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バカ大集合



 ……ん、何だこの立ち姿からして才能の欠片も感じられない二人組は。


 薄ら寒い丁寧口調の方は、変な自意識過剰っぽいロン毛だ。

 もう一方、ロン毛の取り巻きっぽいのは、顔にも背格好にも全然特徴のない典型的なモブだ。

 つまり俺からすりゃ、どっちもどうだっていい存在という訳だな。


 ――しかし、ガレットにとってはどうでもよくなさそうだ。

 先程までの喧しさが嘘のように大人しい。


「ねえ、ガレットちゃん。君、流石に無責任すぎないかい?」


 ロン毛に名前を呼ばれたガレット。

 その肩が、小さく跳ねた。


「あんなにバカみたいな勢いでバカみたいに喋りまくって、皆をドン引きさせたのが幾らショックだったからってさ、普通断りもなく飛び出すかなあ」

「皆、散々キレてたぜ。あんなに場を乱した挙句、謝りもしないでってさ」

「え……」


 ガレットは酷く傷付いたように叫んだ。


「そ、そんなっ。私、そんなつもりじゃ……!」

「そんなつもりじゃ――では、ないんだよ!」

「っ……」


 怒鳴り返すロン毛――しかし、その顔には下劣な笑みが浮かんでいた。

 この二人組、ガレットの同級生か。

 それじゃあこいつら、偉そうな態度取ってる割にCクラスなんだな。

 ……哀れというか、滑稽というか。


 ……ん、ああそうか、そういうことか。

 何で同じクラスのヤツらとつるまないのかと思ってたけど、ガレット、クラスで浮いてたんだな。

 なるほど、確かに常時あのテンションだったらそりゃ嫌われるわ。


 パニックを起こしたかのように激しく瞬きを繰り返すガレット。

 更に取り巻きモブが追随する。


「ド貧乏といえど、お前も貴族の端くれだろ? クラスの代表たる俺たちに、きっちりと礼儀を示さなきゃな?」

「ご、ごめんなさいっ! あ、謝るから、許し――」

「貴族のメンツを潰したというのに口頭の謝罪で済ませるつもりかい」

「え……!? ま、待って、私お金なんて――」

「金なんか要らないさ」


 狼狽するガレット。

 その、浮き出た豊かな胸に――ロン毛は性欲剥き出しの視線をぶつけた。


「君の犯した過ちは、“君自身”で償わなきゃならない。――分かるだろう?」

「う、あ……」


 ガレットは自身の肩を抱き、後ずさった。

 ロン毛が何を言わんとしているのかは、鈍い彼女でも察しが付いたらしい。

 ニタニタと笑う変態二人組――どうやら本気らしい。

 当の彼女はガタガタと震えながら、涙を浮かべている。



 ――不意に、その姿に、かつての俺が重なった。



「……おい」

「おや、まだ誰か居たのか――っ!? き、貴様はドラゴリュート!?」

「どうしたんだよ、兄貴――うわあっ!? お前、闇の龍を呼んだ……!?」


 ああ駄目だ、なんかイライラする。

 俺を嘲り、笑い、ブン殴る――人気者の“彼”の顔がフラッシュバックした。

 別に、凡人――ガレットの肩を持つ気は更々ない。

 が、何となく不愉快だった。


「ま、待て、ドラゴリュート。これには深い事情が……」

「――黙れ」

「ひいっ」


 ロン毛が血の毛の引いた顔で弁解をしようとしている。

 知ったことじゃないけどな。


 ただまあ、実際の所、そこまで強烈に怒っている訳でもないのだ。

 俺は常々才能のない人間に存在価値はないと思っている。

 だから俺にとってはガレットもロン毛もその取り巻きも等しくゴミクズだ。

 ゴミクズ同士の小競り合いに興味を持つ人間がいるか?

 答えはノーに決まっている。


 俺はあくまでも“何となく不愉快だったから”怒っているに過ぎない。

 ガレットが侮辱されたことに関しては正直それほど興味はなくて、ただ、ゴミクズ如きが俺に不快感を与えた――そこが一番ムカつくのだ。


 ポケットに突っ込んでいた両手を出す。

 それだけでカス二匹は跳ね上がり、ゴキブリのようにカサカサと後ずさった。

 何だ、つまらないな。

 挑発代わりに、侮蔑を込めた視線を送る。


「う、ううう……畜生おおおおっ!!」

「なあっ――ま、待て!! 早まるな!!」

「ふざけやがって、何がSクラスだ、何が最も優れし魔法使いだっ!! そんなの見かけ倒しだ、こけおどしに決まってらあっ!!」


 見事に煽りに引っ掛かったモブ顔が突っ込んできた。

 手には“穴だらけの紙切れ”――ヤツの根っこだろう――が握られている。

 凡人らしい、恐ろしく貧相な代物だ。


 魔法を使うまでもない――視線にほんのちょっぴり魔力を乗せ、睨み付ける。

 途端にモブ顔は白目を剥いてひっくり返り、気絶した。


 弱い、弱過ぎる。

 こんなようなヤツに俺は前世で苦しめられていたのか。

 力のない者だけを狙って弱みに付け込み、好き放題弄び――

 その実、少し反撃されれば、いとも容易く打ち倒されてしまうほどに弱い。

 何だか笑いがこみ上げてきた。


 ――さて、あとはロン毛を始末してお終いだ。

 俺は振り返って――つい、眉を顰めてしまった。


「は、はははははははっ!! 油断したなあ、ドラゴリュート!! 貴様がどれだけ強い力を持っていようが、こうなってしまえば手も足も出まい!!」

「ひぐっ、ご……ごめんなさい、シズムくんっ……」


 ロン毛がガレットを抑えつけていたのだ。

 してやったり、という風情のロン毛に対し、彼女は肩を震わせている。


 ……いや、流石にあいつ、バカ過ぎないか?


 どれだけガレットの家の格が低いかは知らんが、仮にも貴族の令嬢に対してこんな暴行紛いのことをやらかしたらシャレにならないだろう。

 頭に血が上っていて正常な判断ができていないのか、単に元からアホなのか。

 多分元からアホなんだろうな。


 まあいいや。

 人質なんか取られたところでやりようは幾らでもあるし。

 さて、どうするかな。


「さ、さあ、こいつを離してほしけりゃ、僕の言うことを聞くんだな……!! まずは服を脱げ!! お前が本当に男なのかどうか、確かめて――ごォッ!?」


 瞬間、激しく砂埃が巻き上がり――ロン毛がブッ飛んだ。

 頬骨を思い切り砕かれ、数回バウンドした後、外壁に叩きつけられる。

 そのままロン毛は気を失ったらしい。 

 解放されたガレットは、茫然とその様子を眺めていた。


 今のは俺がやったんじゃないぞ。

 砂埃の中に人影が見える――ヤツが手を下したのか。

 やがて姿が明瞭になっていく――


「ふっふっふ……人質だなんて卑怯な貴族の風上にも置けない戦い方、例え天が許しても、僕は決して見逃さないぞ?」


 いや待て、このキザったらしい声、聴き覚えがあるぞ。

 こいつ、まさか、最初にミリに喧嘩を売って倒された――



「そう――この刃の魔法の継承者、バーン=ブレイドル様がねっ!!」



 ……ああ、なんかまた面倒臭そうなのが増えた。 




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