第一話
目を覚ますと青と黒の境界線にいた。
妙に青い方から風が吹き上がって来ており、所々に緑や白が混ざって宇宙から見た地球のような感じになっていた。
........ん?待てよ?俺落ちてないか?
混乱する頭を追い詰めるかのように地面は迫ってくる、次に起こる事態を察して目を閉じようとした時視線の端から緑色の物体がこちらに飛んでくるのが見えた。
「ぐはっ...」
自分の身体の5倍はありそうな緑色の飛翔体にぶつかりその衝撃でベクトルが変わり地面と水平に吹き飛ばされる。
だけどひとつだけ確実な事が分かった、これは夢じゃない!緑色の物体に当たった右半身の感覚が痺れて無くなっているからな!.....自販機に頭突きなんてしなきゃ良かった。
緑色の物体は徐々に速度を緩めグチャグチャと嫌な音を立てながら地面を抉りながら漸く動きを止める。
「うぇぇ、ジェットコースターに乗った気分だけど右半身の感覚が無くなってる、夢だろう。きっと夢だ」
「なぁ、今上から男の声聞こえなかった?」
「ドラゴンって喋るだろ、まだ生きてるんじゃねぇの?」
「冗談でもやめてくれよ...ドラゴンって私が万全の状態でも勝てないような相手なんだからな」
どうやら緑色の物体の下に人がいるようだ、何やらドラゴンとか日常生活で聞き慣れないような言葉が飛び交っているが何のことだろう?
「なら上に登って確かめてこいよ、ひょっとしたら誰かいるかもな」
「何かあった時怖いから戦闘できるように準備しといてね?」
「当たり前だ」
「なら自分で行けばいいのに(小声)」
「なにかいったか?」
「ないです。」
やばい、何がやばいかは知らないけどこっちに来そうだ、しかも戦闘準備って間違えたら殺されるってことだよな!?逃げたい、すっごく逃げたい…けど身体、主に右半身がいうことを聞かない!
「よいしょっと.....」
「.........」
よじ登ってきた黄緑色の髪の青年と目が合う。
「「.......あっ、どうも」」
ーーーーー
「つまり?カオルは上空から落ちてきてこのドラゴンにぶち当たってここまで飛んできたと?」
「はい、信じてもらえます?」
「な訳あるか」
「ですよねー、俺もそちらの立場なら絶対信用しないですもん…」
「えっと、とりあえず私の名前はラズ、それでこっちが.....」
「レイジュだ」
「改めてカオルです、よろしくお願いします」
目の前の黄緑髪で身長の高く耳が横に広がっている人がラズ、白髪で無愛想な人がレイジュという事だけは分かった、因みに動けない俺はさっきからドラゴン?の上に横たわったまま会話している。
「というかカオルさんはどうして座らないんですか?」
「あ、すいません右半身がこの緑色の奴のせいで完全に動かないんですよね」
「怪我してんのか?」
「骨折はしてると思います、無礼でごめんなさい」
俺だってちゃんと座って話したいのだ、だって見るからに前の人1人弓持っててもう1人はでかい鎌背負ってる...死神かな?そんな奴らに囲まれててこんな無礼晒してたらいつ殺されるか分かったもんじゃない、でも平然としてなきゃ逆に言われそうだしな...
「これ飲め」
レイジュが瓶に入った明らかに色のおかしい紫の水を飲めと言ってくる。
「これはぶどうジュースかなにかですか?」
「俺が自作してる回復薬だ、丁度実験したかったんでな」
死神の実験対象に選ばれたみたいだ...これならまだブラック企業でブツブツ言いながら過ごしてる方がマシだぞ!
でも飲まなかったらあとが怖いし…いけ!男薫!ここで怖気付いて何が男だ!
俺は口を使って瓶の蓋を勢いよく開け、そのまま紫色の液体を左手から流し込む。
「あ、忘れてたそれ一気に飲んだら気絶するぞ」
「それは早く言っ.....」
本日で2度目の意識が飛んでしまった
ーーーーー
「.....知らない天井だ」
「目、覚めた?」
ベッドの横にはラズが座っていた、どうやら看病してくれていたみたいだ。
でも欲を言うなら我らが敵のイケメンじゃなくて綺麗なナースのお姉さんとかに色々と看病してもらいたかったな....
「ここは?」
「ここは私が借りてる宿屋だよ、今レイジュを呼んでるから待ってて」
「あっ、はい」
そういいラズが部屋から出て行ったのを確認してから状況を整理し始める。
第1、まずここはどこだ?
明らかに窓から見える景色は高層ビルが立ち並ぶ都会ではなくレンガ造りの家が多いことから、住んでいた場所の付近ではないと断定できる。
ラズやレイジュとか明らかに日本人の名前してないしな。
第2、何故右半身が治ってる?
1番可能性があるのはレイジュが持っていた謎のぶどうジュースの色をした飲み物、ポーなんたらとか言ってたヤツのせいなのか?
だとしたら持ち帰ることが出来れば億万長者も夢じゃない気がするぞ。
第3、身体が縮んでしまった!
来ていたスーツが一回りほどぶかぶかになっている。これはぶどうジュースの作用なのかは謎だが多分160くらいになっているだろう。
なんだか落ち着かない。
答えの出ないまま考えていると扉が開きラズが眠そうにしているレイジュを連れてきた。
「ほら、起きてるよ」
「おぉ、生きてたのか」
「あれって死ぬ飲み物だったんですか!?」
「いや、違うけど分量が明らかに多かったしな、普通は1滴くらいで十分な筈なのに全部飲み干しやがって」
「ごめんなさい」
「まぁいい、今身体に変化とか起きてねぇか?」
動かなかった右手や右足を動かしても何不自由なく動く、触ってみても特に変化はなさそうだった。
「何にも変化ないです、あの飲み物なんなんですか麻薬とかじゃないですよね...」
「まやく?聞き覚えはないがちょっと腕貸せ」
レイジュに言われた通りに腕を突き出すと持っていたナイフで俺の腕を切ってきた。
「ぎゃあああああああああ?あれ、痛くない」
「ふむ、この回復速度は昔から....じゃないか、驚き過ぎだもんな」
「俺、今切られましたよね!?傷治ってるんですが俺の身体に何したんですか!?」
「普通はこうはならん、カオルは全部飲んだからどんな作用があるのか気になって切っただけさ」
「もし治らなかったら俺切られ損だよね!?」
「また飲めばいいだろうるさいな、腕切り落とすぞ」
「あっ、はいごめんなさい」
なんて理不尽な人なのだろう、と思いつつ従う...あれ?これってブラック企業と変わらなくね?
「とりあえず、お腹すいてるだろうからご飯にしようよ、話はそれからね」
ラズが強制的に話をたたみ、3人でご飯を食べに行くことにした。
そういえば日本のお金ってこの国で使えるのだろうか…って財布は机の上に置きっぱなしだし身分証明書もない......あれ?俺やばくね?密入国者だと思われたら軽く死ねるんだけど…
嫌な汗を吹き出しながら2人について行っていると
「ここだよ、私たちが日頃から飲食してる場所」
「またここかよ、俺は別の場所がいいんだが」
レイジュの一言に先行きが不安しかなくなったのだがまぁまぁとラズが背中を押してきて、半ば強制的に店に入る。
「俺はここでは食わんからな」
「はいはい、じゃあカオルくんは何か食べたいものとかある?」
「いえ、お金持ってないので遠慮しておきます」
「なら私の分を使うといい、私と一緒のを頼んでおくね」
「あ、ありがとうございます」
この人はなんて優しい人なんだ、と思いつつ前菜のサラダが運ばれてきた。
瑞々しくとても美味しいサラダでレイジュは何がダメなのか俺にはまだ分からなかった。
「こちら黒色野菜のスープです」
店員さんがサラダを食べ終わったタイミングでスープを持ってきてくれた。
これも美味しい。
「こちらメインディッシュの野菜炒めです」
メインディッシュが野菜炒めとは…と思ったが見てさらにびっくりした。
この野菜炒め......肉入ってなくね?
野菜をフォークで持ち上げ下の方も確認したがやっぱり肉らしきものは見えなかった。
た、確かに野菜炒めだな、野菜を炒めただけだな…
レイジュの方を見ると退屈そうに水を飲んでいた。
ま、まぁ別に野菜が嫌いなお子様でもないしこのくらい食べれるし何も問題は無いな。
「こちらデザートのサラダになります」
待て待て待て待て!?サラダは前菜だよな?今店員はなんて言った?
"こちらデザートのサラダになります"だって?
まさかとてつもなく甘い野菜じゃと思って食べたが…ただの野菜でした。
口直しに飲み物を頼もうとメニューを見て唖然とする。
飲み物の欄には野菜ジュースしかなく、単品の料理もすべて野菜系統のもの。
そして俺はようやく理解した、レイジュがこの店を嫌がった理由が。
「あ、そういえばだけどお金ないってことは他にも大事なもの無くしてたりするの?」
ラズはデザートのサラダを食べる手を止め俺に向かって聞いてきた。
「お金、免許証、家の鍵、家の場所...あっ、人として暮らすための全て失ってます、すいません」
「いやいやいや、謝る必要は別にないんだけどね行く宛あるのかなーって」
「全くないです...」
「あぁ身分証明書は再発行できるぜギルd...」
「あぁっ!?レイジュ!私のフルーツ取ってたのに食べたでしょ!?」
「残してるから要らないのかと思ってな」
レイジュが何かを言おうとした時にラズさんが叫び声をあげレイジュに怒っていた。
ーーーーー
「いやー、美味しかったねまた来ようねカオルくん!」
「えぇ、まぁ気が向いたら」
店員さんのおかげもありラズの怒りは静まり店を出て歩いていると遅れて合流してきたレイジュさんがざまぁみろと言わんばかりの顔で出店で買った串焼肉を頬張っていた。
「こらレイジュ、歩きながら食べるのはマナーが悪いよ」
「うるせぇな、お前は俺の親かなにかなのか?自分の嫌いな肉食べてるからって怒るなよ」
「まぁまぁ、やめましょ人が周りにいるんですし」
俺の制止のせいかは知らないが2人はそれ以上何も言わず店にいる時に言ってた身分証明書の発行場所に向かった。