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素直に



「――あなたたちの不安は、手に取るように理解できる」


 虚ろな声が響く。

 アクアマリオンは無表情に言った。


「訓練の中で、ガレットとブレイドル――二人の実力は飛躍的に向上したけれど、それでもガンドウには到底及ばない。何より、使う魔法の相性から言っても、あまりに厳し過ぎる」


 ドレスの裾が、緩く揺れた。

 彼女は更に言葉を続ける。


「ガンドウの得意魔法は大地操作――地に立つもの全てが彼のターゲットと成り得る。最低限、戦闘中に常時レビテーションをキープできるだけの技量とエネルギーがなければ話にならない。……あなたたちに、それができる?」

「……ううん」

「更に言うと、ガンドウは地脈から魔力を補給することで、桁違いの硬度を誇る攻性バリアの展開が可能。故に接近戦は厳禁。ブレイドルが攻撃役を担うんだろうけれど――あなた、刃の魔法以外に威力のある魔法は使える?」

「し、シズムくんに幾つか教わったけど、刃の魔法ほどの威力がある術は……」


 ほらね、とでも言いたげにアクアマリオンは溜息を吐き――卑屈に笑った。


「……こんな具合に、昔から私には他人を否定し過ぎる悪癖がある。こんな性分なものだから、多くの人は怒り、離れていき――私の言った通りに破滅していった」


 別に、悪口を言いたいだとか、そういう訳ではなくて。

 怪我をしないうちに、ガンドウへ頭を下げてきた方がいい。

 正面から謝れば、きっと許してくれる――彼はそういう人間だから。


「詳しく語ることはできないけれど、ガンドウの戦い方と実力、癖に至るまで私はよく知っている――だから断言できる。あなたたちに、勝ち目なんてない」


 それきり、アクアマリオンは黙り込んだ。

 ガレットはやや考え込んだ様子で、それほどダメージはなさそうだが――ブレイドルの方は結構強烈にショックを受けたらしく、顔色が随分悪くなった。

 さて、どうしたものか。


 ――いや、待てよ?


「なあ。お前――今、何つった?」

「……まだ、言って欲しいの? あなたたちに、勝ち目なんて――」

「そこじゃねえ。お前はガンドウの戦い方――その癖を熟知してるって、それはほんとなのか?」


 アクアマリオンのブルーの瞳をまっすぐに見つめ、問うた。

 戸惑った様子の彼女は、こっくりと頷く。


「なら話は早い――アクアマリオン、ヤツの癖とやらを俺らに教えろ。全部網羅する必要はねえ、致命的なウィークポイントになり得るようなのだけに絞ってな」

「……え?」


 目を丸くするアクアマリオン。

 まさか、俺ともあろう者がまさか作戦作りなどという凡人めいた所業に手を染めにゃならん時が来るとはな――畜生、屈辱だぜ。

 だけど、ガレットたちが敗北を喫して、ガンドウのクソにドヤ顔かまされるよりは幾らかマシだ。

 手短に、端的に説明を続けていく。


「戦闘スタイルとかその辺りはサラッと流すくらいでいい。そんなモン覚えたってそうそう実戦に活かせる訳がねえ、やるだけ時間の無駄だ――とにかくピンポイントかつ効果的なモンだけにしろ」

「あ、え……ええと、ガンドウは視界の外から飛んでくる魔法の対応が苦手とか、そういうこと?」

「そう、まさにそんな感じだ。他にはなんかねえのかよ?」

「んっと、それじゃあ――」


 ――初めは少々ぎこちない様子だったが、こういう人見知り気味なヤツは一度話し出すと止まんねえんだよな。

 まあ次から次へとポンポン出るわ出るわ。

 もっとも、その内の幾つかはガレットたちの技量では突きようのない弱点ばかりだったけど――収穫は相当にあった。


 しかし、付き合いが長いんだろうなとは思っていたけど……。

 にしてもガンドウの戦い方に詳し過ぎないか、こいつ。

 ちょっとキモいぞ。


 それはさておき。

 次に、アクアマリオンから出た情報を俺がまとめていった。

 手早く、かつコンパクトに二人へ戦闘中の役割を振っていく。

 この数日間、徹底的に俺の指示に従ってきただけあって、彼らの呑み込みの速さは中々のものだった。


「――とまあ、こんな具合だ」


 十分も経つ頃には、既に作戦は完成していた。

 これで多分、十数倍程度には勝率も上がっているのではなかろうか――元の確率がクソみたいなモンだからアレなんだけどさ。

 もうちょい時間があれば、更に高めることもできなくはなかったんだけど。

 ま、急ごしらえにしちゃ上出来だろう。


「どうだ、元気は出たかよブレイドル」

「う……ど、どうだろう。さっきに比べたら、ずっとマシだけど……」


 元気なさげなブレイドル。

 ああ、もう、ギルドの依頼の時から思っちゃいたが、こいつ土壇場になると急にビビり出す節があるんだよな。

 最初の一歩を踏み出すのに怯えがちというか。

 昔、なんかあったんだろうか。


 どっちにしろ、このままじゃ不味いか。

 目元を抑えた――それから彼を見据え、静かに言う。


「――俺の乱暴な言葉が、偉大なる力が、あの真っ暗闇の中で一番頼もしかった。そう言ってただろ、お前」

「え……?」


 クソ、めちゃくちゃ恥ずかしいな。

 半ばヤケになりながら続ける。


「あー……要するにだな。お前の数千、いや数万倍は才能のある俺が直々に立ててやった作戦なんだぞ? ちったあ自信持てや、アホったれめ」

「……! ああ、任せてくれたまえ、シズムくん! ブレイドルの誠実なる刃に懸けて、やれるだけのことはやってみよう!」


 何がそんなに琴線に触れたのか分からないが、ブレイドルのモチベーションも少しはマシになったようだ。

 “やれるだけのことはやってみよう”ってのは若干心配だが、目を瞑ってやるとしよう。


「そして、ありがとうアクアマリオン殿。貴方がいなければ、きっと僕らはどうにもならなかった!」

「……ありがとう、だなんて。私は、ただ……」


 ブレイドルから告げられた感謝に、アクアマリオンは俯いた。

 俺は頭をガリガリと掻き、舌打ちをした。


「ウダウダとうっせえな。場を乱すだか何だか知らねえが、お前が口を出したからこそ今こうやって取っ掛かりが作れてんだろ? 結果としちゃ、こいつらにとっては意味のあることだったって、そんだけじゃねえか」

「……そ、そうなの?」

「ああそうだよ。だから素直に感謝されとけや、知ったこっちゃねえけどさ!」


 言いながら、俺は運動場へ繋がる扉へ手を掛けた。

 クソったれめ、今日――というか、ここ最近の俺は本当にどうかしてやがらあ。

 こんな馴れ合い染みた真似、ヘドが出るぜ。

 畜生、帰ったらふて寝だふて寝。


「さあ、そろそろ試合開始だぜ。気合入れろや、二人とも!」



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