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暮れる



「――あのっ、今回はほんとにありがとうございましたっ」


 ぺこり、と頭を下げる少女――グレーの髪が弾んで揺れた。

 夕暮れ時――達成報告を終え、ギルド前の広場で報酬の確認をしていた所、デッパにパートナーに声を掛けられた。

 どうやら、昼からずっと俺たちが戻ってくるのを待っていたらしい。


「……あー、お前、昼間のあいつか。ええと、何てったっけ……」

「あっ、ごめんなさい! 私、ブロンズ冒険者のキャロって言います」

「ふうん。キャロ、ねえ」


 俺が名前を呼ぶと、キャロは頬を真っ赤にした。

 何だこいつと冷たい目を向けていたら、彼女は顔を何度か振って――それからいきなりクソしょうもない身の上話を始めた。


「彼も、昔は暴力なんて振るわなかったんです。でも、段々気に入らないことが起こる度にああやって……。コンビを解消しようとは何度も思ったんです。でも、シルバー相手に逆らったら……っ、きっとっ、干されちゃう、ってっ……」


 ……と思ったら、今度は急に泣き始めた。

 気色悪いし話はつまんねえし何なんだよこのクソは。


 ちなみに、デッパは忽然と姿を消していた。

 分け前の話もしねえ内にどうしちまったんだろうなあ、ははは。


「だ、だから、あの時助けてもらえて凄く嬉しかったんです。誰かに手を差し伸べてもらうことなんて、もう長いことなかったからっ……」

「あ、もういいや」

「え」


 いい加減腹が立ってきた。

 俺はあえて表情を変えないまま、つらつらと言葉を並べ立てる。


「グダグダとゴミみたいな話ばっかしてっけどさ、結局、お前にデッパをブチのめせるだけの力も、ランクとかいうカス制度に抗えるだけの才能もなかったってだけじゃねえか。そんなクソに手を差し伸べるヤツなんてそうそういねえよ」

「し、シズムくんっ」


 ブレイドルが諌めようとしてきたので、睨み付けて黙らせた。

 再びキャロの方に向き直る。


「俺がお前を助けたのもただの暇潰しだよ、別に他意があった訳じゃねえ。お前みたいなキモいヤツに感謝されたところで嬉しくも何ともねえわ」

「……っ」


 ふう、すっきりした。

 言いたいこと全部言えたぜ。

 アクアマリオンが咎めるような視線を送ってくるけど、知ったことか。


 キャロは俯き、肩を震わせている。

 お、泣くか。

 ――と思ったら、彼女は物凄い勢いで俺の肩を掴んできた。


「あのっ! あ、貴方のお名前は、何でしょうか!?」

「え……シズムだけど」

「シズムさんっ!」


 ぐん、と顔を近付けてくる。

 あ、よく見たら割と美人だなこいつ。


 さて……まさかの逆ギレパターンかあ。

 つっても、こんな露骨に頭悪そうなガキに言い負かされるつもりなんて更々ないけどな。

 ま、精々おちょくって遊んでやるか。

 眉の根がひくりと動き――キャロは口を開いた。



「その――ごめんなさいっ!」



 大きな声で叫び――彼女は、またもやぺこりと頭を下げた。

 しかも、さっきよりだいぶ勢いと敬意が増した感じで。

 ……あん?


「正直……貴方の言葉が全て正しいとは思いません。――誰かの至らなさが、また別の誰かの悪辣さを肯定するだなんて、そんなことがあってはならない」


 でも、とキャロは俺の手を掴んだ。


「私が弱いのも、また事実です。押さえ付けてくる手に、腕に抗えるだけの力を私が持っていないのも、確かなんです。……だ、だからっ!」


 頬を、耳すらも更に赤くして――彼女はどもり気味に叫んだ。


「そのっ――貴方に認められるに足る力を私が身に付けた時、その時に、もう一回貴方に感謝を述べても構いませんか!? それまで、私のことを待って頂けますでしょうかっ!?」

「…………あ、うん」


 やべえ、つい勢いに押されて何となく答えちまった。

 ていうか俺って意外とグイグイ来る系の人間に弱いな。

 よくない傾向だなこれは。

 そんな俺の内心を知らないキャロは、ぱあっと花開くような笑顔を浮かべた。


「あ――ありがとうございますっ! あっしまったまたお礼をっ」

「いや……もう……いいよ。分かったから帰れお前」

「は、はいっ! それじゃあ、ほんとにありがとうござ……ああっ、また!?」


 ――遠ざかっていくキャロを何となく眺める。

 彼女は何度も何度もこちらを振り返って手を振り、そしてすっ転んでいた。


「……ちっ。何だったんだ、あいつは」


 モヤモヤした何かが胸の中を満たす。

 なぜだか無性に当たり散らしたい気持ちになった。


「おいクソ共」

「あ、え?」

「とっとと帰るぞ」

「ん……あ、でも、報酬は? なんか物凄い額だけど……どうしようこれ、ほんとに私たちで貰っちゃっていいのかな。税金とか平気なのかな」

「知るか。お前らで好きに分配すりゃいいだろ」


 何とも言えない気分のまま、俺は舌打ちして――不意に、鐘が鳴り響く。

 時刻は、既に午後五時を回っていた。



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