第105話・アウロ・ペルニカの攻防 その3
「アウロ・ペルニカに住み暮らす我が民よ!」
朗と響いたアプロの声は、広場の隅々にまで届き、この場に集った全てのひとの視線は彼女に向けられます。
「…まずは我らが同胞、ミアマ・ポルテを襲った災厄に対して痛憤の儀を示したい!前触れ無く現れ、彼の地の民を襲った魔獣の非道の行いにより、幾人もの命が失われた…私はその様に接し、悲嘆にくれたのだ!……兵は戦い、しかし衆寡敵せず、一時はミアマ・ポルテの壁を越え、魔獣は民をも襲った。城壁の内を侵した魔獣たちにより、街は混乱に陥ったこと、賢明なる諸君には想像は難くないだろう…」
アプロはここで天を仰ぎ、涙を堪えるように震えてみせます。
…いえ多分、その時の情景を思い出して、本当に堪えきれなくなったのでしょう。
「………だが、救いの手は、あった。それは、彼の地を守る英邁なる兵諸君」
そしてひとしきり悲憤を示してみせた後、視線を地に戻して一同を見渡し、言葉を続けます。
「また、ミアマ・ポルテを救わんと、国中から援けが差し向けられた。彼らは、彼女らは、奮闘した。全て、ミアマ・ポルテの民を守るためだった!…無論、我らがアウロ・ペルニカにおいても同様である。私に付き従った衛兵諸君は、勇敢に戦った。戦い、そして守った。災厄に見舞われたミアマ・ポルテを、守ったのだ……」
彼の地で行動を共にした戦友を讃え、それからアプロは胸に手を当て、声低く偲ぶように、四人のひとの名前を、呼びます。
「…バイセル・マゼステス。ウルガ・コロンヌ。クレセンテス・ミゥリ。ミヴラス・ルゥエンデ。四君の遺族よ、私を罵るがいい。恨むがいい!奮戦し、ミアマ・ポルテを守った彼らを、生きてあなた方に見えさせられなかった無能の私を、謗るがいい!」
「どういうことだ!ミアマ・ポルテを襲った魔獣は全滅させたんじゃなかったのか?!」
「アプロニア様!あなたがいて何故兵が死ななければならなかったんだ!」
「そうだそうだ!勇者だなんだ言って街の一つも救えなかったのかっ?!」
…っ!
「………落ち着け」
「でもっ!」
アプロが許した誹謗でしたけれど、わたしには聞き逃せない言葉です。
あの日、帰ってきた時に見せたアプロの懺悔は、わたしにとって尊く、誰の批難も許せないもののはずです。
それを見ていないひとの言葉なんか、アプロに浴びせていいわけがありません。
声の主を探すわたしの肩をゴゥリンさんは抑えていましたけれど、それでも首を巡らすことはやめられません。
誰ですか!アプロのあの慟哭をあざ笑うような真似をするひとはっ!!
「この街にも魔獣が来るっていうんなら、あんた一人でなんとかしてくれよぅっ!」
「俺達は死にたくないんだ!ミアマ・ポルテの二の舞はご免だっ!」
「死んだバイセルは友達だったんだぞ!どうしてくれるんだ!」
「いい加減にしてくださいっ!!」
ゴゥリンさん、ごめんなさい。
わたしは、こんな声を聞かされてじっとしていたら、アプロと一緒にいることが出来なくなってしまいます。それは、わたしにとってはすごく、嫌なことなんです。
「あの場所に行けなかった…行かなかったわたしが言う資格は無いかもしれませんけどっ!でも、だったら、アプロの声を最後まで聞けないひとにだってアプロを責める資格なんか無いですよっ!帰ってきた時のアプロの姿をあなたたちは見たんですかっ?!ミアマ・ポルテを守れなかったって、泣いて謝ってたアプロの姿を知っているんですかっ?!……四人の衛兵さんたちを亡くしてしまったことを心の底から悔いて、休む間もなく真っ先に家族のひとたちに報告に言ったアプロの気持ちを、あなたたちは本当に分かっているんですかぁっっ?!」
…アプロに心ない言葉をかけてたひとの姿は分かりませんでした。
だからわたしは、天に叫ぶように言うしか、ありませんでした。
わたしの言葉なんか、ただのわがままです。でも、アプロがどれだけ苦しんで帰ってきたか知ってるわたしがアプロの助けにならなかったら。あんなにみんなのことを考えてるアプロが、救われないじゃないですか。
「……黙って聞いていれば…あんただって針の英雄だのなんだの言われてたのに、何の役にも立ってないじゃないか!」
「どこの誰だか分からんのにこの街でのうのうと暮らして、それでどうして大きな顔をしてられるんだっ!」
わたしのやってきたことなんて、こんな事情になれば簡単に吹き飛ぶ程度のことなのかもしれないです。
自分の好きなひとだけを大事にしてきたわたしの、これが限界ってものですよ。
でもね。やっぱりわたしは黙ってられないんです。自分のせいでひとを遠ざけ、それからずぅっと黙って生きてたわたしが、自分から声を上げるようになって、そして見つけた場所を守りたいと思って、今こうしているんです。
わたしはようやく、戦うことを始めました。そう決めました。
だから、言われっぱなしで引っ込んでるような真似、誰がするもんですか。
すぅ、と息を吸って、尚更におっきな声で、叫びます。
「さっきからアプロに文句言ってるひと、出てきなさいっ!アプロは確かにこの街の領主ですけど、ひとりの女の子でもあるんです!それにコソコソ隠れて罵声浴びせて、恥ずかしいと思わないんですか!アプロの味方をするわたしはここにいます!文句あるなら、顔見せて直接言えってんですよ、ばかやろう!」
………。
そして、このクソ生意気な女め、と腕まくりでもしながら真っ赤な顔のおじさんなんかが出てくるのか、と思っていましたが…シーン、として誰も来ないでやんの。わたし、拍子抜け。
けどその代わり、今度はわたしに対する敵意に似た刺々しい空気が取り巻き始めます。いーじゃないですか。やってやろーじゃないですかっ!
「…そしてわたしに文句あるっていうんなら、黙って見てなさい!前回何も出来なかった分、今度は誰にも文句言わせない姿を見せてやりますから!」
「なんだとこの小娘が!いいじゃねえか、今すぐその面拝みに行ってやるからそこ動くんじゃあねえぞっ!」
「いいですよわたしは逃げも隠れもしませんよっ!さあ、面と向かって文句言える度胸があるってんならやってみなさいよっ!」
「……いい加減に、しろ─────ッッッ!!」
何かが破壊される音が辺りに響きました。
見ると、鞘ごと剣をぶん回したアプロが、演台にそれを叩き付けていました。憐れな演台は真っ二つ…にこそなってはいませんでしたが、それでも頑丈な木製のはずの板は見るも無惨に割れてしまい、足場になるかどうかも怪しい有様となっていました。
「まだ話は終わっていないっ!アコは確かにその場に居なかったが、その点を言えばこの場に集った者たちの大半にも同じ事が言えよう!故に我が盟友、カナギ・アコに対する誹謗は許さない!アコに物言うのであれば私に言うがいい!」
アプロの滅多に無い剣幕。叩き付けた剣を肩に担いで演台の下を睥睨する眼光の厳しさに、その場の空気は凍ります。
それはわたしでさえ例外ではなく、遠目、と言える程の距離にあるアプロの存在感に思わず身を震わせるわたしなのでした。
畏敬、そんな単語が頭に浮かびます。これが世に英雄よ、勇者よ、と称えられる存在の持つ重みなのか。ベッドでわたしにいたずらする姿からは到底思い浮かばない姿に、おかしな話ですがわたしは、手の届かない位置にいるアプロがすぐ隣にいるような思いを覚えました。
「………」
「………ふふっ」
わたしがずっと彼女を見ているのだから、彼女がわたしを見れば目が合うのは当然です。そして交錯した視線の間にあったものは、きっと同じものだったんでしょう。
アプロは今、わたしの隣にいて、きっとわたしはアプロの隣にいるんです。
そう思うと、アプロのために、と思っていた憤りが不意に自分本位の、恥ずかしいものだったように思えてきました。
なんだかなぁ…まあアプロはわたしにかばわれて、迷惑だなんて思いやしないでしょうけど、そんなことを望んではいなかっただろうな、って。それはわたしの前でだけ見せてくれるアプロの姿。わたしに庇われるアプロは、わたしだけが独占していいもの。そんなところなんだろうな、と思うと怒りも収まり、いつの間にかわたしを守るような位置に立っていたゴゥリンさんに、ありがとうございます、もういいですよ、と告げて矛を収めたのでした。
広場にはまたざわめきが戻っています。先程と違うのはその声の中にわたしの名前を呼ぶものがあることであり、今更ながらめんどーなことしちまったい、と思わないでもないんですが、ま、これは自業自得ってやつで、しょーがねぃですねえ。
それで場は収まり、演台の上のアプロが居住まいを正し、演説が再開…するかと思われた時でした。
いかいのおんなにでかいかおをさせていいのか
……?
誰の声か、は分かりませんでした。大きな声ではありませんでしたけれど、それは不思議と誰の耳にも残る、声でした。
そしてそこには間違いなく悪意の響きがあって、もしかしてわたしと言い争った誰かが負け惜しみのように言ったのかもしれません。
でもそれは、その場での何の意味もない呟きに終わりませんでした。
「異界?何だそりゃ」
「針のねえちゃんのことかい、それは」
「異界…なんか外の教会の人に聞いたことがあるような…」
「あたし聞いたことあるよ…なんでも魔獣が生み出されてる場所があるって…」
「針の英雄がその異界?ってのから来たってのかい?」
あ、これやべーかも…。
悪意ある、とはいえ一言でここまでわたしに風向きが悪くなる、ってのも妙に思わないでもないですけど…わたしをとりまく視線が、フラットなものから奇異なものを見る目に変わってきてるような…。
再びゴゥリンさんが、わたしを背中に庇うように立ちます。わたしも今度はしっかりその腕に掴まって、次第に異物を見るものに変わってくる目線から隠れるしかありません。
怖さは感じませんけれど、それも「まだ」で留まっているだけなのかも…と助けを求めるようにゴゥリンさんの顔を見上げた時でした。
「アコ!!」
凜と響く、言わずと知れたアプロの声です。
演台の上を見ると、右手をこちらに差し出したアプロが、続けて言いました。
「こっちに来い、アコ!」
それは文字通りわたしにとっての救いの手ではありましたけど、どーやってそこまで行けばいいのか…と思ったら。
「ひゃあっ?!」
ぐいっと脇に伸びた腕がわたしの体を持ち上げ、そしてわたしはゴゥリンさんの肩に乗せられてしまったのでした。
「あ…のっ、ちょちょっとこれわ…」
「………嫌か?」
…と言われると。
ゴゥリンさんの右の肩に腰を下ろす格好になったわたしは、こちらを見上げてあんぐりと口を開けてるひとびとの顔を見渡し…。
「…けっこーいいですね、これ」
「………だろう?」
この態勢でいつものおっきな笑い方をされると、落っこちないようにゴゥリンさんの毛むくじゃらの頭にしがみつかないといけなくなるんですけど、それはそれでなかなかに愉快な体験で…あ、たてがみにも枝毛ってあるんだ。
「よーし、アコ、良い子だー。こっち上がっておいで」
そのままアプロの前までやってくると、わたしの目の高さが彼女の胸元のあたりになります。ていうか良い子は無いでしょーが、良い子は。わたしあなたよりも年上なんですよ?
「ほら、つかまって」
まあでも、このシチュエーションに免じて文句は勘弁してあげます。
だって、差し出された手をとって、よいしょって演台に飛び移ったわたしをアプロが抱き止めてくれるだなんて、まるで王子さまに迎えられたみたいでどきどきするじゃないですか。ね?
「…おつかれ、アコ」
「それはこっちの台詞ですよ。で、これからどーしようってんですか?」
「うん。アコ、私と一緒に、みんなを救お?」
今の今でこー言われましてもね。わたし、これで結構根に持つ方なんですよ?、と演台の下を見ます。わたしと目が合うと、ひどくばつの悪そうな顔をして人影に隠れたひとがいましたから、きっとそのひとたちがわたしにケンカ売ってたんでしょうね。いやー、やっぱ高いところ好きです、わたし。
しょーもないことを考えてるわたしを、アプロは見透かしたよーにジト眼で見ていましたが、それはそれとして前に向き直り、また剣の柄に両手を乗せた格好に戻ります。
そしてその隣に、わたし。
…横目でアプロを見ます。なんだかなぁ…初めて会ったときから比べるとすっかりおっきくなっちゃいました。もうすぐ背の高さでは追いつかれそうですし、わたしの心の中に占める大きさだって、とんでもないことになっちゃってます。
「我が民よ!」
そのアプロは、改めて宣言します。
わたしは一歩退いて、皆がアプロに注目しやすいようにしました。
「カナギ・アコに…アコに向けられた悪意は全て私が引き受ける。その上で、失われた四人の命に誓おう。来る危機に、私たちは先頭に立ち、これを退けてみせる。そう…この街に危機が今、訪れているのだ!」
広場がシン…とします。この集まりの最重要な話題ですから当然です。
わたしを悪し様に言ったひとでさえも、立ち止まって演台の上のアプロを見上げています。
「…そしてこの危難に際し、我が民の合力を併せて求めたい!魔獣と対峙せよ、とは言わない。城壁を堅固にし、弱き者を守り、戦う我らより後顧の憂いを取り去って欲しいのだ!さすれば…我ら、必ずや我が民を守ってみせる!私が…私と、このカナギ・アコが皆を先導しよう!そして共に、危機を乗り越えようではないか!」
…をーい。なんかわたしまで巻き込んでとんでもないこと言っちゃってますけど、この子。
まあでも、実はあんまり心配はしてないのでした。アプロがこう言った以上、成算が無いわけじゃないでしょーし、まあなんとかなるでしょ、と言い聞かせておきます…いえその、流石にぶっちゃけ、こえーですよ。
ガルベルグの思惑とか口振りからして、この場でわたしやアプロをどうにかしてしまう程の事態にはならないのかもしれませんけど、それだって街が無傷で済む保証ないわけですしね。
それだけ準備をして、例えミアマ・ポルテほどの規模の魔獣来襲でなかったとしても、誰も傷つかないで全てを終えることが簡単に可能だとは、とても思えません。その、無傷で済まないひとの中に、わたしの親しいひとがいるとも限らないですし。
わたしはどんなに周到な用意をしたって、怖さからは逃れられません。そして、だからこそ、今の自分にやれることは全部、完璧にやっておこうと思います。前回何も出来なかったから、余計にそう思うのです。
そのためにも、この街のひとたちと力を合わせていきたい…んですけど…ね…。
「だがその、異界の女はどうなるんだ!」
「異界というのは魔獣がやってくるところなんだろう?!そこから来た女を信用してもいいのかっ?!」
…なんかそう簡単にもいかないみたいで。
ですが今度は、アプロ以外にもわたしを庇ってくれるひとが、います。
「…ちょっとさっきから黙って聞いてりゃ何だってんだい!針の嬢ちゃんが今までしてきたことを何も知らないで勝手なことを言うんじゃないよこのドサンピン!」
気風のいい声の方に目を向けると、研ぎ師をやってるカルナテさんでした。わたしがいつも縫い物の針の研ぎをお願いしてる女性です。
「…ってよく見りゃガスタンじゃねえの。アンタうちのツケどんだけ溜めてんだよ、一端の口利くってんなら酒場に入り浸る前に仕事道具整える金くらいちゃんと払いな!女房が泣いてるよ!」
わはははは、と周囲が笑いの渦に巻き込まれます。察するに、あのガスタンとゆーひとはそういう風に知られてるんですねえ。…今度なんか言われたらそう言い返してみましょう。
そしてカルナテさんに触発されてか、そこかしこでわたしを擁護してくれる声が起こり、広場は不意の議論の場と化していきます。その話題の中心がわたし自身である、とゆー事実を除けば、まあ賑やかなことで楽しいものなんですけど。ええ。
「…どーだ?アコ」
「どう、と言われましてもねー…」
そんな有様をぼーっと眺めてるわたしの隣に、アプロがやってきて言いました。
「アコはさ、いろいろ難しい立場かもしんないけど、それでも自分がやってきたことでこれだけのひとを動かせるんだよー。それは誇ってもいいことなんじゃないかな」
「買いかぶりすぎですよ。それみんな、アプロや他の仲間たちのお陰じゃないですか」
「まーたアコはそーいう自信のないことを言うー…」
「…って、今までは思っていたんですけどね」
「ん?」
わたし、最近思うんですよ。
今までのわたしは、自分のしてきたことで誰かを怒らせたりしてきた、だからもう黙っていよう、喋らないでいればもう誰も傷つけることはないだろう、って。
でも、それじゃ生きていくことも出来ないって知って、自分なりにやれることをやって、そうしてこの一年生きてきた結果がこれだっていうんなら。
…わたしもちょっとは誇ってもいいのかな、って。
「…アコ?」
わたしは、隣のアプロの手をそっと握ります。こっちを見てるひとなんかいやしないでしょうから、好きにしてやります。
言葉にはしませんでしたが、繋いだ手を通じてアプロに伝えます。
ありがとう、アプロ。わたしを、自分を好きになれるように変えてくれたのは、あなたです。だから、わたしは自分を好きなのと同じくらい、いえそれ以上に、あなたのことが好きですよ。
「……ん。そろそろかな」
わたしの横顔を見ていたアプロが、呟きます。
そーですね。宴たけなわですけれど、今はこんなことをしてる場合じゃないです。
アプロもわたしと同じ想いなのか、繋いだ手を離し、また演台の最前に立ち、叫びます。
「気が済んだか!では騒ぐのは全てが済んでから、祝いの席で行うことにしよう!祝勝会は私の奢りとする!細かいことは追って沙汰するが、今は各自意を決めてもらいたい!」
「うぉぉぉぉぉっっ!!」
気の早いことですねー。でも、具体的な勝ちの姿を提示してやる気を煽るのは悪い手じゃ無いんでしょーね、きっと。
さあ、これから忙しくなりま…
「アコ、ちょっとこっち来て」
と思ったら、アプロがわたしを手招きしてました。
「はあ…何です?」
この期に及んでわたしの出番なんか無いでしょーに、今以上に目立つのは勘弁ですよ?
と、戸惑うわたしの手をとり…いえ手をとるどころか腰を抱いて、いかにも親しげな態度を見せつけるように、まだ騒ぎの収まりきらない台下を睥睨します。とても、とてもえらそーに。「ふんっ!」って鼻息が聞こえそうなほどに。
あのー、これから何をする気なんですか?
「…皆に伝えておく。今し方言われていたように、確かにアコは異世界より訪れた者だ。そしてその力によって今まで私たちを助けてくれてきた。それは今後も変わらない。我らと共に、アコは居続ける。だが…」
なんだか興奮したように、ちょっと早口でまくし立てた後、アプロは言葉を切ってすぐ近くのわたしの顔を、見上げます。いえもう、見上げる、なんて高さの差はないですね。初めて会った頃は頭一つ分近く背が低かったくせに、いつの間にか拳一つ分も無いんですから。
「だが、一つだけ言っておく。アコは、この、異世界から私が招いたこの女は………私のものだからな野郎ども─────ッ!!」
「んあっ?!」
い、いきなりなんちゅーことを言うですかこの子はっ?!…と思う間も無く、わたしの後ろ頭を抱くように顔を寄せてきて、そして、衆人観衆の中…
「んぷぅっ?!」
…ぶ熱いベーゼをカマしてくれやがりました。
ひとつ、ふたつ、みっつ…心を落ち着けようと数を数えたというかむしろ頭がポーッとしてきたわたしの唇からアプロが離れると、広場はものの見事にシーン…としてました。
いやそりゃそーでしょうよ。敬愛する美少女領主さまが、いつも一緒にいた女とデキていた、なんて事実を突き付けられりゃ。
わたしはそう思ってひとりオロオロしておりましたが、いつまで経っても咳き一つ聞こえてこない台下を怪訝に思い、そっとそちらに目を向けてみると…。
どわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
………ってな感じに、大騒ぎになりました。
「ア、アプロぅ……これ、どーするんです…?」
虚ろな響きのわたしの声に、アプロはもんのすげードヤ顔で、先刻と全然違う種類の騒ぎが始まった広場を見つめているのでした。




