ガラス越しの
「……やっ……た」
静寂にぽたりと落ちる、声――
「やっ、たあああああああああああああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおおっ、やったっ、やってやったぞおおおおおっ!!」
「やっつけたんだ、私たちでやっつけたんだっ!!」
「あーんなにデッカいモンスターを、Cクラス級の力しか持ってない、僕らが!!僕らがやっつけたんだ!! 凄い、凄いよ、偉業だよこれはほんとにマジで!!」
「そうっ、私たちが退治したんだ!! 恐らくは討伐難度Aは超えているであろう激ヤバモンスターを、ブッ倒したんだあああああっ!!」
「ひゃっほおおおおー!!」
刹那、狂ったようにバカ二匹が騒ぎ始めた。
喜色満面マックスパワー、全身をフルに動かしまくり歓喜を表現している。
なんか凄い頭悪そうで凄くいいと思う。
凡人らしくて。
あと討伐難度Aは流石にないわ。
行って精々Cとかそんくらいじゃないかな。
「バカな……! Aクラス未満の新入生二人が、あの規模のモンスターを撃破するだなんて、ありえない、聞いたことすら……!」
「ありえない、ったってなあ」
俺は鼻の頭を掻きながら言った。
「実際ありえたんだからしょうがないじゃねえか。現実を認めねえのはバカのすることだぜ、アクアマリオン」
「…………」
アクアマリオンは、それきり黙ってしまった。
相当強烈に衝撃を受けたのだろう。
ま、無理もない。
クールぶってはいるが、彼女もまた学院内に蔓延するクラス至上主義的な風潮の影響をある程度は受けている筈だ。
だが、まあ。
実際俺もここまでやれるとは思っていなかったよ。
吹き飛ばし魔法は殺傷能力に乏しい術だ。
単純に威力がないし、リーチもパッとしない――ただ、当たった物体を彼方へ吹き飛ばすだけの魔法。
だから、軽いお遊びやジョークに用いられる他――
咄嗟の回避行動にも、使われたりするのだ。
いまいち重要視されていない吹き飛ばし魔法だが、実際熟練の魔法使いの中にもそういう目的で習得しておく者は多い。
しかし――先程のガレットを思い出す。
まさか、自分でなく味方に向けて魔法を放つとはなあ。
あんな尖った使い方を――しかも、戦闘中に――思い付く術師なんてそういないのではなかろうか。
いや、一応ヒントは与えておいたんだけどな。
距離うんぬんの話とか。
にしたって、まさかマジで答えに辿り着いちゃうとはねえ。
過呼吸一歩手前の状態で狂喜乱舞し続ける二人を眺める――なかなかどうして、侮れない。
さて、それはそれとして。
俺はスタスタと、瓦礫――異形の赤子の埋もれている所まで近づいた。
「やったああああああ……あ、あれ? どうしたの、シズムくん?」
「ああ、もしかして、きっちり止めを刺せているかどうかの確認かい? 案外君も用心深いヤツだな――って、えええええええっ!?」
ペラペラと喧しいクソ共をガン無視しつつ、俺は手応えからして十数トンはあろうかという瓦礫をいっぺんに持ち上げてその辺に放り投げた。
轟音と共に部屋が激しく揺れたが、まあ気にしない。
無数の岩塊に押し潰された結果、なんかもう花みたいな有り様を呈しているそいつへ手を伸ばし――触れた。
「ろ、ロクに気合も入れてないってのに、なんて強力な念動力だ――い、いやいやそれよりも何をしているんだい、シズムくん!?」
「いや別に。ただこれ、んん……」
グジャグジャの皮膚越しに、魔力の波長を探る。
おう、まだ息はあるみたいだな。
そして――ふむ、意識もギリギリだが、まあやってやれないこともない。
「……シズム。あなた、まさか……?」
「ああ。ま、ちょっとな」
そこへアクアマリオンが話し掛けてきた――反応するのが面倒臭かったので、顔すら向けずに答える。
「こいつら、どんな実験の被害者になったんだか分かんないけどさ。連中が何を企んでやがるのか、気になっちまってよ」
でまあ、こいつらから直接話を聴いてみたくてな。
と軽いノリで喋っていると、ガレットたちが話し掛けてきた。
「じ、実験? 実験ってなあに?」
「どういうことだいシズムくん、実験とは……?」
「――ああ。そういや、お前らは知らないんだったな」
俺は何の感慨もなく言い放つ。
「こいつは“子供攫い”とか何とか言うのがやらかしてた、実験の被害者――その成れの果てなんだよ」
「なっ!? じ、じゃあ、こいつって、元人間……!?」
数分前の歓喜が嘘のように消え失せていく――途端に真っ青になる二人。
ガレットに至ってはその場でしゃがみ込んでしまった。
その様子が普通に面白かったのでもっと見ていたかったのだが、これ以上話を長引かせたくなかったので、ひらひらと手を振って言う。
「ああ、人殺しとかそういうのは心配しないでいいよ。まだ死んでないし」
「え……!?」
「そもそもお前らのパワー如きじゃ、逆立ちしても仕留めきれないのは分かり切ってたしな」
「……き、君ってヤツはっ……」
へなへなとブレイドルが膝から崩れ落ちた。
ガレットも疲れ果てた顔で笑っている。
一方――アクアマリオンは、何とも形容し難い表情を浮かべていた。
訝しんでいるような、感動しているような、戸惑っているような――
「……あなたには、彼らの分離が可能なの?」
「さてな。俺もさっきまで無理なんじゃねえかなって思ってたんだけど」
ただ――更に深く魔力を探っていく。
エネルギーの奥底を見破る――お、根っこの反応が見えた。
ええと、ひい、ふう、みい……。
おう、なるほど。
魂レベルで合体してる訳じゃなかったのか。
それなら、どうにかなりそうだな。
俺は、魔力を赤子に直接送り込み――静かに炸裂させていった。




