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ギルド



 そんな経緯があって、俺は二人を連れてトルテまでやってきたのだ。

 商店が密集しているエリアを抜け、直進する。

 ぼちぼち着きそうなモンだけど、まだかなあ……。


 ……ん。

 おう、やっとか。

 俺は飲食店から漂う美味そうな香りに釣られてふらふらしているバカ二匹の頭を引っ叩いた。


「あ痛っ!? だ、大丈夫だよシズムくん私別にお腹減ってたりとかそんなバカみたいなこと全然ないからね! 出発前にサンドイッチ三つくらい食べたし!」

「そ、そうだぞシズムくん――いや師匠! ああ何ということだ、冷静に考えたら師に向かって呼び捨てなど、あまりに礼を失しているではないか!」

「ああっ、言われてみれば確かに! ご、ごめんねシズムくん――ううん、師匠!こんな初歩的なことに気付かなかったなんて、私ったら駄目な子だあ!」

「次俺のこと師匠って呼んだら二度と口利いてやらないからな」


 彼らの戯言を受け流しつつ、俺は真正面の建物を指差した。


「ほら、見えてきたぞ。あそこが目的地だ」


 パッと見の印象は、まあ……とにかく、デカい。

 高層マンション並――とまで言うと、流石に行き過ぎか。

 それでも、この世界に転生してから見てきた建物の中では、五本の指に入る大きさだ。

 おまけに、門に至るまでやたら装飾がゴテゴテしているため、入るには相当な度胸が求められる。


「え? ま、まさか、あの建物って……し、シズムくん。あれが本当に僕らの目的地なのかい?」

「そうだけど。嘘ついてどうすんだよ」

「お、おおおっ……こいつは何とも、初めから物凄い……!」


 何かを察した様子のブレイドル。

 一方、よく分かっていないガレットは困惑したふうに俺の肩を揺すった。


「し、シズムくん……あの建物って一体なあに? 市役所?」

「なんでこれから修行するって時に市役所行くんだよ。違えよギルドだよギルド」

「ぎるど……え、ギルド!? ギルドってあの、モンスター退治とかする!?」

「別にそれだけが仕事って訳じゃねえが、その通りだな」


 そう――この建物こそが、トルテが賑わうもう一つの理由。

 つまりギルドなのだ。


 ギルドとは、あの……前世の創作物やらでお馴染みの、依頼とかを解決したりするアレだ。

 こう、色んな都市に支部が存在している感じのヤツだ。

 恐ろしく適当な説明だが、本当にイメージ通りの場所なのだから仕方なかろう。


 そして、ガレットの言はあながち的外れではない。

 実際ギルドに入る依頼の大半がモンスター退治、もしくはそれに準ずるものだ。

 無論、日常の雑務的なアレもそれなりに需要があるし、そこ専門で活動している者も少なくない。

 しかし如何せん花がない上に、その大半がギルド所属の魔法使いのいじめに堪えかねた言わば負け犬であるために、大衆からは蔑まれている。

 散々逃げ惑った先がそんなんとか、凡人は悲しいな。


 ……ま、んなこたどうでもいい。

 俺はガレットとブレイドルを手招きし、言った。


「てっとり早く力を付けたいなら、やっぱ実戦が一番だろ――ほら行くぞグズ共」





     ◇





 ギルド内部のロビー(案外綺麗)には、荒くれ男たちが溢れ返っていた。

 ……と、いう訳ではなかった。

 いかにも戦士然としたようなのもいるっちゃいるのだが、それとは正反対の優男や、線の細い女性の姿もそれなりに見受けられる。

 性別だの体格だのは魔力の多寡にあんまり関係ないしな。

 どっちにしろ、表通りと同じくらい人でごった返しているのは確かだ。


 ふと後ろを振り返る。

 ガレットもブレイドルも、緊張でガチガチになっていた。

 つくづく素直なヤツらだな。

 いや、変にひねくれられてもそれはそれで困るんだけどさ。


 ――こいつらをギルドに連れてきたのには、実はもう一つ理由があった。


 それは、よく考えたら俺も本格的な実戦の経験なんてモンは皆無であるという点だ。


 いや、ほら。

 別に実戦経験を積みたいとか、そんなんじゃないんだよ。

 そんなモン経験しなくても、俺はいつだって最強だからな。


 ただその……本気の命の奪い合いの中で自信を付けてきた、歴戦の猛者をさ。

 こう、一撃で倒してさ。

 プライドと心をへし折ってさ。

 ほら。

 面白そうじゃないかそういうの。

 素敵じゃないか。


 ……ああでも、五歳の頃に大賢者をボコったのは実戦か。

 あの戦いは今思い出しても笑えるなあ。

 最初は子供をあやすみたいに戦ってたくせに、追い込まれ始めたら顔真っ青にしながら大魔法連発してきやがってさ。

 その全部をただのバリアで弾き返された時の爺さん表情、ほんと凄かったなあ。


 今頃あの爺さんどうしてるんだろうなあ。

 などと思考を巡らせていると、服の裾を誰かに引っ張られた。


「あ、何? なんか用?」

「いや、その、シズムくん……その、あの」


 ガレットが何やらモゴモゴと言う。

 どこか気まずそうな、モヤモヤしている感じだ。

 彼女がこういう態度を取るとは、珍しいな。


「何だよガレット。便所ならそこの角を右だぞ」

「ち、違うよ別にそんなんじゃないよ! 別に催したとかそんなんじゃないよ!」

「じゃあどんなんだよ。つまんねえことほざきやがったら即破門だからな」

「き、急激にハードルが……! え、ええと、面白いかは分かんないけどね……」


 ――あの人たち、どうしちゃったんだろう?

 ガレットは、特に人の集まっている場所――その中央を指差した。


 そこに居たのは、露骨に偉ぶっている風情の男と――

 彼に向かって土下座をする、一人の少女だった。




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