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コンビネーション



「――まずは、ブレイドル。お前の修行について説明するぞ」

「あ、ああ。よろしく頼むよ」


 生唾を飲み込み、ブレイドルは背筋を伸ばした。

 緊張した様子の彼とは正反対に、俺はぬるいテンションで言った。


「その前に、聞いておきたいことがある。お前の主力武器である刃の魔法――その弱点は、何だ?」

「え、そりゃあ……確か」


 突然の質問に戸惑いながらも、ブレイドルは返した。


「格上相手には全然意味がないトコ、だろう? 君が言ってたのは」

「他には?」

「ほ、他って、ええと――魔力粒子の結合度が低いのと、再生成に時間と魔力を大量に費やしてしまう、だっけ」

「よく覚えてたな。じゃあ、そこから導き出せる結論は?」

「結論……うーん」


 両手を組み、唸る――しばし間を空けたのち、彼は困り顔と言った。


「ごめん、分からないよシズムくん。一体どういうことなんだい?」

「お前頭悪いな」

「流石に直球過ぎない?」


 まあCクラスの才能も将来性もないクソ凡人に多くを求め過ぎた俺も悪かったのかもしれない。

 だからって能無し如きに謝罪する気なんて一ミリもないけどな。

 それはさておき、俺はアクアマリオンの水筒を奪い取って紅茶を一口啜った。


「ま、答えは簡単だよ――刃の魔法そのものに、致命的な欠陥があるってことだ」

「え……!?」


 そしてさらりと言い放った。

 ついでに水筒を返した。

 アクアマリオンはぶすくれた顔でずっとこっちを見ていた。

 無言で俺を見つめ続けていた。


「さっき挙がった弱点は、お前のコントロールの雑さもデカいが――どっちかと言うと術式構造の悪さに原因がある。ぶっちゃけ何でこんな術が仮にも貴族の家に伝わってきたのか分からんレベルで酷いぞ」


 赤子との戦いの時からずっと思っていたが、刃の魔法はとにかくエネルギー循環がアホくさくなるほどに入り組んでいて効率が悪い。

 恐らく考案者にとってはこれがベストだったんだろうな。

 でも、その個人の癖まで術式と一緒にバカ正直に受け継がれちまったんだろう。

 こんなクソを曲がりなりにも武器として扱えているだけ、ブレイドルは大したモンだ。


 ――だが。

 “刃の魔法を武器として扱えてしまっている”ってのが、実際の所一番よくないのだ。


 あのめちゃくちゃな作りの術式を使いこなすには、強烈に癖の強いコントロールが求められるだろう。

 だから、多分――その相当変テコなコントロールをするノリで他の魔法を繰り出してしまっているのではないか。

 変テコなコントロールが骨の髄まで叩き込まれているせいで、普通のコントロールってのがどういうモンなのか分からなくなってしまっているのではないか。


「――長い年月を掛けてお前に染み込んだその感覚は、そう簡単に矯正できるモンじゃない。そりゃ、トレーニングしても上達しない訳だわ」


 他人事みたいに(実際そうなんだけど)つらつらと並べ立てる。

 しかしブレイドルにとっては全然他人事ではない。

 必死の表情で縋りついてくる。


「そんなっ……じゃあ、僕はどうすれば!?」

「さて。方法は二つあるな」


 彼を適当にあしらいながら俺は言った。


「一つは、刃の魔法そのものを諦めて、今までのノウハウを活かせる別の術に乗り換えること。上位互換的な魔法には幾つか心当たりがあるし、まあ、こっちのが確実かな」

「……ごめん、シズムくん。それは勘弁してくれ」

「言うと思ったよ」


 なんでこう、凡人って変な所に一々こだわるのかな。

 その根拠のない思い込みとか薄っぺらいプライドが自分の未来を潰しているってことにいつ気が付くんだろう。

 ……まあ、どうだっていいさ。


「んで、もう一個の案が、ガレット――お前の修行になる」

「へ?」


 突然声を掛けられた彼女は目を白黒させている。


「ど、どういうことかな。ブレイドルの修行が、私の修行?」

「まあ待て。――お前は持久力や体術、全てにおいてブレイドルに劣っている。そこは分かってるよな」

「ぐっ……く、悔しいけれど認めざるを得ないね」


 ちょっと形容し難い感じに顔を歪めるガレット。

 その横でブレイドルがなんか凄いニヤニヤしていた。

 ブン殴りたい。


「――しかし、ただ一点あいつに勝っている所がある。それは何だと思う?」

「お、おっぱいの大きさ……」

「もっぺん言ってみろよ。アゴの骨粉々にしてやるから」

「ヒィィごめんなさい分かんないです! ごめんなさいバカな弟子でほんとにごめんなさい!」


 ちょくちょくこういうの挟んでくるよなこいつ。

 何なんだろう。


「――お前がブレイドルに勝ってるのはな、発想力だよ。昨日の吹き飛ばし魔法を応用した緊急回避――あれは凡人がやったにしちゃ上出来だ」

「そ、そうかなあ……? え、えへへ、シズムくんに褒められちゃったっ」


 にへらと笑うガレット。

 ビビったり笑ったりせわしないやっちゃな。


「バカさ加減も突き抜けりゃ、異なる視点に繋がる。凡人の発想を超えるってこった。少なくとも、ああいうことはブレイドルじゃ思い付かねえだろう」

「ひ、否定はできないな」

「ブフッ……」

「笑ってんじゃないよバカ! 発想力以外は全部僕以下の癖に!」

「それ以上面倒臭いことほざきやがったら俺もう帰るからな」


 途端に二人は真面目な顔を作った。

 ほんとブッ殺したい。


 ――軽く咳払いをして、話す。


「ブレイドルは基礎能力が高いが、攻撃手段のショボさ故に格上相手にゃ決め手に欠ける。ガレットの機転は時として思わぬ逆転を産むが、本人のひ弱さが致命的。丁度いい具合に、鏡写しになっているじゃないか」


 ガレットもブレイドルも、どこかピンと来ていない様子だ。

 俺はニヤリと笑った。


「分かるか? お前らがこれから取り組むのは、互いの欠点を補い合う――コンビネーションだ」



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