここの」


 と、レンズらしきところを指さしています。


 「透明な部分が聖精石の、力を失ったものなのですが、ここを通った光は少々特徴が加わるもので。箱の中にある特殊な加工を施した板に像を映し込むのです。長くは保ちませんが、絵を一枚仕上げるくらいには充分残せますのでね。先程からお二方のご様子を何度か残させて頂いておりました」


 なるほど、やっぱりカメラみたいなものですね……って、それよりわたし気になったのは。


 「あのー、今力を失った聖精石と仰いましたケド……聖精石って力をなくすものなんです?」

 「え、アコそんな基本的なこと知らなかったの?……ってそういえば教えてなかったっけ」


 おい。なんかもー激しく、おい。

 わたしにとってはかなりどころか最重要事項じゃないですか。いえそりゃ今まで気にしてなかったわたしもどーかとは思いますけど。


 「あはは。でも聖精石についての知識なんか、普通はそんなもんだよな。理屈なんか分かんないけどなんか便利に使える不思議な道具、ってとこだろ」


 そうかもしれませんけどそれでいいのか、この世界。あーいや、日本…というか地球だって飛行機がどうして飛ぶか分からないのに飛行機に乗るひとが大半だったでしょうし……そう思えば別に問題無いのか。うん。

 ……無いんですかね?本当に。

 いえわたしちょっと引っかかるところが。何が、と言われてもすぐに答え出そうにないですけど、こう、意外なところで欲しい答えが見つかりそうな、そんな期待とも予感ともつかない感じの、何かです。

 まあ冷静に考えればー、飛行機だの車だのは、乗ったり使ったりするひとがどんな理屈や原理でそうなってるのか、完全に理解してるわけじゃないですし、そういう意味では同じっちゃあ同じなわけで。それをおかしなことだと思わないってのもねえ?


 「うーん」

 「…あの、こちらはどうかされたので?」

 「あー、気にすんな。すぐに答えの出ないことを考え始めた時のアコのクセだコレ。ほっといて続きしてていーぞ」

 「ふむ。ではお言葉に甘えまして。正直なところを申せばこのようなお顔で思索にふける様など、巷間に聞く『針の英雄』の名に相応しくなくも思えますな」

 「アコって世間の評判どーなんてんの。この街でも確かになんやかんややってほほえましーく見守られてるって感じだけどさ」

 「迷い無く世を導くために身を捧げる聖女の如し、と聞きましたが。ただ、どちらかといえば私には今のようなお姿の方が好ましい」

 「…まー、私にしか見せない顔ってのもあるから、公平に論ずるのは無理だわな、その点に関しては」


 …なんか二人が勝手なことを言ってるよーな気もしますが、それはほっといて。

 とにかく、力を失った聖精石は世界を回す力を生み出す石として回帰することが能わない。存在としては、ただの石…っていうか、マウザプさんの使ってる道具のように、何か有益な用い方もあるようではありますけど。


 それと、それがどんな理屈で働きを示しているのか分からない、とさっき思ったのですけど、聖精石の扱いについては大学だとかで学問として成立してますし、この国だって聖精石をどう使うのか、またはどのように作り上げるのかを追い求めて国の力を強めてきたわけですし、まあ分かってないわけじゃない……………そんわけないでしょうが。

 わたしは、第三魔獣を象る、いまだ世に力を及ぼしていない石へ働きかけることができます。

 それから、第三魔獣の石と強く結びついた、澱を吐き出している魔獣の穴の源泉となっている石とも意志を通い合わせることも出来ます。

 じゃあ、それらが形を変えた聖精石とは……って、実際もうやってるじゃないですか。アプロの剣に、さぼってないでちゃんとアプロの役に立て、って叱ったこともありますし、わたしの部屋の鍵に使われてる聖精石にベルが何かを伝えたことだってあります。

 それらは聖精石の本来期待された使い方に則ったものとは異なる、とは言い切れませんが、じゃあ……。


 「マウザプさんっ?!」


 自分の思いつきの突飛っぷりに思わず素っ頓狂な声を上げたわたしを、まだ何かわたしの悪口で盛り上がってた二人はびっくりしてこちらを見ます。


 「な、なんでしょうか…?」

 「アコー、お早いお目覚めは結構だけどいきなり大声出すなって。たまげるだろー」

 「別に寝てたわけじゃねーですよ!……って、それよりマウザプさん、その道具ちょっと貸してください。壊したりしませんからっ!」

 「は、はあ、別に構いませんが……どうぞ」


 アプロと一緒に覗き込んでいたそれを、マウザプさんは怖々とこちらに寄越します。そんなに怯えなくたって乱暴に扱ったりしませんて…と。

 わたしは受け取った道具を顔の高さに持ち上げ、レンズのところを覗き込むように顔を寄せて、念じます。いえ、探るといった方がいいでしょうか。


 「……もし聞こえているのでしたら、応えてもらえますか?あなたは今どこにいますか?」

 「アコ?もしかしてまだ寝ぼけ……ん」


 わたしが始めたことを、アプロは最初は何を始めたのやら、とからかうように言いましたけど、わたしの表情が至極真面目なことを見て取ってか、同じように身を乗り出しかけたマウザプさんを手で押し止め、そのまま静かになりました。助かります。


 「あなたは力を使いはたしてもう静かになったのだと聞きました。けれどもし、世界を回す力の源泉たる何かがそこにあるのでしたら、それを示す兆しを見せることは、出来ないのでしょうか?」

 「………」

 「……………」


 ここにはないとしてもあるいは未世の間に存在を遷したのではないか。

 そんな期待を込めて、今ここではない場所にも意識を飛ばしましたが、応えるものはなく。


 「…聞こえてますか?」


 目を開いてまた目の前のガラスに声をかけ、辛抱強く応えを待ちます。


 「……アコ、何やって」

 「おかしいじゃないですか。だって、あなたは世界を回す力を生むために在ったんです。形を変えて、変えられてしまって、でもやっぱり何かの力を生み果たして今があるんですよね?じゃあ、今でも、未世の間に回帰出来ない理由があるんですか?励精石として世に形を得て、人の手で本来とは違う姿に変えられて、そしてひとの思うように道具として扱われて。それで人の闊歩する世に望みを絶って、そうして塞ぎ込んでいるんですか?怒りは無いのですか?自分が、本当に成すべきだった役割を奪われて、それで何もかもイヤになって、永遠に物言わぬ石のまま、世界が静かになるまでそうしているつもりなんですか?」


 静かに、でもしつこくわたしは語りかけます。言葉だけではなく、目の前の存在をわたしの全てでつかみ取るように、わたしとわたしを象る石の意志をそこに突き付けます。

 これで何もないのだとしたら、それはやっぱりわたしの思い違…。


 「きゃぁっ?!」

 「アコっ?!」


 …それは唐突でした。いえ、しるしのようなものは確かにありました。

 ガラス状の石が一瞬、瞬きのような煌めきを取り戻し、それからわたしに襲いかかるように破裂し、砕けたものがわたしの顔に降りそそい…


 「…あ………あー、びっくりしたぁ……」


 …だように思って焦ったのですけど、幸いそれは勢いとしては大したことがなく、目に入ったらかなりひどいケガをしそうな破片がわたしの鼻の頭にいくつか当たっただけで済んだのでした。


 「びっくりした、じゃないよアコ!ケガ、ケガしてないっ?!何か当たったりしたら…」

 「大丈夫です。ちょっと怒っただけみたいですし、でもわたしにそこまでするつもりは無かったようなので。…ええっと、それよりマウザプさん、ごめんなさい。壊さないとか言って預かったのに、大事な道具を…」

 「あ、いえ…確かに道具は大事ですがあなたに怪我をさせるようなことがなくて良かった……」


 レンズを失ったカメラを力なく受け取るマウザプさんに、約を違えたわたしへの憤りは無いようでしたが、それでも貴重なものを失った落胆は隠せず、肩を落として用を為さなくなった道具を力なく見下ろしていました。


 「…わりい、何か償いはさせてもらうよ。アコ、ケガはしてないかもしれないけど、何があるか分かんないからフェネルんとこ行って…」

 「いえ、大丈夫ですよ。でもこれでマウザプさんのお仕事も出来なくなってしまったのが申し訳なくて…」

 「………」


 やっぱりカメラを手に呆としてるマウザプさんでしたが。


 「……天啓かもしれませぬな」

 「え?」


 呟くように洩らした声に意外に落ち込んだ色はなく、でも独り言のような調子に思わず顔を見合わせるわたしとアプロでした。

 というのも、マウザプさんの口調はやや熱に浮かされたようなそれでしたし、加えて何度かそおいう態度にもお目にかかって大概ろくでもないことになったことからの、警戒だったりしたのですけど。


 「……いや、お恥ずかしい。この目で確と見定めてこそお二方の像を筆に執る資格を得られるものと思っておりましたが、どうもこの愚物も巷の世評に踊らされていた模様で。この道具に真摯に話しかける御姿、我が身の浅はかさを強く叱咤された想いにございますな」

 「………えーと」


 そう言ったマウザプさんの表情は、というと、謹厳実直を絵に描いてその割と大っきめな顔を占領してたよーなものではなくなって、むしろプレゼントをもらった子供のような心の底からの喜びを現していたのです。


 「ああ、カナギ・アコ殿。あなたの意志を強く示して頂けたことは誠に僥倖です。アプロニア様とあなたの想い、如何に時間がかかろうとも後世に…いえ、我が技の全てを投じて形にしたく存じます」

 「あの、そのー………あんまり面倒なことにならないようにー…してください、ね…?」


 多分大丈夫なんじゃないかなー、と呑気に言う傍らのアプロを余所に、なんとなく不安の払拭仕切れない思いでわたしはいたのですけれど。

 でも、レンズの壊れた小箱を覗き込み、無邪気としか言いようのない様でいるマウザプさんを見ていると、割とどうでもいいような気もしてきて、結局アプロと同じように、「ま、いいか」という気にもなって。

 その後は割と話も弾んで(ほんとーにどうでもいい内容の話です。好きな食べ物とかこの街では今何が流行っているのかとか、あとはわたしの最近の暮らしだとか)、結局わたしが聖精石の残骸とした「会話」のことなんか一切触れもせず、やたらと上機嫌なままでマウザプさんはアプロの屋敷を辞していきました。もういい加減暗くなったころのことでした。



   ・・・・・



 「…あのひとこれからどーするんでしょうかね」

 「さーな。でもいい絵を描けそうだ、って喜んでいたんだからそれでいーんじゃない?」

 「アプロが言うならそうなんでしょうけど。でも、描き上がった絵はどうなるんです?」

 「ん?興味ある?」

 「そりゃあ、ありますよ。わたし絵に描いてもらうなんて経験ありませんし。アプロは…なんかありそうですけど」

 「私だってそんなもんないよ。絵を描いてる間ジッとしてるってことが出来なくてさー」

 「あはは…確かにそれはアプロらしーですね」


 マウザプさんが帰って、わたしとアプロの二人きりになった執務室では、そんな会話が繰り広げられてました。

 今日はアプロも仕事はお休みってことで、のんびりしたものです。たまにはこういう時間もいりますよね、わたしたちには。


 「ただ、とりあえず絵が出来たら持ってくるとは言ってたからさ。楽しみにしてればいいんじゃないかな」

 「…時間かかりそうですよね」

 「評判聞いた限り、何枚も絵を平行して描いてて、一枚仕上げるのに一年くらい平気でかける男みたいだからなー。気長に待つしかないだろ」

 「…そうですか」


 我ながら、少し声のトーンが落ちています。わたしにはわたしの懸念があって、きっとアプロも気付いているのでしょうけど、でもそんな空気を振り払うようにアプロは言いました。


 「アコ、今日は泊まってく?いっぱいかわいがってやるぞー?」

 「わたしが泊まることで即そっちに話持ってくのはやめなさいってば。でも、そうですね…今日は一緒にいたい気分ですから、そうさせてもらいます」

 「ん。じゃあルリヤにはアコの分の食事も用意するよう言ってくるよ」


 椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとするアプロ。

 わたしは、その背中が視界から消えるのがなんだか寂しく思えて、つい声をかけます。


 「……アプロ。折角だからお茶しません?お菓子もあるといいですね」

 「悪くないな。昼間に焼き菓子作ってたみたいだから、それも奪ってくるよ」


 振り向いてにへら、っと悪戯っぽい笑顔を浮かべ、アプロは扉を開いて廊下へ出て行くのでした。

 ひとりになると部屋は静かになり、当然のようにわたしは今日あった出来事のことを思い返します。

 それはもちろん、わたしの声に応えた「力を失った聖精石」のこと。

 それから、他のひとにわたしがどういう形で残されるのか、ということ。


 聖精石のことはまたいつでも思いを致すことでしょうけれど、わたしとアプロを描いた絵のことはきっと、これっきりなのだと思います。


 …結論から言えば。

 わたしは、「この生涯」のうちで、出来上がった絵を自分で目にすることはなかったのです。

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