二人ならば
ガレット――あいつ、何つう、何つうパワープレイを……っ!
何つうブッ飛んだことをかましやがってんだっ!
「……くだらん小細工がっ。すぐにそのニヤケ面を――」
「ニヤケ面を、どうするって?」
「なっ!?」
!?
ブレイドル――あいつ、いつの間にガンドウの背後へ!?
「クソっ、瞬間移動だと!? 小癪な真似をっ!!」
「瞬間移動? 御冗談を、ガンドウ殿」
彼は、ウェーブの掛かった髪をキザったらしく払った――
練り上げられたエネルギーが彼の足へ集まっていく。
「僕はただ、全身全霊で走っただけです――よっ!!」
「ぐおおっ!?」
そして繰り出される、空を絶つほどに鋭いキック――
がつんと鈍い音が響き、ガンドウが無様にすっ転がった。
しかし、ブレイドルは容赦なく追撃を仕掛ける。
真っ赤な刃がキラリと輝き、鋭く振り下ろされた。
「ぐ……く、畜生っ!!」
しかし腐ってもSクラス。
すんでのところで飛び退き、回避した――が、その動きは明らかに精彩を欠いていた。
ブレイドルの全力の蹴りをバリアなしで喰らったのだ、そうもなろう。
「小癪な真似をっ!! ならば、これで……!!」
ガンドウは両手を天に突き上げ――再びゴーレムを起動させた。
吹き荒ぶ魔力に強烈な風が巻き起こる。
「更にエネルギーを注ぎ込んでやった――ミスリル銀と同等の硬度を誇る、我が忠実なる僕を打ち破れるか!? ――いいや、貴様ら如き凡人には打ち破れまいっ!!」
悪意剥き出しで叫ぶガンドウ。
迎え撃つブレイドルは顔を強張らせる。
が――ゆっくりと、彼は瞳を閉じた。
それから、深呼吸を一つ。
刹那――
「――だああああっ!!」
雄叫びと共に、空間をつんざく真紅――目も眩むほどに激しい光が、世界を満たした。
鮮やかな閃光が幾筋も幾筋も迸る。
切り裂く切り裂く、断ち切る断ち切る。
響く金属音――
「これで、どうだああああああああああっ!!」
「ぐおおおおっ!?」
止めと言わんばかりに、渾身の突きを繰り出し――ゴーレムは轟音と共に跡形もなく消し飛んだ。
余波を喰らい、再びガンドウは吹き飛ばされていく――
その隙を、ブレイドルが見逃す筈もなかった。
僅かに腰を落とし――地面を蹴り抜く。
――迅い!!
元から身体能力に関してはズバ抜けたものがあったが、それにしても今の彼の動きは凄まじい。
風のように駆ける駆ける――
飛び散った破片と破片を足場のようにして、空中を飛び回り飛び回り――あっという間にガンドウへ肉薄する。
叩き込む剣撃――
「く、おおあっ!!」
が、ギリギリでバリアに阻まれてしまう。
「おやおや、どうしたのですかガンドウ殿!! バリアは張らないのではなかったのですか!?」
「……あり得ん、あり得んぞっ!! ただ魔法のレベルがアップしただけで、ここまでのパフォーマンスを発揮できる訳がない!!」
そう――その通りだ。
実際、今のブレイドルは文字通り“桁違い”だった。
以前の数倍以上の動体視力、反射神経――そしてパワー。
Aクラスとやり合えるかも――どころか、純粋なインファイトならば、Aクラス数人を同時に相手取っても余裕で勝利をもぎ取れるだろう。
ま、そうなるのも当然だけどな!
あまりに痛快なモンだから、ついついニヤニヤしてしまう。
今、あいつは――刃の魔法の制御に、一切気を遣わなくていいのだ!
これまでエネルギーコントロールに裂いていた集中力の全てを、目の前の敵を打ち倒すというただ一点に向けることができているのだ!
何で、んなことができてんのかって!?
ははは、答えは単純だよ、ほんとビックリするくらい簡単なことだよ!
刃の魔法の複雑極まりないコントロール――
それを、あいつら如き凡人が扱い切れる訳ねえよな!
ましてや相手は才能に恵まれまくった怪物で!
んなモンと戦り合ってる最中にあんなテクニカルな術出すとかありえねえよな!
当たり前の話さ!
だが――違う!
今、その複雑怪奇なコントロールに気ィ巡らせてんのは、ブレイドルじゃねえ!
――ガレットだ!
今、必死の形相浮かべてるあいつが!
汗ダラダラ垂らしてみっともなくって、それでも諦めてねえあいつが!
あいつが、外部から刃の魔法の制御を請け負ってるんだ!
本来ブレイドルがやらねばならない外側から魔力量の加減、出力調整、形態変化に性質分析――その全てを担ってるんだ!
「は、ははっ、信っじらんねえ……この土壇場で、こーんなアイデア思い付きやがったのかよ、あの底抜けバカのクソ凡人は……!」
笑いたくもないのに笑ってしまう。
背筋がゾクゾクする、とんでもねえ、本当にとんでもねえ。
強力だけど、操作の難しい魔法があります?
最低でも脳味噌一つ分くらいの演算能力がなきゃ実戦じゃ使えません?
人類がフルに性能を発揮するには脳味噌二つ常設しましょうね?
――だったら、一人じゃなくて二人で使っちゃえばいいじゃん。
単純だ、ほんっと単純!
ド直球ドストレート、死ぬほどまっすぐな発想!
猪突猛進単純バカのガレットらしい、ほんと分かりやすい発明だ!
「おおおおおおおおおおおおおおああああっ!!」
「く、ぐおっ、ぬううああっ!!」
叩き込む叩き込む叩き込む。
次第に、ガンドウのバリアへヒビが入っていく……!
驚いたぜ、まさかフルに性能を発揮した刃の魔法がここまでブッ壊れてるとはな!
そりゃ代々伝わってもくるわ!
しかし、ヤツもやられっ放しではない。
エネルギーの波動を放出する――ブレイドルが、汗を飛ばしつつ咄嗟に距離を取った。
「……もう、面倒だっ!! 今、この場で全ての魔力を解き放ち、貴様らを粉々に――っ!?」
橙色の輝きが弾け――ガンドウから溢れ出ていた魔力が、急激に霧散していく。
――いつの間にか背後に回り込んでいたガレットが、ニッコリと笑った。
「攻撃を仕掛ける、その一瞬――あなたは、注意力が散漫になる。だよね?」
「……あ」
かく、と。
ガンドウが膝を着いて。
するりと、バリアが解け――
「――ずぇありゃあああああああああああああああああああああああああっ!!!」
真紅の刃が閃き。
ガンドウの巨躯が――吹き飛んだ。




