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竹取の翁

 俺は香川健人。大学受験に失敗し、予備校にも通わず廃人のような暮らしをしていた俺はある日気まぐれに散歩に出た。そして目の前で車道に飛び出した子供をかばい、トラックにはねられ、死んだ。

 

 目を覚ますとそこは異世界で、どうやら街を出ればモンスターがうようよ歩いているような世界らしい。日本から来たということを道で捕まえた現地の住民に話すと、目を輝かせて「二ホン人はモンスターに強いんだよ」と言い、問答無用で街の冒険者ギルドに連れていかれ、冒険者のライセンスを取得した。


 どうやら俺の他にも日本から来た者がいるらしい。彼らは特殊な武器が扱えたり、技能を持っていたりしてもの凄い活躍をしていった。だから俺もそうなんだろうということだった。おめでたいもので周りの人間に乗せられて俺はすっかりその気になっていた。ところが武具屋に案内され、どの武器を手にとっても重くて持ち上がらなかった。主人の話によると人はそれぞれ生まれつき装備できる武器と、できない武器があるということだった。結局装備できたのはカウンターの裏に転がっていた竹槍だけだった。「まあ、二ホン人なら大丈夫なんじゃない?」と言いながら主人はタダで竹槍をくれた。


 二ホン人と聞いて仲間になりたいという冒険者が何人か声を掛けてきた。俺をリーダーに狩人、魔術師、女盗賊でパーティーを組んだ。俺の獲物を見て皆一瞬表情を曇らせたが。二ホン人だからということでついてきてくれた。

 三人の勧めで手始めにゴブリン討伐に向かった。ゴブリンは動きが単純で俺でも攻撃を見切ることできるくらいの雑魚だった。しかしいざ竹槍を突き出してみると、それはゴブリンの革の鎧すら貫くことが出来なかった。めちゃくちゃに振り回しているうちに、竹槍は折れてしまった。結局ほかの三人がすべてのゴブリンを倒してしまい、討伐依頼は果たすことが出来た。


 翌朝、集会所に顔を出すと、パーティーメンバーの三人と、もう一人見知らぬ男が卓を囲んでいた。

「そちらは?」

 魔術師に尋ねた。

「彼は昨日この街に到着した戦士だ。俺たちのパーティーに入ってもらうことになった」

「ああ、そう。よろしく」

 戦士と握手を交わした。

「でも、パーティーの上限って四人だよな。誰か抜けるのか」

「……タケトも戦士だろ。一つのパーティーに戦士は二人いらない」

「冗談だろ。俺を追い出すのか? これは俺が作ったパーティーだぜ。おい、二人もこれに賛成なのか?」

 狩人と女盗賊の顔を順に見た。

「だって、ねえ。竹槍しか使えないんじゃ、ゴブリンだって倒せなかったじゃない。そんな戦士、足手まといよ。しかもその竹槍だって折れちゃってるし」

 女盗賊がめんどくさそうに言う。

「竹槍で戦う人って、二ホンではゾーヒョーって言うんでしょ?」

 ゾーヒョー? 雑兵のことか? そんな言葉まで伝わっているのか。

「あの、俺はタケトのこと友達だって思ってるから」

「何言ってるのよ。あなたもタケトは外したほうがいいって賛成したじゃない」

 おずおずと切り出した狩人を女盗賊が黙らせた。

「自分の実力もわからずにフィールドに出るのは無謀よ」

「ちょっと待てよ、昨日の今日で決めるのは早いんじゃないか? 俺に合う武器だって見つかるかもしれないし」

 しかし、三人とも俺と目を合わせてくれなかった。

「そうか、わかったよ」

 俺はその場を去った。

 新しく仲間を募るべく、ギルドで手当たり次第に声を掛けてみたが、誰も話を聞いてくれなかった。竹槍しか使えないゾーヒョー二ホン人の噂はすでに広まっているらしい。くすくすと俺を見て笑う声が聞こえてくるような気がした。失意のうちに俺はギルドを去った。


 俺は冒険者を諦め、職業安定所の世話になり、年を食って仕事がきつくなったという村に住む爺さんのもとに身を寄せた。爺さんの仕事というのが、竹を切り加工して売るというものだった。また竹かとげんなりしたが、爺さんに習って竹細工を作るのは楽しかったし、人のいい爺さん婆さんと一緒に暮らすのも心地よかった。二人は子に恵まれなかったらしく、孫ができたみたいだと俺を可愛がってくれた。


 二か月ぐらいたったある日のこと、俺は山に入り竹を切っていた。気まぐれに、山の奥へと進んでいった。そこで、光り輝く竹を発見した。まさかと思いきってみると、中から背丈10センチぐらいの少女が出てきた。

「か、かぐや姫……」

 俺は大慌てでかぐやを抱え、爺さんの家に走った。爺さんと婆さんはかぐやに驚きはしたが、孫が二人もできたわいと言って喜んだ。

 それからというもの俺が切る竹の中から金の粒が出てくることがしばしばあり、俺たちの暮らしは豊かになっていった。

 三か月のうちにかぐやはすくすくと成長し、十七、八頃の姫となった。俺によくなついて、家にいるときはべたべたとくっついてきた。

 ある時俺はかぐやに竹槍しか使えず冒険者になりそこなったことを話した。俺が笑い話に仕立てたので、かぐやは鈴の鳴るような声で笑った。

「竹を探すと良いですよ。私が生まれた、あの竹を」

 俺はすぐさまかぐやを見つけたあたりまで走った。俺が切り倒した竹はいまだに光り輝いていた。適当な長さに切ってみたが、竹は太く手になじまなかった。ため息をついた瞬間、竹は縮こまり、ぴったり手に収まるサイズになった。まさかと思い試してみたが、俺のイメージ通りに槍は大きくなったり小さくなったり出来た。俺は西遊記に登場する如意棒を手に入れた気分だった。

 

 俺は五か月ぶりにギルドに顔を出し、光る竹槍をちらつかせて強引に仲間を二人集めて、ゴブリン退治に出かけた。光り輝く竹槍は楽々とゴブリンの鎧、皮膚、肉、骨、内臓を貫いた。連れてきた仲間二人の出る幕は無く、俺がすべてのゴブリンを片付けた、楽な仕事だったなと言い彼らは帰っていった。

 その後も様々なモンスターで槍を試したが、貫けないものは無かった。

「これで戦えるぞ。いや、無敵だ」

 俺は槍の力に満足いった。


 俺は単独で次々とモンスターの巣を破壊していった。名声は高まるばかりだった。

 そんな折、ギルドに重大な報せが届いた。巨龍の復活の兆しが表れたということだった。いつから生きているのかわからない巨龍は人を襲う。前回現れたときには、世界が炎に包まれた。その時はニホン人が巨龍を封じたと言う。今この世界にいる二ホン人は俺だけだった。光り輝く槍を持つ俺にこの時世界中の期待が集まった。


 俺は一度爺さんの家に帰り、巨龍のことを話した。

「ああ、覚えておる。この辺りはまだ被害が少なくて、ワシや婆さんは生き残れたがの」

「タケト、いくらその槍を持っていても古龍は一筋縄ではいきません。彼は、火を吐き、雷を出し、風の速さで飛びます。頼れる仲間と装備を集めて戦いに臨まねばなりません」

 ほぼ村から出すことなく育てたのに、かぐやは様々なことを知っていた。そして俺に度々助言をくれるのだった。

「うん、わかった」

「私も戦います」

「へ?」

 意外な言葉に素っ頓狂な声を出した。

「蓬莱の玉の枝があれば私も戦えます。まずはそれを取ってきてください。それさえあれば私がタケトを守りますから」

「は、はい」

 俺は危ないからやめろと説得するはずが、かぐやの迫力に負けついそう返事していた。

「蓬莱の玉の枝は本来月にしかないものですが、今から十七年前、月の石がサクロの地に飛来しました。そこにあるはずです」

 そのような説明を受け、俺はサクロの地に旅立った。 

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