伝わらなくて
「お前に与えられたB判定は、メッキで塗り固められた偽物だ。そりゃクラスでも浮くよな、その程度の実力しかないって周りにバレ始めたら」
ブレイドルへ、更に追い打ちを掛ける。
反論は飛んでこない――彼はただ震えるばかりだ。
魔法使いは誰もが大なり小なり“魔法を使えないヤツに存在意義はない”的な価値観を持ち合わせているし、わざわざエストに来るような連中は尚更だ。
そんな中に、家柄だけで評価がワンランク上がったブレイドルみたいなのが放り込まれりゃ、まあ、嫌われもしよう。
ただ相手が相手なので、あまり過激な嫌がらせはそうそうできないから、結果、ハブられると。
そこで開き直れるくらいの図太さがあればよかったのだけど――
生憎、彼にそこまでのガッツはなかったらしい。
実際面と向かって指摘されてめちゃくちゃショック受けてるみたいだしな。
とりあえず、とどめにもう一言入れておく。
「――ほら、元気出せよ。才有る者が一の労で十を得るならば、才無き者は百の労で百を得ればいいんだろう? 努力が足りてねえぞ、凡人」
「っ…………!!」
真っ青を通り越して、真っ白になったブレイドル。
どうやら完全に戦意を喪失したらしい。
おお、いい顔してるわ。
このツラが拝みたかったんだよこのツラが。
さて。
俺は立ち上がり、ガレットの方を振り返った。
怯えた表情で立ち尽くす彼女の元へ、ゆっくりと近づく。
「後はお前だけだな、ガレット」
「あ、あう……」
ガレットはわたわたおろおろするばかりだった。
柔らかな金髪がふわふわ揺れる。
「これで本当に奥の手はないのか? それならもう、とっとと片づけて帰りたいんだけど」
「……ま、待って、シズムくん」
一瞬怯むガレット――しかし、彼女はきっと俺の目を見据えた。
「まだ、一つだけ残ってるよ。私の、最後の手段が」
「最後の手段、だと?」
「うん。……これが通じなかったら、もう、私たちの負けで構わないよ」
「……へえ」
面白そうだな。
俺は一旦魔力を収めた。
「少しだけ待ってやる。やってみろよ、その最後の手段とやらを」
「ん……ありがとシズムくん、やっぱりあなたは優しいね。じゃ、行くよ……!」
さて、どうくるかな。
不意打ちで攻撃を飛ばしてくるのか。
或いは何か大技をかますのか。
またくだらない冗談をかましやがったら、問答無用でブッ飛ばすがな。
そして、ガレットは、珍獣でも眺めるみたいな気分の俺に向かって――
「…………あ?」
その――細い掌を、差し出した。
俺は眉を顰め、言う。
「……何のつもりだ。新手の呪いか?」
「ううん、違うよ。これはね、握手――何の力もこもってない、ただの握手だよ」
真面目くさった顔でガレットは言った。
……ああ、なるほど。
そうかい、そういうことかい。
静かに、右手を持ち上げた。
ぱあっと彼女の顔が輝き――俺は、その姿目掛けて衝撃波を放った。
「ぎゃんっ!!」
「何をするのかと思ったら、バカバカしい――最後の最後にお涙頂戴の戦闘放棄かよ。それなら、冗談を飛ばされた方がまだマシだわ」
吹き飛ばされたガレットは、場外スレスレの位置まで追い込まれた。
あと一撃入れれば、それでおしまいだ。
ああ、クソ、すっかり気分が白けちまった。
やっぱり馴れ合いなんてするモンじゃないな。
よろよろと立ち上がろうとしているガレット――手加減しつつ、その周辺の重力を操作してやる。
彼女は悲鳴を挙げ、ぐんと地面に押し付けられた。
俺は傍へ近寄り、手をかざした。
「じゃあな、凡人。まあまあ刺激的な試合だったぞ。オチはクソつまらんものだったがな」
「くうっ……ま、待ってっ、シズムくん」
這いつくばりながら、ガレットは何事か呻く。
「私――私っ、あなたに、あなたに言いたいことがあるのっ……!」
「あん?」
必死の形相で重力に逆らい、ガレットは顔を上げた。
整った顔立ちが、汗と重力でぐしゃぐしゃだ。
ふと、初めて会った時の彼女を思い出した。
「わ、私……っ、あなたの気持ちが知りたいのっ。ほんとは何を考えてるのか、どうしてそんなに努力が嫌いになっちゃったのか、深い所が見てみたいの……っく、変な先入観とか、そんなの要らない、あなたの傍に居たいの……!!」
幾度も言葉を詰まらせながら、彼女は言い切った。
ふうん――深い所が見てみたい、ねえ。
……勝手なことをほざきやがって。
俺は、ガレットの頭を鷲掴みにした。
困惑するその瞳を、無感情に見下ろす。
「そんなら教えてやるよ。俺の“深い所”をな」
「……え」
そのまま、指に力を込め――莫大なエネルギーを送り込んだ。
瞬間、ガレットは目を見開き――
「ぎっ……あああああああああああああああああああああっ!!」
喉が裂けるほどに大きな叫び声を挙げた。
激しくのたうち回り、口から泡を吹き出す。
そのまま大きく二、三度、身体を痙攣させて――ガレットは気を失った。
別に大したことはやっていない。
ただ、具体的な記憶だけを隠しつつ――前世、自ら命を絶つその直前に感じていた全てを、脳に直接叩き込んでやっただけだ。
深い所を知りたいと言ったのは彼女だ、特に罪悪感はない。
気が付くと、会場は静まり返っていた。
つい先程まで、ふざけた雰囲気に笑い出してしまう者もいたのだが――今は皆、ただひたすらに黙りこくっている。
「――おい、審判」
「え――あっ、し……勝者、シズム=ドラゴリュート! ま、また、この試合を以てして、本トーナメントの優勝者とするっ!」
静寂を空虚な勝利宣言が切り裂く。
俺は小さく鼻を鳴らし――退場口へと向かった。




