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俺好みの



 呆然とする二人――

 もうゴチャゴチャ喋るのも面倒臭いのでド直球に命令する。


「あいつな……案外見かけ倒しだから。だから倒せ」

「何言ってんの?」

「大丈夫だよ」

「脳味噌腐ってんの?」

「ああ!? 何だって!?」

「うっ、ご、ごめんなさっ……い、いやだって無理だよ無理だって絶対!!」


 壊れた扇風機が如く首をぶんぶん振るガレット。

 ブレイドルも、あとついでにデッパも茫然としている。

 そこへアクアマリオンが俺の肩を掴んだ。


「シズム、正気!? どう考えても、CクラスとBクラスで立ち向かえる相手ではない――無謀などというレベルを超えている!!」

「はは。お前も割と酷いこと言うタイプだな、アクアマリオン」

「笑いごとではないっ!!」


 頬を紅潮させてアクアマリオンが叫ぶ。


「あなたはっ……彼らを、殺したいの……!?」

「んなこたないさ。――ま、死んだってどうでもいいとは思ってるがな。所詮凡人だし」

「っ――この、悪党っ!」


 短く叫び、アクアマリオンが赤子に飛び掛かろうとして――

 その身を念動力で金縛りに掛けた。


「く、あっ――何、をしてっ!?」

「――俺がな。決めたんだよ」


 俺は低く呟いた。


「ヤツらにこの場を任せるって。だからさ、余計なことすんじゃねえよシルファ=アクアマリオン――でねえと殺すぞ」

「!! くっ……!!」


 恨みがましい目を向けてくるアクアマリオン――だが、その瞳の奥には確かな恐怖が灯っている。

 こいつをトーナメントでブチのめしといてよかったな。

 力の差ってモンが分かってらあ――俺は黙って肩を竦めた。


 ――まあ、実際の所、勝算がない訳ではないのだ。

 というかむしろアリアリだろう。

 何せ相手は戦意喪失寸前――

 攻撃手段もヤケドを負わせるのが精々の酸(?)攻撃とグズグズの魔力吸収程度で、致命傷に至るような苛烈さは皆無。

 おまけにデカい図体のお陰で魔法も当て放題だ。


 ……いや、こんなんと戦って負けろって方が難しくないか?

 我ながら恐ろしく甘い命令を与えてしまった。

 ヘラヘラ笑いながら俺は言った。


「おら、覚悟は決まったかクソ能無し共」

「決まっ……いや決まんないよそんなの決まる訳ないじゃん! 決まるっていうかキマっちゃうじゃない私の人生が! 人生っていうか息の根が!」


 何だこいつ上手いこと言ったつもりかよふざけやがって。

 バカにしてんのか。

 言っとくけど全然上手くもないし特別面白くもないからな。


 だが、彼らの表情を見るに、どうやら割とマジでビビっているようだ。

 んだよつまんねえな、意気地なし共め。

 ……でも、このまんま説得を重ねても何も変わらんだろうなあ。


 ようし、それなら―― 

 俺は露骨につまらなさそうな顔を作った。


「ふうん。なら別にいいや」

「……え」


 上っツラだけの笑みを浮かべる。


「やりたくねえんだろ? だったら構わねえよ」

「あ……え?」


 ふう、と溜息を吐き、淡々と語る。


「お前らにゃ失望したよ――やるからには徹底的に、って最初に言ってたのにな、俺は」

「そ、れは……で、でも、流石にいきなりこんなのはっ」

「言い訳は聞きたかねえんだよ」


 一切の温情を含めぬまま言い放つ。

 俯く彼らへ、俺は更に冷笑を投げ掛けた。


「少しでも力を付けたい。努力にも意味があるのだと証明したい。でも命の危機が迫ったら止めます、怪我したくないから諦めます――結局、お前らの決意はその程度のモンだったってことだろう」


 この言葉は割と本音だった。

 折角大きなステップアップのチャンスが与えられてるってのに、一時の苦痛を理由に逃げ出して――所詮は貴族のボンボンだ。



 ……俺は。

 身も心も死ぬほど擦り減らして。


「ま、お前ららしくていいじゃないか。才能の差は努力で埋められるだの何だのと大ボラ吹いておきながら、土壇場になってあっさり逃げてさ――」


 それでもなお、ただ一度の奇跡すら掴めなかったってのに。


「悪くないねえ、最高に凡人らしい――俺好みの展開だよ」

「…………っ!!」



 Cクラス二人組は苦しげに黙りこくっている。

 何だ――ほんとに、このまま挫けちまうのかよ。


 ……つまんないな。

 白けた気分で嘲笑を顔に張り付ける。


「てな訳で、あのキモいのは俺が一撃でズタズタにしてやるよ。それが終わったらとっとと学院に帰って、その無様なツラをこっちへ二度と見せるな――」

「――待って」


 俺の言葉を遮って、決然とした声が届く。


「待って、シズムくん」


 ガレットだ。


「――分かったよ、シズムくん。私、あいつと戦ってみる」



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