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一閃



「んなっ――あ、アラヤヒール!?」

「何を、バカなことを……!! あんな挑発に乗って、これからの全てを台無しにする気!?」


 ブレイドルとアクアマリオンが口々に諌めようとする。

 だが、ガレットの決意は固い――静かに首を振った。


「別に乗せられた訳じゃないよ。死ぬつもりだってない――だけど」


 まっすぐに俺の目を見据え、ガレットは言った。


「私はね。あなたに侮られるのだけは、絶対にイヤなの」

「……」


 クソ真面目な顔して何言ってんだろうこいつ。

 あなたに侮られるのだけは絶対にイヤって、俺既に相当お前のこと侮ってるんだけど……え、怖い。

 もう全然分からない。

 怖い……。


 ――ま、とりあえず、やる気は出してくれたみたいなので良しとしよう。

 俺は手を腰に当て、言った。


「ふうん。じゃ、うだうだくっちゃべってないで行ってこい」

「うん。めいっぱい、やってくる」


 ガレットはにこりと笑った。

 いつもの花開くような笑顔とは少し違う。

 立ち向かう意思の滲んだ、力強い姿だ。


 一方のブレイドルは、彼女の闘志に溢れた在りように戸惑っている様子だった。

 モゴモゴと口を動かし、引き留めようとして――ヤケクソ気味に叫んだ。


「……ああ、もうっ! 分かったよ――僕も戦おう!」

「っ!? あなたまでっ……!」


 アクアマリオンが叫ぶ。

 ブレイドルは今にもブッ倒れそうな声色で言った。


「盗人のアラヤヒールがガッツを見せているってのに、真の誠実を誇るブレイドルが引く訳には行かないじゃないか! ……それに、シズムくん。君に侮られたくないのは、僕だって同じさ!」

「おお……そうかい」


 割と熱いこと言うなこいつ。

 彼らの様子に、アクアマリオンは茫然とし――それから、大きな溜息を吐いた。


「……もし、本当に危なくなったら私も手を出す。それで構わない?」

「ん、いいんじゃねえの。マジで死なれても後始末が面倒だし」

「後始末って……」


 もはや言葉を発する気力も失せたらしい彼女は、それきり黙ってしまった。


 ――さて、上手く行くか行かないか。

 どっちに転んでも俺にとっちゃ大成功だ。

 あんだけ大見得切った挙句負けたら、今度こそ心がへし折れるだろうし――

 勝ったら勝ったで布石になる。


 何たって、ここいらで一つ成功体験を与えといた方が――くく。

 後々面白くなりそうだしな。


「ようし――アラヤヒール、君はどんな魔法が使えるんだ!?」

「え!? え、ええと、初級の守りを固める術と怪我を治す術は大体使えるよ!」

「なるほど、じゃあモンスターを追っ払うための術は!?」

「んっと、一つだけあるよ! 当たったら頭がクラクラになっちゃう呪い!」

「そ、それだけ!? うう、おっそろしく頼りないなあ……!」


 もはや半泣きのブレイドル。

 迸るエネルギー――刃の魔法を繰り出した彼は、やけっぱちに喚いた。


「クソ、こうなりゃどうにでもなれだっ――僕がヤツの気を逸らす! アラヤヒール、援護を頼むっ!」

「お、オッケー! 任せて!」


 返事も聞かぬままブレイドルは勢いよく駆け出した。

 ん、思いの外素早いな――案外鍛えてるみたいだ。


「どぉッ、りゃあああああああああああっ!!」


 右手に刃の魔法を構えたブレイドルが赤子の懐に飛び込み、まずは一太刀――

 膿の混じった血液が勢いよく噴き出してくる。

 ブレイドルは悲鳴を挙げて後ろに飛び退いた――穢れた血が地面に触れた瞬間、じゅう、と煙が上がる。


「毒性を帯びた血液――直接攻撃だとカウンターを喰らいかねない、かっ!!」


 舌打ちをするブレイドル。

 彼は腰を落とし、右腕を突き出した。

 刃の魔法が鈍い銅色に輝き、炸裂――刹那、形状が変化した。

 細く長く刃が伸びていく――まるで槍のようだ。

 おお、シンプルだけど効果的な性質変化じゃないか。


「ぜあっ!!」


 短く雄たけびを挙げ、続けざまに一閃、二閃、三閃――

 噴出する毒液を紙一重で躱しながら、鮮やかに剣撃を叩き込んでいく。

 赤子は痛みに呻き、丸太のように太い手足をめちゃくちゃに振り回した。

 しかしブレイドルの反応の方が数段早い――ノータイムでバリアを張りながら、後方へローリングして安全圏へ避難する。


 暴れ狂う赤子――

 しかしブレイドルはなおも攻撃の手を緩めない。

 再び力を集中させて性質変化――刃を握り潰して粉々にし、投げナイフに変換。

 四方八方に飛び散る血液と酸弾を回避しつつ、赤子めがけて投げ付ける。

 そのうちの一本がモロに眼球へ命中――赤子は激しく喚き散らした。


 大立ち回りを終え、ブレイドルは額に浮いた汗を拭った。

 ……こいつは驚いたな。

 武家の出だけある――体捌きだけを見るならばBクラス、いやもしかしたらAクラスの連中とも互角に張り合えるかもしれない。



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