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 戦況は、悪化する一方であった。


 先程までの大味な攻めから一転、ガンドウの魔法の質は完全に反転していた。

 当たるとエネルギーを吸収されてしまうタネ弾丸。

 全身をビリビリと痺れさせるイバラの海。

 不規則に崩壊・再生を繰り返す地面。

 陰湿に、陰険に、じわじわと気力を蝕んでいく呪いの数々に、ガレットたちは少しずつ、だが確実に敗北へと追い込まれつつあった。


「何やってんだ、ガレット……! とんでもねえ隠し玉があるんじゃなかったのかよっ!」


 イライラと舌打ちをする。

 アクアマリオンはあまりの心配に、すっかり顔色を失っていた。

 いっそブッ倒れでもしちまえりゃあ楽だろう。

 でも、でも、畜生、クソったれっ……!


「くううっ――アラヤヒール、まだか、まだなのか、例のあの技は……!?」

「待って、もう少し、ほんとにあともう少しなのっ! あとほんのちょっとで、完璧に――」

「ふむ。もう少し、か」


 非情にも、ガンドウが言った。


「――最大最強の大技を出させる前に、それを上回る超大技で完全にプライドを叩き折る」


 刹那、何かが砕ける音が、崩れる音が、くっつく音がめちゃくちゃに鳴り響き――

 地面から、“怪物”が飛び出してきた。


 さっきの岩槍がオモチャか何かのように思えるほどにデカい――ゴーレムだ。

 巨大、などという言葉では収まりがつかない。

 確かフォルミヘイズが似た魔法を使っていたが、あれとは比べ物にならないほど大規模だ。

 アクアマリオンが青色を通り越し、真っ白になった唇を震わせる。


「ガン、ドウ……こ、これって、あなたの、最強魔法……」

「これはな、本当に効果的なんだよ」


 ガンドウは、ゆっくりと右手を天に掲げ――ゴーレムもそれと同じ動きをした。


「俺は、身に染みて分かっているからな」


 ――不味い!!

 今度こそ、直撃するっ!!


 もはやゴチャゴチャ考える時間などない――俺は無我夢中で魔力を解き放った。

 ガレットたちに恨まれようがガンドウに嘲笑われようが知ったことか。

 俺がくだらねえことを言わなけりゃ、この決闘自体起こり得なかったんだ。

 絶対にあいつらを死なせる訳には――


 ――だが。


「いい加減、焦らして遊ぶのにも飽きたな。――それじゃあ、永遠にさよならだな。身の程知らずのCクラス」


 ガンドウが、ニタリと笑った。

 バリアを展開するよりも――ガレットたちを守るよりも。

 それよりも、早く。


 その腕を、静かに、振り下ろし――

 圧倒的な質量が、暴力的な重さが、呆然としているちっぽけな凡人めがけて襲い掛かって。


 ――轟音と共に、岩塊が突き刺さった。


 地面が抉れ、草木は飛び散り、石片と土の粒子が視界を包み込んだ。

 何も見えない、何にも見えやしない、全てが塞がる。

 頭の中が真っ白になった。

 思考回路がまともに働かない、考えられない。

 ガレットは?

 ブレイドルは?

 あいつらはどうなったんだ?


「おや、どうしたんだ、ドラゴリュート? そんなに悲しそうな顔をして。君は確か、才能のない人間がどうなろうが知ったことじゃない、などと言っていなかったか?」

「貴様……っ、この、人殺しっ!!」


 彼方からアクアマリオンの悲鳴染みた罵声が届く。

 怒りよりも何よりも、哀しみが――後悔が先に立つ。

 喪失感で胸がいっぱいになる。

 何てこった、何てこった、何てこった。

 こんなことになるなら、もっと強くあいつらを引き止めときゃよかった。

 くだらない喧嘩なんか吹っかけるんじゃなかった――


「人殺し? おいおいアクアマリオン、俺は彼らに現実を教えてあげただけだよ――その授業料が、命だったというだけだ」


 ガンドウは、もはや完全に正気を失っていた。

 目だけが、以前は自信に満ち溢れていたその目だけが爛々と輝いていた。

 狂気に満たされていたのだ。


 狂乱する同級生に、怒ればいいのか悲しめばいいのか――

 アクアマリオンはただ呻き続けるばかりであった。


 だけど、俺は駄目だ――全身から力が抜けてしまう。

 畜生、畜生、あいつらは、あいつらは。

 俺のせいで……俺の、せいでっ!!





「――まっ…………に、あったあああああああああああああっ!!」





 瞬間。

 向日葵のように快活で、元気いっぱいの声が、淀んだ風を吹き飛ばした。


「いやあ、自分で提案しといて何だけどまさかマジで上手くいくとはねー! うわー凄い、奇跡的なタイミングで間に合ったなあ! ドラマチックー!」

「バ……カ、な」


 アホヅラを浮かべたまま、何とも間の抜けた声を出すガンドウ。


「バカなっ! 確かに俺の魔法はお前たちに直撃していた筈だ、なのになぜ――っ!?」


 唐突にガンドウは言葉を切った。

 その震える視線の先――ブレイドルを見て。

 俺は、同じように固まった。


「……嘘、みたいだ……これを、僕がやったのか?」


 そこにあったのは。

 完膚なきまでに真っ二つに、ズタズタに切り裂かれたゴーレムの巨大な腕と。


 ――劇的にその姿を変貌させた、刃の魔法であった。


 銅色だった刀身は鮮やかなワインレッドの輝きを放ち――

 不安定に揺れ、飛び散っていた魔力粒子は完璧にブレイドルの利き腕へ定着しており――

 完璧なまでに研ぎ澄まされた刃からは苛烈な闘気が発せられていた。


 おいおいおいおい、冗談だろう!?

 あのヘッポコ魔法に何があったってんだよ!?


 頭が混乱する。

 何が――一体、何が起こったってんだ?

 あいつ、まさか刃の魔法でガンドウの攻撃を叩き斬ったってのか?

 確かに今の状態なら、それも不可能ではないかもしれない。

 でも、どうやって――


「……君の優秀な頭脳に命を救われたのは、これで二度目だな。つくづく頭が上がらないね」

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」


 神妙な様子で感謝の意を示し合うガレットたち。

 ……ガレットの頭脳、だと?

 どういうことだ、彼女が何かをやったのか?


 しかし、実際に変化が起きているのはブレイドルの刃の魔法の方だ。

 あの想像を絶するエネルギーの奔流、極限まで密度の高まったエネルギー――

 ガレットが何らかのパワーアップ魔法を使ったのか?

 でも、あれほどまでにブッ飛んだ術を教えた覚えはないぞ。

 訝しみながら、彼女の奇妙に汗みどろな顔を見つめ――


 ――“それ”に気が付いた瞬間。

 ぶわっ、と鳥肌が立った。



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