プロローグ
「はい、お電話代わりました黒金会社の鈴月薫と申します」
俺は今日で社会人2年目になる。
仕事の要領なども掴んだがこの会社、どう考えてもブラック企業のそれだ。
残業が多い割に残業代は少なく、それについて咎めると何かと言い訳されてウザくなったらすぐ辞めさせるぞと脅迫してくるまである。
しかし俺もこの会社を辞めてしまうと行く宛がなく泥沼にはまってしまっている状態だ。
電話を対応し終え小休憩でも取ろうかと思っていたら
「あ、薫くんこっちも頼んでいいかな?」
「あっ、はい!」
間髪入れずに自分の仕事まで押し付けてくる上司にうんざりしながら、顔には出さず笑顔で仕事に務める。
「じゃあ薫くん、あと宜しくね」
無情な言葉を突きつけられオフィスでただ1人パソコンに向き合いエナジードリンクを飲み干す。
ふと、机の上を見ると空になったエナジードリンクの瓶が3本乱雑に置かれていた。
「はぁ...3時間か、あと1時間くらいで終わりそうだし買いに行くか…」
過度なデスクワークで凝った肩と腰に鞭を入れゆっくりと立ち上がる。
傍から見たらゾンビが自販機に向かって歩いているように見えるのだろうが今は誰も居ない、だらしない歩き方をしても咎める人が居ない会社とはいいものだ....悲しいくなってきたからやめよう。
自販機の前まで来て自分が財布を持ってきていなかった事に気がつく。
「あー財布忘れた、頭突きしたらエナドリ出てこないかな」
疲れ過ぎて頭が回らない、取りに戻る気力すらない為自販機に向かって思い切り頭をぶつける。
「ゴトンッ...」
何かが落ちた音が聞こえたやったぜ、無料で飲む飲み物ほど美味い飲み物はないだろう、そう思い自販機から取り出すために屈んだ瞬間言い表せない程の頭痛が襲ってきた。
「がぁっ!?」
その場に倒れもがき苦しむが頭痛は止まない。
「ヴッ、グゥッ、ガァッ!」
どれだけもがこうが痛みが治まるどころかさらに増していく。
やばい、走馬灯みたいなの見えてきた。
ガキの頃の誕生日の記憶、小学生の頃のテストで100点と取ったこと、中学の頃の発行の記憶、高校の頃の告白に成功した時(別れたが)、猛勉強して大学に受かった時、少ない初給料で親を食事処に連れて行った時、上司がカツラだと気付いた時、こんな時だけ嬉しかった思い出だけどんどんでてくる。
最後のは違うか。
ああ、やばい急に意識が霞んできた。
「ちょ、これは...すが...む.....」
俺は意識を手放した。