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第110話・アウロ・ペルニカの攻防 その8

 一発目は、今まさに激突しようとしていたアウロ・ペルニカの衛兵さんたちと、魔獣の間に撃ち込まれました。

 アプロの薙いだ剣の軌跡に続き、薄い幕状の光が地面に達するとそこから爆炎が立ち上がり、さながら壁のように両者を分断します。

 もちろんアプロは衛兵さんたちに被害が及ばないよう、魔獣の群れに近い方に撃ち込みましたので、巻き込まれたのは一方的に魔獣の側。それでも数で圧倒する魔獣たちは、爆炎の壁を通り抜けてアウロ・ペルニカの城壁に殺到せんとします。

 ですが。


 「それで終わりと思うなよっ!」


 アプロが二度目に振るった剣からは無数の光る矢が顕れ、それらの一本一本が地面に着弾する度に、先程のものには及ばないながらもそれぞれはけっこーな威力のありそうな爆発が起こります。

 もちろん魔獣は、それに巻き込まれて次々に数を減らしていきます。


 「…そしてこいつがー……開幕最後の一発だぁっ!!」


 ヴォン、という振動と共に、目に見えないナニカが、魔獣の群れの上空に圧倒的な存在感を示しました。

 そんな様子に、まさか…と思ったわたしの想像に違わず、アプロは片手で剣を大きく振りかぶり、けれど反対側の腕にかかえたわたしが振り落とされないように気を遣いながらそのまま下に、振り下ろしました。


 「まずは挨拶代わりだ!とりあえず一回…全滅しちまえッ!!」


 その目に見えない存在は、地面に近付くにつれてやがて薄い影となり、魔獣の大群を巻き込んで地面に接するころには大きな、本当に大きな幕となっていたのです。

 魔獣は悲鳴をあげることもありません。こっちからはただ為す術無く、その馬鹿げた大きさの幕に押し潰されるだけに見え、そして幕が消えてしまった後にはすっかり跡形もなくなっていたのでした。


 「…なんか初っぱなから派手すぎません?」

 「遅れて心配かけた詫びだよ。それよりアコの出番だぞー。何せあの規模の魔獣だし、忙しくなるぞ?」

 「やる気はありますけど手と体が追いついてくるかどうかは心配ですね…あ、見えました。アプロ、降ろしてください」

 「がってんだ!」


 落下しながらそんな有様を見ていましたけれど、きれーさっぱり魔獣の掻き消えた後には、街の近くに屹立する魔獣の穴の数々。

 そのうちのどれから魔獣が顕れたのかは分かりませんけれど、それでもいくつかの穴を塞ぐことの出来るだろう布が、穴の近くに舞い現れるのは確認出来ました。

 二つ、三つ…ってとこですか。数は少ないですが、空から見ても大概な大きさに見えますので、きっと間近で見たらドン引きするよーなサイズなんだろーなー、とぼんやり考えながら、アプロにその近くまで連れて行ってもらいます。

 わたしは取り落としてしまわないよう注意しながら、携帯してるポーチから針を取りだして糸を繰り出し、空飛ぶ呪言を中断して着地すると、その、やっぱり呆れるくらいでっかい布の前に立ちました。


 「アプロー!アコー!!」


 街のある方角から聞こえてくるのはきっとマイネルの声。

 けどまあ、再会を喜んだり遅参を謝るのは後回しです。わたしは風で飛ばされそうな布に土足であがりこみ、とにかく地割れみてーなサイズの穴に針を通し始めたのでした。




 ちくちくちくちく。


 針を細かく動かしているわたしの背後で、アプロとマイネルが何か言い争ってます。


 「…一体何をやってたんだよ!」

 「わりー。空飛んでたら魔王に撃墜されて拉致られてた」

 「はぁっ?!…っていうかよくそれで無事だったもんだね、こっちの気も知らないで」

 「だからわりーって言ってるだろ。それに間に合ったんだからいーじゃねーか」

 「それをブラッガに言ってやりなよ…まったく、昨日からこっち彼の心労っていったら見てるこっちも胃の痛みが治まらなかったよ」

 「あー、マイネルに迷惑かけるのはどーでもいいけど、ブラッガに心配かけたのはマズいよな。後で謝っとく」


 ブラッガさんというのはアウロ・ペルニカの衛兵隊を統括してる隊長さんです。確か五十歳くらいのいー感じのおじさまでして、アプロを娘のように可愛がってるというか甘々なひとなのです。


 「御領主!無事でしたか」


 噂をすれば、そのブラッガさんの登場です。そしてその部下たる衛兵のみなさんも、大挙してやってきました。

 それぞれにアプロの無事を喜ぶ声が聞こえてわたしも嬉しい限りです。もちろんそれだけでなく、アプロが不在だったことに不満を述べるひとだっていますけど、アプロも茶化したり誤魔化したりせず真摯に詫び、それがために文句のあったひとたちもかえってアプロへの心服を深くするようでした。


 「とにかく皆、いろいろと悪かった。説明は後にするけど、とりあえず魔獣の後詰めが出てくるかもしんねーからブラッガ、警戒頼む」

 「心得ました。アコ殿の方は…?」

 「なんか張り切ってたから大丈夫だろー。アコ?」

 「はい終わりっ!次の布行きますよ、違う穴から魔獣が出てきそうになったら知らせてくださいねっ」


 まず三枚のでっかい布にはざっくりとまち針を徹してあります。もちろん布のサイズに比べて数が足りないので、いくらか心許ないですけどこればかりは仕方ないですしね。

 それにしても、アプロの活躍に比べるとなんかこお、わたしの仕事って地味だなあ、と改めて思いながら針仕事を続けているうちに、なんだか鼻に引っかかる異臭とゆーか、イヤな気配。あー、これは他の穴から魔獣が出てくるのかなあ…。


 「アプロ。なんだか魔獣の気配がします」

 「…だな。ブラッガ、私はギリギリまでアコを守ってるから連中引き連れて待避しててくれ」

 「分かりました。では先に戻ります」


 よく訓練された動きで、アプロの指示に従い街の方に戻っていくようです。

 なんてーか、わたしも詳しくはないですけどああいうキビキビした男の人の動きって、気持ちの良いものですよね。


 「マイネル、おめーもだ。今は私とアコだけでいい」

 「気をつけてよ?ゴゥリンをつけておこうか?」

 「いらねー。もうこうなったら根比べになるし、使わないでいい体力は温存しとこーぜ」

 「今はその割り切りっぷりが頼もしいところだよ。じゃあ僕たちは待期してるから。アコも気をつけて」

 「りょーかいです」

 「いいから早く行けって」


 手元から一切目を逸らさないわたしの背中で、マイネルも遠ざかっていきます。

 この場に残されたのはアプロとわたしだけ。そんな空気になんとなくホッとしながら、わたしは指を動かすスピードを一段上げました。


 「アコ。私の判断で途中で止めさせるかもしんないから、そん時は言うこと聞けよ」

 「分かってます。アプロの判断なら間違いないですからね」

 「…そーでもねーって。あの時もっと気をつけてれば、もっと準備万端で始められただろーし」


 訂正。わたしを守ってくれるっていうアプロの判断なら、わたしは絶大な信頼を抱いてますから。

 なんて、口にするとちょっと照れる独り言を心の中で呟きつつ…。


 「よし二枚目終わり!三枚目行けそうですか?!」

 「…無理。終わる前に始まりそうだ」


 立ち上がったわたしの目に入ったアプロの姿は、片時たりとも油断をしない頼もしい勇者のものです。

 あ、でも。


 「だったらちょっと待ってください。刺してしまったまち針抜いていきますから」

 「そんなことしなくても…」

 「使い捨てに出来るほど数に余裕がないんですってば。それにこんな状況じゃ針の補充も出来ないでしょう?」

 「…手伝おうか?」

 「抜くだけなら大丈夫ですって。それよりアプロは警戒の方を…」


 「そうはイカのなんとか、って言ったよねぇ。イカってのがなんなのかは知らないけどさ」


 え?

 と、どこからか聞こえてきた…聞き覚えのある声に、思わずアプロと顔を見合わせ、そして辺りを見回すと。


 「…久しぶりだねぇ。こないだは散々な目に遭わせてくれたけどさ、今度はこちらが圧倒的に有利な状況なんだ。たぁっぷり、遊ばせてもらうよ?」


 少し離れた岩の上に腰掛ける格好で、こんな時に見る顔としては最悪のものと思われる、メドゥーサのパチもんがおりました。


 「アプロ、前言撤回」

 「よし掴まれアコ。飛んで逃げるぞ!」

 「ちょっ!顔を見るなり引き返すとか遊び甲斐の無い連中だねっ!」


 だってヘビ苦手なんですもの。あとこっちは真面目にやってるんです。遊びでやってるあなたと一緒にしないでください、ローイル。

 わたしは脇目も振らず、それ以前に声の主に顔も向けずにアプロにしがみつくと、その前から既に準備をしていたと思える見事なタイミングで空を飛ぶための呪言を完成させていました。


 「…よし!顕現せ…」

 「そうはいかないと言っただろう?」


 ところが、負け惜しみとも思えない落ち着いた声色で、そんなわたしたちの動きを一瞬で止めたローイルの動き。

 それは、ピチュン…って音も聞こえそうな速度でわたしの頬のすぐ脇を通り抜けていった、何か、でした。

 その気配の禍々しさに我知らず右の手を顔に当ててみたところ、特にケガなどはないようでしたけど、マリスを狙ってマギナ・ラギさんを一度殺めたあの攻撃を思い出し、流石にゾッとするわたしです。


 「…逃がしはしないよ。ようやくさ、あン時の礼を出来るんだ。ゆっくりしていきなよ」

 「といわれましてもね。ほら、わたしたちも忙しい身ですし」

 「そっちの事情なんか知ったこっちゃないよ。こっちはね、アンタらの邪魔を目一杯して来いって言われてんだよ。そしてそれはアタシにとっても願ったりかなったりさ。というわけだからさぁ…」


 岩場に立ち上がったローイルの背後に、いつの間にか人の背丈くらいの大きさの穴が現れています。

 ローイルを強気にさせる魔獣の穴。となると、中から出てくるのは当然…。


 「もう少しお付き合い願おうか、ね」


 やっぱり!ヘビ!それも足の踏み場もないほどの、すねいく・かーぺっと!

 やってられるかこんなもん!!


 「アプロ、やっぱり逃げ…」

 「顕現せよ!」


 …る間もなく、アプロがぶっ放します。ローイルの相手をわたしにさせてる間に準備してたようです。恐ろしい子…。

 顕れたのはいつぞやローイルをぷちっと潰した時のような幕状の何か、というよりついさっき見た上から押し潰す感じのものです。といってサイズは明らかに小さく、けれど重量感あふれるそれは、顕れた蛇を次々と押し潰し、気配を察していち早く逃れていたローイルを除けばあっさりと魔獣の群れを全滅させてしまっていました。


 「…アコ、布。縫って」

 「あ、はい。これですね」


 ローイルの、ではなく従えていたヘビのものと思われる魔獣の穴を塞ぐ布が、わたしの手元に現れました。これまたミニマムな風呂敷サイズのものなので、手に取った瞬間から縫い始め、十数秒で仕事完了。アプロはその間ローイルを牽制し、わたしに手出しできないよう守ってくれてました。


 「はい、終わり。アプロ、ありがとうございます」

 「…なんかもー、アコの手際は呆れるくらいだなー。さて、ローイル。どうせまた蛇の出てくる穴を出そうと思えば出せるだろーけどさ。もう面倒なんで今度こそおめーを潰してお終いにさせてもらうぞ」

 「…くっ、く……くくく…なっ、なかなか、やるじゃないか。けどこれで終わりと思ったら」

 「余裕ぶっこいているよーに見えますけどね、どうせもう奥の手もなーんにも無くて焦ってるのが見え見えですよ」

 「なぁっ?!」


 わたしの呆れ声に、再び岩場の上に立ち上がってたローイルが慌てたよーに頭の蛇をしおれさせます。

 …なんか冷静に考えると、わたしの嫌悪感だけで過大評価してましたけど、登場当初から小物臭がぷんぷんするとゆーか、底が浅いとゆーか…悪役としては明らかに役者が不足してますよねぇ…。


 「ふん、その反応見るとアコの言った通りっぽいな。で、なんだって?たっぷり遊んでくれるんだったか?いーじゃねえか、たっぷりとはいかねーけど、てめーのツラもこれで見納めだ。冥土の土産に気の済むまで遊んでやろーじゃ…ねーか!」


 オラァッ!!…とあんまり上品とは言えない雄叫びを上げてアプロが襲いかかります。わたしは、というとローイルの胸元に穴開けてもらわないと出番無いんですよねー。せいぜいこっちに矛先が向けられないよーに、なるべく離れていましょ。


 「いや待て、待てって!わかった、こっちの負けだ、負けでいい!だから…」

 「だからこのまま退場願おうか!」

 「ひぃっ?!」


 …うーん、アプロも遊んでる場合じゃないんですから、そう大振りして焦らせてないで、さっさとトドメ刺してもらいたいんですが。こーいうのって勝ち誇ってるとまーたこちらがピンチになるのがお約束というか…あ。


 「は、はあっ、はあっ…ちょっと待てと言ってるだろうがっ!!」

 「くっ、この…またこのヘビどもが厄介な…っ!」


 …言わんこっちゃない。ローイルの髪にあたるヘビの群れに剣をからめとられてまた同じ目に遭ってるじゃないですか。

 今度はゴゥリンさんもマイネルもいないんですから、もう少し考えて動きましょうよ。

 と、マイネルたちの去って行った方を振り返って思います。こちらの騒ぎには気付いていないのか、戻って来る気配はありません。うーむ、困った。


 「…はっ、このクソ厄介な剣さえ押さえてしまえばこっちのもんだよ!さあ、針を使う異界の女!勇者の命が惜しければこっちに来てもらおーか!」

 「アコ!言うことを聞くな!」

 「そうは言いましてもねー。もうこうなるとわたしに出来ることなんかなーんにも無いわけですし」

 「だからといってこのまんまじゃ…………グァバン…」

 「おっとそうはさせないよ!」


 と、急に黙り込んだアプロの眼前に、ローイルの髪をなすヘビの一匹が、鎌首をもたげます。

 そりゃそーでしょう。アプロが静かになるってんならそれは呪言を始めたってことですし、前回それでやられてるローイルが警戒しないはずもないでしょう。いくら抜けてる悪役だからといって。


 「…なーんか馬鹿にされたような気がするんだが」

 「気のせいでは?」

 「アコ!」


 アプロがわたしに怒鳴ったのは、わたしが手を伸ばして二人の間にあるものに触れようとしたからです。

 それは、アプロが両手で握っている剣。それを微動だにせぬよう絡まっているヘビの、群れ。ううっ、やっぱりこれはやだなあ。

 わたしはそのぬめっと…は実はしてないんですけど、蠢く鱗の隙間をぬい、指をアプロの剣の刀身に直接あてて、思います。


 なんですかね。覚えが無いのに自分がこれを出来るって分かってしまうのは、結構不安なものなんですよ。


 「アコ…?」

 「ちょっとアンタ、何をしようってのさ」


 訝しむ両者の視線を受けてわたしは、呟きました。


 「…形を変えても力を全て失うなんてことはないんですよ。サボってないで、ちゃんとアプロの力になってください」

 「え?」


 効果てきめん。

 刀身はわたしの求めに応じて眠りから覚めたように震え、そして戸惑うアプロの両手の中で短く激しい振動を繰り返します。


 「ちょっ…なにこれ…アコ、剣になにしたの…?」


 なにって。手を抜いてたので少し叱っただけですよ。大したことはしてませんて。


 アプロの剣は、振動の末にパキリという小気味の良い音と供に、ローイルの頭から渡ってきていたヘビの身を全て爆散せしめました。


 「あぎッ?!」


 その衝撃でローイルは頭を抱えながら、後ずさります。もしかして痛かったんですかね。だとしたらゴメンナサイ。


 「ア、アコ…これどゆこと…?」

 「アプロ、ちょっとその子躾けといてください。わたしはこっちなんとかしますから」

 「なんとかって…あと剣を躾けるって一体…アコっ?!」


 アプロはわたしを止めようとしましたが、構わずローイルの前に、立ちます。

 こうして正面に立ってみると、わたしと背丈そんなに変わらなかったんですね。瞳も爬虫類のよーなタテってわけでもないですし、額から上を見なければ、けっこー顔立ちはきれいな方です。…肌の色だけなんとかしてくれれば。

 ですので、まあ、なるべくなら苦しめたりしないようにしたいとは思いますけど。


 「…が、ぐぅ……く、そっ…なんなんだ、アンタは…」

 「えーと、わたしにもよく分かりません。ですけど、ベルに言われた言葉の意味がようやく分かったんです。あなたたちは、そういう存在だったんですね」

 「ベル…ってぇとベルニーザか。あの石の女が何を言っ…ぃっ?!」


 ちょっと気になることを言いかけましたけど、これ以上は危険なので。

 わたしはローイルの影の向こうにある、これから再生しようとしてけどそのプロセスを止められたままの石に、語りかけます。


 「ほら。止まったままだったあなたの時が、また、周り始めるんです。出てきてくださいな」

 「あ……く、テメェ…どうして、これを……」

 「わたしにも分かんないですよ。でも、出来てしまうんだから今はやるだけです。そちらにもそちらの事情ってものはあるんでしょうけど、ごめんなさい。やっぱりわたし、自分の守りたいものを優先しますね」


 ローイルの胸元に手をかざすと、わたしの言葉に応えて石が…いえ、魔獣の穴が顕れます。第三魔獣と名付けられた、彼女らのような存在をこの世界に留め置くための、核です。


 「じゃあ、失礼します」


 こちらからは見えませんが、アプロはきっとぼーぜんと。

 わたしがこれから存在を消し去ろうとしているローイルは、戦慄おののいて。


 時が止まったように身動きしない二人の視線を受けながらわたしは、丁寧にローイルの下向きになった視線の先にある、小指の長さサイズの黒い穴を縫いとめました。


 「…終わりです。じゃあ、ローイル。あなたのドジで口ばっかりなところ、実はそれほど嫌いでもなかったですよ」

 「アタシはアンタのその性格の悪いところは大っ嫌いだったよ!…コンチクショウ……アタシが、死ぬのか……」


 死ぬ、ってのとはちょっと違いますけど。

 だからそーやってわたしに罪悪感植え付けよーと、憐れっぽい顔するの止めてくださいってば。


 あんまり演技でもなさそうな悔しい顔を最後に残し、わたしが縫って閉ざした穴に引きずられていくように、ローイルは消えていきました。そこんとこだけは、バギスカリと同じだったなあ。




 「…アコ、いまのは?」

 「あー、落ち着きました?じゃあ、一度街に帰りましょうよ。帰りが遅くてきっとみんな心配してるでしょーし」

 「え?…あ、あー、うん。そだな」


 聞きたいことはいっぱいあるのでしょうけど、アプロの方はともかくわたしは割と深刻な状況でしたので、とっとと先に立って歩き出しました。

 そしたらまあ、主の意に反して体の方が反応しやがんの。


 ぐー。


 「………アコぉ…もーちょっとさ、その…」

 「あ、あはは…さすがにお腹空きましたし、ね?」

 「ね?じゃないだろー。可愛く言ってもダメ」


 そうは言っても、なんだかほんのり嬉しそうに、空を飛ぶ呪言の用意を始めてくれるアプロです。

 ですねー。何よりも、今日のところはわたしたちの勝ち、なんですから。凱旋は、空から降り立つのがわたしたちらしい、ってもんです。



 こうして、一日目が終わったのでした。

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