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愚か



「……ああ。その通りだけど」


 わざわざ誤魔化すのもアホらしかったので、素直に答えてやった。

 緋色の髪の彼女は、勝ち誇った顔で言う。


「やっぱり! ドラゴンだなんて大嘘をついて王家に取り入った挙句後に引けなくなった、十七年間“成果なし”のドラゴリュート家ね!」


 あ、一般的にはそういう扱いなんだ、ドラゴンの存在。


 ――この世界には、いわゆるファンタジーに登場するような生き物が大勢いる。

 その中でも人に害をもたらすものは“モンスター”と呼ばれていて、それを退治するのが魔法使いの役目の一つなんだけど……。

 そういう環境でも、ドラゴンってほとんど信じられていないのか。

 確かここ数百年の目撃例は皆無で、実在を裏付ける証拠にも乏しいんだっけ。


 そんなものを研究していりゃ、嘘つき呼ばわりされてもおかしくないわ。

 などとズレたことを考えていると、ピンク頭の顔に険が差してきた。

 シカトかましたのが癇に障ったのだろうか。


「……あら、だんまり? 嘘つきの血が流れているような家の子は、正面切って侮辱に反論する勇気もないのかしらね」


 偉く雑な煽りを入れられる。

 何というか、第一印象まんま、テンプレ通りのバカっぷりだな。

 脳味噌までピンク色なんじゃなかろうか。


 というか侮辱をぶつけているという自覚はあったのか。

 だったら、初対面の人間を躊躇なく侮辱するような自分の下品さも自覚してしてほしいものだ。


 なおも無言を貫く俺に対し、ピンク頭はイライラと眉を顰め――

 唐突に、嘲笑を顔に張り付けた。


「もしかして、図星を突かれて言い返せなくなっちゃったのかしら。ふふ、ごめんなさいね、別に馬鹿にするつもりは――」

「……ふう」

「っ!?」


 っと、不味いな。

 あまりにバカらし過ぎて、つい溜息を漏らしてしまった。


 どうやら余計に刺激しちまったようだ。

 ピンク頭の顔がトマトのように真っ赤に染まっていく。

 あと数秒と経たずに数え切れないほどの罵声が飛んでくるだろう。

 それはそれでまあ暇つぶしにはなるだろうが、正直鬱陶しいので、今のうちに釘を刺しておく。


「あ、アンタっ――」

「なあ。お前、自分の行為ががどれだけ迂闊か、分かってやってるのか?」

「……え?」


 何の前触れもなく差し込まれた俺の声。

 面食らったピンク頭は言葉を途切れさせてしまった。

 ここぞとばかりに、俺は殺し文句を叩き付ける。


「ドラゴリュート家を侮辱するということは、俺たちの仕えている王家に対して喧嘩を売っているも同然だ。万一、今の侮辱がお偉方に伝わったら、お前、多分絶縁どころでは済まないんじゃないか?」

「はあっ……!?」


 それからのピンク頭の表情の変遷は見物だった。

 怒りで赤くなって、不安で青くなって、後悔で白くなって……。

 なんか外国の変なキモいオモチャみたいだな。

 半ば狂乱しながら彼女は叫んだ。


「ふ、ふざけないで! ドラゴリュート家の言うことなんか、誰がっ!」

「信じるか、ってか。そりゃ、証拠があるんだし、信じざるを得ないだろうよ」

「証拠? そんなものがどこに――」


 余裕の表情を見せるピンク頭。

 俺は白々しく手を叩いた。


「ああ、言い忘れてた。実はな、今までのやり取り、魔法で録音してあるんだよ」

「え」


 ピンク頭は完全にフリーズした。


「大嘘をついて王家に取り入った、の辺りからバッチリ全部な」

「……え……ちょ、ちょっと、何よそれ」

「いや王家って、ドラゴリュート家如きのつく嘘に騙されるくらい愚かなんだな。知らなかったよ」


 ピンク頭の顔面から、ぶわっ、と汗が吹き出てくる。

 年頃の乙女がしていい形相じゃないな。


「――次、七八番! シズム=ドラゴリュート、前に出なさい!」


 おお、もう俺の番か。

 急速にピンク頭に対する興味が薄れていくのが自分でも分かった。

 そういやこいつの名前すら聞いてなかったな。

 どうでもいいけど。


「じゃあな、身の程知らずの凡人。不敬罪でしょっぴかれたくなかったら、二度と話し掛けてくるなよ」


 呆然と立ち尽くすピンク頭を放置して、俺はポケットから感応石を取り出した。





     ◇





 意味が分からない。

 何なの。

 何なのよ。


 ……何なのよ、あいつっ!

 私、アリス=フォルミヘイズは、思い切り強く拳を固めた。


 噂には聞いていたわ――ドラゴリュート家で、とんでもない魔法の才能を持った女の子みたいな男の子が生まれたって。

 だけど、ここ何年かですっかり悪評の広まったあの家のことだもの。

 皆まともに信じちゃいなかったわ。


 けど……。

 あれだけ目立つ、その、綺麗な姿をしていたから、会場についた途端、皆すぐにあいつがドラゴリュートだって気が付いちゃって。

 おまけに、文句も言わないで遠巻きにあいつに見惚れているばかり。

 貴族だってのに、誇りってものがない訳?


 そもそも、あいつはあのドラゴリュートの一族なのよ?

 絶対に見かけ倒しに決まってるわ。

 そんなヘボが調子に乗っていれば、いつか必ず痛い目に遭う。


 だから、今のうちに忠告してやろうとしただけなのに……。

 バカにしているの、あの態度!?

 

 “成果なし”の分際で――皆の笑い者の分際で、私をやり込めるだなんて。

 なんて恥知らず、常識知らず!

 あいつの根っこなんか、紙クズみたいなものに決まってる!

 今にCクラス判定を喰らって、現実を思い知るわ!


 淀みない、鮮やかな足運びで進み出るシズム。

 悔しいけれど、その姿には確かに美が宿っていて、つい先程までクラス判定の結果がどうなるか話し合っていた生徒たちも、皆あいつに魅了されていた。


 でも、ふふふ、これであいつの根っこがダメダメだったらどうなるのかしら。

 その伸びた鼻がぽっきりと折られるのが楽しみね。




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