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合同演習



 無駄にだだっ広いグラウンド――

 舞い上がる砂埃、他人の汗の匂い、喧しいお喋り、強烈な日差し。

 目に、耳に、肌に届く何もかもが苛立たしい。


 ああ……なんて無意味でくだらない時間を過ごしているんだ、俺は。


 本日幾度目かの舌打ちをする。

 演習が始まって暫くは、こっちを女と勘違いしてナンパじみた絡みをしてくる腐れボケナス共をボコボコにするのに忙しかった。

 多分、別の会場で判定を受けた連中だろうな。

 俺と同じ会場だったヤツは、ビビって声どころか視線すら向けてこないし。


 ただまあ、どうやらズタズタにしたクソ共の中にAクラスが混じっていた上に、俺がドラゴンを召喚したヤツだということが知れ渡った結果、ゴミが近寄ってこなくなったので、なんぼか気が楽になった。


 暇潰しに凡人の群れをぼんやりと眺める。

 どいつもこいつもヘッタクソな術を見せびらかし合い、自慢合戦を繰り広げていた。

 そんなに自分の無才振りを誇示したいのか。

 駄目だ、見ているだけで胸が悪くなる。


 クソみたいな気分といい雰囲気といい、つい前世の体育祭を思い出してしまう。

 あれも大概やる意義の感じられないイベントだったが、この演習も大概だ。

 生徒たちも結局クラスごとに固まっちまってるじゃねえか。

 これのどこが“合同”演習だよ。

 教師共もやる気なさげだしな。


 冗談抜きで殺意が湧いてきた。

 いっそ学院に隕石でも直撃させて、無能軍団もろとも根絶やしにしてやろうか。


「……あれ、シズムくん?」


 本気で魔力を集中させ始めたその時、背後から聞き覚えのある声が届いた。


「ああっ、やっぱりシズムくんだ! 久しぶり――って、程でもないかな!? まあいいや! とにかく、えへへ、友達に会えてほんとよかったー!」


 熱風に吹かれて揺れる、柔らかな黄金色――ルビーのような瞳。

 案内図すらまともに読めない凡人以下のCクラス美少女、ガレット=アラヤヒールだ。


 服装は薄手のシャツにハーフパンツと、なかなかにギリギリだ。

 しかも汗で身体のラインがモロに出てしまっている。

 その状態で元気いっぱいに飛び回るモンだから、胸が凄いことになっている。

 男子からは危ない視線が向けられているけど……気付いてなさそうだ。

 にしてもまさか、再びこいつと顔を合わせることになるとはな。


 って、いや、ちょっと待て。


「お前……今、俺のことを友達って言ったか?」

「うん!」

「……いつ、俺がお前を友達だと認めた?」

「昨日お喋りしたじゃん! 交流を深め合ったじゃん!」


 ……こい、つ、は……。

 取り敢えず、一言伝えておかねば。


「……あのさ。ガレット」

「きゃっ! シズムくんたら、もう私を名前呼び!? はわわ、意外と大胆っ!」

「昨日今日会った人間のことをな。普通、友達とは呼ばねえんだ」

「でも、シズムくんにならどんなふうにでも――ええっ!?」

「そういうのをな。ただの知り合いって言うんだよ」

「な、何その意味不明な理屈!? 私知らないよそんなの!! 全然意味分かんないよ!! 何て名前なのそのルール!?」

「常識」

「そ、そんなド直球に!!」


 酷いよシズムくん、酷いよ!!

 と叫びながらブッ倒れるガレット。

 冗談ではなく、本気でショックを受けているらしい。


 よし、今のうちに通り過ぎよう。

 今度こそ完全に気配を消して、上手くヤツをスルーするんだ。


「……でも、そういうハッキリしたところも、す、好きかも……って、あああ待ってシズムくん待って行かないでえええ! そんな自然にシカトかまさないで!」


 畜生もう立ち直りやがった。

 二度目だぞこの展開も。

 本当に何なんだよこいつは、精神が弱いのか強いのかすらよく分かんねえ。

 マジ意味分かんねえよ。

 怖えよ。


 ……ああ、もう、全く。

 凡人の分際で、手間を掛けさせやがって。


「うう、ごめんなさい、ちょっと調子乗り過ぎ――あ、あれ?」


 俺はガレットの細い掌を掴み――ぐい、と引っ張り上げて立たせた。


「あ……」


 ガレットの頬が、急速に色づいていく。

 見開かれた目が潤む――何度も瞬きを繰り返している。

 

 なぜだろう。

 どうもこいつと喋っていると調子が狂う。

 しかも厄介なことに、その感覚がそこまで不愉快なこととは思えないのだ。

 自分で言うのも何だが、俺は割と頭に血が上りやすい方だ。

 なのに、彼女のふざけた立ち振る舞いを見ていても別段潰したくはならない。


 この気持ちは何なんだ?

 不思議と暖かな、柔らかな、優しげな――


 ……あ、分かった。


 これってあれだ、あのノリに近いんだ。

 飼い犬が遊んでいる最中にふすまを破っちまっても、責める気が起きないみたいな。

 次元が違い過ぎて何をされても怒る気になれないみたいな。

 こう、親戚の子供とかに向ける感覚に似てるんだな。


 そう考えると彼女がもう犬コロか何かであるようにしか思えなくなってきた。

 心なしか仕草もどこか犬めいているような気がする。

 何だか胸に暖かなものが広がってきたぞ。


「し、シズムくん……? そ、その優しいまなざしは何? 一体どういう意図が込められているの? え……? 怖い、怖いよシズムくん、あなたは私を哀れんでいるの? それか、も、もしかして、私のことを愛おしく感じちゃってたり……?」

「どちらかというと……前者かな」

「うわああああああああんそんなこったろうと思ったよ畜生!!」


 クソ、なんか微妙に面白いなこいつの反応。

 折角だし、もうちょっとからかってやるか、と思った矢先――



「――おやおや。こんな所にいたのかい、ガレットちゃん?」

「こんな隅っこに居たんじゃ駄目だぜ。折角、新入生同士、親睦を深めるチャンスだってのに」


 突然、どこか間の抜けた声が響いて――ガレットが、全身を強張らせた。




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