そう来たか
ガレットは目を丸くして――はっとする。
「……! そっか――ありがとう、シズムくんっ!」
「へ? ど、どういうことだいアラヤヒール?」
困惑するブレイドル。
彼を尻目に、ガレットは魔力濃度を高め、“小さなガラス箱”の根っこを取り出した。
「ごめん、詳しい話は後にして。……それと、ブレイドル」
ガレットは一瞬、物凄く不愉快そうに顔を歪め――ごく小さな声で言った。
「さっきはチャンスを無駄にしちゃって、ごめん。……もう一度だけでいいから、チャンスをくれないかな」
「……アラヤヒール」
ブレイドルは数度瞬いた。
それから頬を掻き――神妙な表情を浮かべた。
「いや、謝ることはない――僕も言い過ぎたよ。君は、僕を気遣ってくれたというのに……」
言って、ブレイドルは右手を天に突き上げる。
集まる銅色の輝き――やがて弾け、“銀細工の施された長剣”が現れた。
正眼に剣を構え、彼は言った。
「……僕らの残りのエネルギー残量を考えると、次がラストチャンスだ。何を思い付いたのか知らないが、きっちり決めてくれよな?」
「勿論」
短い応答――しかし、そこに虚実は混ざっていない。
まっすぐな言葉だ。
隣に立つブレイドルもそれを感じ取ったのだろう――小さく笑い、叫んだ。
「――我は刃の魔法の継承者、バーン=ブレイドル!!」
低く構える――足の筋肉が軋む、縮む。
「師との約束を違えぬために、参るッ!!」
刹那、大砲を撃ち鳴らしたかの如き爆音が響き――炸裂した。
飛び散る腐肉――地面を踏み砕き、叩き割る。
正面より吹き荒ぶ酸の嵐を時に躱し、時に堕とす。
ちょろちょろと動き回るブレイドルに業を煮やした赤子は、醜く喚き散らしながら強靭な手足をブン回した。
柱が砕け、巨大な破片が銀の剣を帯びた剣士へ猛スピードで直進する。
相対するブレイドルは、更に低く身体を落とし――跳び上がった。
だん、と音を立て、空中の石片に着地――そのまま次々に“足場”から“足場”へと飛び移っていく。
ラスト一跳び――赤子の顔面に切迫。
銀色に輝く剣が、鮮やかな銅色のエネルギーを帯びる――
「ずぇありゃああああああああああああああああああああああっ!!」
白銀と鈍い紅。
二筋の魔力光が閃き――赤子の鼻っ柱を、叩き折った。
零コンマ数秒、赤子は絶叫する。
部屋全体を揺るがすほどに激しく咆哮し――そのまま、仰向けに倒れ込んだ。
再び訪れた絶好のチャンス――が、いよいよ以て不味い。
先程の攻防の余波で天井のガタつきが凄いことになっている。
さて、どう出るんだ、ガレット?
彼女は決然とした表情で、根っこを握り込んだ右手を突き出した。
ガラス箱に溜まる、鮮やかな橙色の光――
黄金の髪がふわりと揺れる。
ガレットは、深く息を吸い――
「吹き飛ばし――魔法っ!!」
橙色の閃きが、ガラス箱から猛烈な勢いで飛び出した。
燐光が暗闇をキラキラと切り裂いて、まっすぐに突き進み――
「あぼォアっ!?」
――“ブレイドルを”吹き飛ばした。
「へっ……?」
オロオロと戦況を見守っていたアクアマリオンが、マヌケな声を挙げる。
ブレイドルはきりもみ回転しながら彼方へすっ飛び――
“安全圏まで”一直線に転がっていった。
「もう、いっちょおおおおおおおおおおおおっ!!」
続けざまに魔法を繰り出す――今度は赤子の真上、天井に着弾した。
あの吹き飛ばし魔法で魔力の大半を使い果たしたのだろう、威力は皆無であったが――崩壊を招くには、十分過ぎた。
轟音と共に、天井が崩落していく――
茫然と天を見上げる赤子――その顔へ、無数の瓦礫が降り注いでいく。
痛みに叫ぼうと口を開くが、刹那、落下エネルギーを帯びた石片がグズグズの歯茎を、舌を、頬の内側を抉った。
異形の赤子は叫ぶ間もなく破片に埋もれていき――
やがて、その姿を完全に消した。
場に静寂が宿る。
しばしの無言状態――ぽかんと口を開いているアクアマリオン。
呆然と立ち尽くすデッパ。
根っこを構えたまま固まっているガレット。
ブッ倒れているブレイドル(微妙に動いてはいるので、気絶した訳ではなさそうだ)。
「うそ……」
ぽつりとアクアマリオンが呟いた。
……いや、うん。
俺も似たような感想だよ。




