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弱きを挫いて



 よく分からないキメポーズと、自己陶酔し切った笑顔。

 そして、相も変わらず死ぬほど稚拙な刃の魔法。

 全身からヤバい人オーラを放ちながら、ブレイドルは俺たちをガン見していた。


「……そう!! このバーン=ブレイドル様がね!!」


 何で二回言ったんだよ。

 くすんだ栗色の瞳がかつてないほどに輝いている。

 止めろ、その狂気に満ち溢れたツラを俺の方に向けるな。

 キモいから。

 さっきのロン毛共よりもお前の方が数段キモいから。


 ていうか普通に関わりたくない。

 とっととこの場から離れよう。


「おいガレット、どっか別の所に――」

「ぶ……ブレイドル!? あなた今ブレイドルって言ったの!?」


 おい何だお前どうしたんだよその反応具合は。

 さっきまでのしょぼくれ振りは一体どこに言ったんだよ。

 どうしちゃったんだよマジで何なんだよ。

 怖えよその情緒不安定ぶりが。


 しかしブレイドルの態度はなぜか全く揺らがない。

 普通助けた相手に怒鳴られたらもっと動揺しそうなモンだけど。

 頭がおかしいのかな。


「その通り! 誠実と清廉を家訓とするブレイドル家、その長男が僕なのさ!」

「誠実? ブレイドル家が清廉ですって? はっ、笑わせないで!」


 ガレットは物凄く邪悪(と本人は思っているのであろう)な表情を浮かべつつ、ブレイドルの右手にくっついたエネルギーの剣に指を突き付け、言い放った。


「だって、あなたが自慢げに振り回しているその刃の魔法……それは私たちアラヤヒール家の技術を盗んで作り上げたものなんだからね!」

「な、何だって!? 戯言を――いや、ちょ、ちょっと待て!」


 イジワルっぽくニヤニヤと笑うガレット。

 おいおいマジかよ、それが本当だったら大スキャンダルじゃねえか。

 ブレイドルは慌てて弁解をしかけ――何かに気付いたかのように動きを止める。


「まさか、君はアラヤヒールの子なのか!? 医療魔法専門の、あの!?」

「ええ!」

「ふ、ふはははははっ! こいつは恐れ入ったよ、まさか自分たちの罪を被害者たる僕ら一族に押し付けるとはな! 恥知らずとはこのことだ!」

「はああっ!? な、何を世迷言をっ!」


 お、なんか攻守交代したぞ。


「いいか、ハッキリ言っておくぞ! アラヤヒールはな、僕らの刃の魔法のノウハウを盗んで成り上がった一族なんだ! 断じてブレイドルは盗人ではない――誠実でも清廉でもないのは君たちの方なのだよ!」

「そ、そんなあ!? 嘘だよそんなの、ありえない……ありえないよ!」

「いいや違うね、ありえるんだよ!」

「ありえない!」

「ありえるんだったらっ!」


 あっヤベえ。

 バカ同士で変な方向に波長が合い始めていやがる。


「第一、君を助けたのは誰だと思ってるんだい!?」

「それとこれとは話が別だし、どうせシズムくんがやっつけてくれたもん!」

「はっ、流石はアラヤヒール!! 己が命を他人に任せるとはな!」

「うるさいっ! そっちこそ何なのよあの変なポーズは!」

「へ、変なポーズ!?」

「あんな隙だらけで、もし敵から不意打ちが飛んできたらどうするの!?」

「ぬ、ぬううっ! 痛い所を突きやがって貴様!」


 ……いや待て、これは好機だ。

 うるさい腐れ凡人共から距離を取り、残り時間を一人で静かに潰すチャンスだ。

 幸いヤツらは俺に対する興味を失っているようだし、今のうちに――


「――ねえっ、シズムくんはどう思う!?」

「そこの銀髪の子!! 君はどちらが正しいと思うんだい!?」


 ……そうさ、どうせこうなると分かっていたよ。

 これで三回目だからな。





     ◇





「――ふくく、ふはははははははっ! Cクラス!? アラヤヒール、君はCクラスだったのかい!? ふふふ、Cクラス、Cクラスか! あはははははっ!」

「う、うるさいなあ! それならあなたのクラスはどうなのさ!?」


 グラウンドの隅、喧噪の届かないベンチの傍。

 ひとまず論争が収まったと思ったら、今度はクラス格差が火種となった。

 言い返すガレットに、ブレイドルは物凄くバカみたいな顔で答える。


「ええ~っ? Bクラスだけどぉ~? 君より上のBクラスだけどぉ~?」

「ぐぬぬ……く、悔しいようシズムくん。あのクソが酷いこと言うよう」

「クソって君……」


 止めろ、俺に話を振るな。

 縋りついてくるのも顔を擦りつけてくるのも止めろ。

 当たってるから、胸が凄い勢いで当たってるから。

 ていうか凡人共のお家事情とかクラスとか別に知ったことじゃないから。

 心底どうでもいいから。


 ……ん、でも、あれ?

 不意に疑問が浮かんだ。


「おい、ブレイドル。聞きたいことがあるんだけど」

「ん、どうし――っ!? き、君、よく見たら、その、す、凄く綺麗な……」

「あん?」

「は、ははは! 何でも聞いてくれたまえよレディ!」

「いや、お前ミリに一撃で失神させられてたのによくクラス判定に間に合ったな」

「一撃っ……ま、まあ、結果だけを客観的に見ればそうなるかもしれないけど」


 だけど負けたとは思っていないけどね!

 僕が負けたとかそういうことは全然思っていないけどね!

 あれは、その、ちょっと読み合いをしくじっただけだからね! 

 色んな意味で負けているブレイドルは若干あたふたしながら言う。


「と、ともかく! あの後、判定は別室で受けさせてもらったんだよ」


 言って、ブレイドルは右手を翳した――掌に、光が集まっていく。

 光が収まると、その手の中には“銀細工の施された長剣”が握り込まれていた。

 彼はくるくると剣を器用に回して、また変なポーズを決めた。

 キモい。


 しかし――なるほど、こいつ俺に対して全然ビビらねえなと思ったら、そういうことか。

 俺が闇のドラゴンを呼び出したところを見ていなかったんだな。


「……むー。なんか納得いかなーい」


 ぶすくれた顔でガレットが声を出す。


「そーんな、ありふれた感じの剣でBクラスなのー?」

「な、何を失礼なことを! ほら、よく見たまえよ、この刃の輝きを!」

「んなこと言われても分かんないよ。結局ただの剣じゃん」

「ただの剣!?」


 ブレイドルは怒ったのか呆れたのか、不愉快そうに顔を歪める。

 ただの剣ってのは同意だけど、Cクラスのお前が言えた義理じゃねえだろ。

 ……ていうか。


「なあ、ガレット――お前の根っこって一体何なんだよ?」

「えっ」




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