水飛沫
虚空から水を取り出し、空にばら撒く。
間髪入れず気温を操作――急速冷凍し、氷の槍を作り出す。
魔力を纏わせて威力強化、念動力で高速射出――が、あっさり弾かれる。
だけどこれが本命じゃない――吹き飛んだ槍、その周辺の空間を歪ませる。
「おおっ!?」
瞬間移動――シズムのバリアの内側に槍を送り込んだ。
続けざまに性質変化を行い、槍に仕込んでおいたエネルギーボムを起動。
響く爆発音――生で直撃させたのだ、これで少しは効いて――
「はー……。よく考えるモンだな、ほんとに」
――いなかった。
シズムは何度も瞬きをしながら、平然と服の裾に付いた煤を払っていた。
完全にノーダメージだ。
どういうことだ、生身の状態であの耐久力――そうか、無意識の内に溢れ出した魔力が極薄の鎧の如き役割を果たしている?
冗談だろう。
ただ垂れ流しているだけのエネルギーがあれだけの硬度を得るだなんて、寡聞にして聞いたことがない。
化け物染みたセンスだ。
――つまり、彼にダメージを与えるには、あの強靭なバリアを打ち破った上で、魔力の鎧を無効化する方法を見い出さねばならないという訳か。
できる訳がないだろう、そんなこと。
つい泣き言をほざきたくなる。
だが、既に賽は振られたのだ――今更引く訳にはいかない。
困惑している暇はない、攻撃の手を緩めるな。
地面目掛けてエネルギー弾を数発撃ち込んだ――煙が巻き起こる。
「何だ、目くらましか?」
牽制がてら、片手で更に弾丸を放ちまくりながら、もう一方でポケットを探る。
ガラスの小瓶を引っ掴み、握りしめる――みるみるうちに、鮮やかな紺碧の液体で満たされていく。
渾身の魔力弾を放ち――それとほぼ同時に、シズムの方へ小瓶を投げ込んだ。
魔力弾がバリアに阻まれ、爆裂――その余波を受けて小瓶が割れた。
中身の液体が地面に触れた、その瞬間――
「! ……っと」
シズムの足元が、大きな沼に変化した。
流石にこんな攻撃は予想していなかったのか、受け身も取らないまま、彼は沼に沈んでいく。
よし――私は空気の膜を纏い、沼の中に飛び込んだ。
着水すると同時に肉体を変質させて、水中でも自在に動けるようにする。
猛スピードで水を掻き分け、シズムの姿を探す。
しかし見当たらない――千里眼を発動、気配を探る。
どこだ――一体、どこに――
「底なし沼を出す術か。やっぱり水の魔法が得意なんだな、お前」
――刹那、背筋が凍る。
振り向きざまに氷の針を連続で放つが、片手で弾き返された。
たゆたうシズム――水中であるにもかかわらず、平然としている。
水中呼吸とグラビティコントロールの併用か。
なんて無茶な組み合わせだ――もし私が真似したら、一分と経たずに魔力が枯渇するだろう。
ならば、とシズムの周辺の水を思い切り圧縮した。
「うおうっ」
ぐん、と彼の身体が折れ曲がる。
ダメージは期待していない――数秒、動きを封じられればそれで構わない。
魔力を解放して、水にエネルギーを溶かす。
沼そのものを、私の意思で操り――猛烈に掻き回す、掻き乱す。
やがてエネルギーは一つの目的の元に収束していく。
――シズム=ドラゴリュートを打ち倒せ。
渦は突進し――轟音と共に、彼の細い身体を、水面の彼方――会場の天井近くまで吹き飛ばした。
それを追いかけ、私も沼から脱出する。
「ぷはっ――」
水面から顔を出し、舞台に立つ。
彼はどこへ――
「……大した連携だ。Sクラスを名乗るだけあるな」
弾かれたように見上げる。
シズムは平然と空中に浮いていた――レビテーションで激突を回避したのか。
またもや、ダメージは皆無。
……行動阻害の呪いは効果が薄い。
至近距離での爆発程度の威力では魔力の鎧を打ち破れない。
その数倍のパワーを持った渦攻撃も通じない。
反則的だ――私も天才だの何だのと騒がれたことはあったが、シズムに比べれば凡人も同然だろう。
それでもここまで生き残れているのは、彼が本気を出していないからだ。
戦う前は“少し真面目にやる”とか言っていたくせに。
つくづく見くびられている。
まあ、お陰で準備は整ったが――
沼は既に消失している。
だが、舞台には既に私の魔力をたっぷりと含んだ水が大量に飛び散っている。
――大技を、繰り出してみるか。




