頭捻れや
が――やはり、ブレイドルの方が分が悪い。
「っ……ふ、っ……ふう」
彼は乱れた呼吸を整えながら、構え直し――
再度、赤子へ向かって突進を繰り出す。
「だああああ――っ、うおっ!?」
しかし、踏み込んだその足を腐肉がぐにゅりと絡め取った。
思い切りつんのめったブレイドルは、魔力を放出して振り払おうとする。
「このォ――っ、お、ああああああああああっ!?」
刹那、腐肉は激しく震え――ぐん、とその身を天高く伸ばした。
空に放り投げられたブレイドルは受け身を取り、同時にバリアを展開――
鈍い音が響いて地面に叩きつけられる。
見た所ダメージは皆無らしいが、衝撃を殺し切ることはできなかったようだ。
ショックに暫し放心する彼――そこへ三発の酸弾が立て続けに飛んでくる。
ブレイドルは舌打ちをし、内二発を刃の魔法で叩き落とした。
――その拍子に、エネルギーの刃、その切っ先が砕けた。
「クッソっ……!!」
咄嗟に刃の魔法を引っ込め――魔力を込めた右手を、渾身の力で振り抜いた。
虚空に銅色のエネルギー球が生じる。
酸弾がエネルギー球に触れた瞬間、炸裂――対消滅を引き起こした。
「ぐうっ……!!」
歯を食いしばって、衝撃波に耐えるブレイドル。
赤子は狂ったように悲鳴を挙げ続けている――が、殆どダメージを受けた様子はない。
一方のブレイドルは既に相当な量の魔力を消費してしまっているらしい。
汗も酷い――スタミナの消耗も激しいようだ。
「……これは、キッツいなあっ……!!」
呟いたその顔には、薄く失望が浮かんでいた。
――魔法は所詮才能が全て、と言われる所以の一つは、恐らくここにある。
冷静に考えてみろ。
プロアスリート並の技量を持った幼稚園児が居たとして、運動嫌いの高校生相手に百メートル走で勝利をもぎ取れると思うか?
答えはノーだ――あまりにも基礎体力、魔力量に差があり過ぎる。
加えて、基本的に魔力量をトレーニングで劇的に伸ばすことはできない――
まさしく八方塞がりと言ったところか。
そして、ブレイドルのエネルギー総量の低さは魔法使いとしては致命的だし――
というか刃の魔法そのもののコストパフォーマンスが酷すぎるのだ。
彼自身のコントロールの粗雑さもそこへ拍車を掛けていた。
息を切らすブレイドル――そこへ赤子が猛烈な勢いで体当たりを仕掛けてくる。
不恰好に飛び退き――
「――っ、おおおおおあッ!!」
ヤケクソ気味にエネルギー弾を投げ付ける。
――それが丁度赤子の眼球に直撃した。
一際大きな悲鳴を挙げて、ひっくり返る赤子――絶好のチャンスだ。
しかし、ブレイドルは体勢を崩していて追撃できない。
彼はふらつきながら絶叫した。
「今だアラヤヒール!! やれぇっ!!」
「っ、え――だ、駄目っ!! そこ退いてブレイドル!! 撃てない!!」
「はあっ!?」
叫び返すガレット――なるほど。
よく見ると、天井が相当ガタついている――下手に攻撃を仕掛ければ、ブレイドルは赤子もろともペシャンコになってしまうだろう。
「早く下がって!! あなた死んじゃうよ!!」
「ぼ――僕は大丈夫だっ!! バリアで――」
「バリアでしのげるレベルじゃないよ!! 下がってったらっ!!」
などと騒いでいるうちに――
「いいから気にしないで――うわアラヤヒール伏せろッ!!」
「え――きゃあっ!?」
ガレットめがけて酸弾がすっ飛んでくる。
反射的にしゃがんで回避――ブレイドルが半泣き気味に叫ぶ。
「クソ――クソったれっ!! ああ畜生、絶好のチャンスだったのにっ!!」
赤子は既に立ち直っていた。
別段、体力を失ったふうではない。
むしろ怒り狂い、先程以上に闘志に火が点いている様子だ。
「だ、だって、仕方ないじゃんっ!! 幾らブレイドルと言えど、怪我させたりするのはイヤだしっ!!」
「言ってる場合かそんなこと!! もう僕も余裕はないんだぞ、あんな機会はそうそう訪れるモンじゃないってのに!!」
「う……うるさいなあ、じゃあ自分が死んでもよかったっての!?」
「死ぬとは限らないじゃないか、この腰抜けめ!! あの時躊躇せず攻撃してれば倒せてたのにっ……!!」
「な、何さその言い方!? そんな、そこまで言うこたないじゃん!!」
おいおい、敵の目の前で何をやっているんだあのバカ二匹は。
……ちっ。
俺は大きく息を吸い――叫んだ。
「この後に及んで責任の擦り付け合いやらかすつもりかボケナス共!! ちったあ頭捻れや!!」
「っ!?」
跳ね上がり、硬直する二人。
俺はそのまま怒声を浴びせ掛けた。
「周りに被害を与えずに敵を倒したいなら、当たった所で大したことにゃならない魔法を使えばいいじゃねえか!! ――そして、ついさっきお前らに教えてやった術は何だ!?」




