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余計なこと



 きっと……。

 …………。



 きっと、どうなるんだろう?



 ――そうだな。

 どうだっていいことだ。

 いつだって、理解できないものは遠くにあるもので。

 遠くにあるものはどうでもいいものだ。

 だから俺には関係ないだろう?


 それよりもさあ。

 もっと重要なことがあるじゃないか。

 ブレイドルの構えた聖剣を見やる。


 きらびやかに輝く刃――発せられる絶大なエネルギー。

 確かに大したものだよ。

 十分に強力な魔法と言っていい。

 よくまあその段階まで持って行けたモンだ。


 だけどよ――静かに、魔力の風を纏う。


 その程度の力で。

 そんな、クソみたいな、カスみたいな力で。

 随分と調子に乗っているようじゃないか。


 俺の期待に応えてみせる?

 失望させない?

 ふざけるな。

 二人掛かりでも校長どころか神獣にすら遠く及ばない癖に。

 それで俺の戦って欲しいって願いに、大丈夫だって?

 ちゃんとやれるって?


 冗談じゃない。

 きっとこいつらは俺のことを舐めてやがるんだ。

 バカにして、見くびってやがるんだ。

 あいつらと同じように。

 俺を嘲ったあいつらと同じように。

 最近の二人には甘い顔ばかり見せていたから。

 だから勘違いしたんだ。

 許せない。

 許せない。

 許せない。

 バカにしやがって舐めやがって見くびりやがって。

 殺してやる。

 殺してやる。



 ――殺してやるっ!!



「っ――」


 抑えきれないエネルギーの奔流。

 黄金に、七色に、紅色に解け、散り、舞い踊る光の粒子。

 一瞬、ほんの一瞬、輝きは空中に静止し――直後。

 ブレイドルめがけて猛スピードで突進する。


 ごう、と鳴り響くは空を絶つ音。

 暗闇を、冷気を切り裂く灯――いや、灯と呼ぶには些か苛烈過ぎるか。

 明確な敵意を帯びて吹き荒ぶ無数の魔力弾を、ブレイドルは鋭く睨み付け――


「――りゃあああああっ!!」


 神々しい輝きを放つ聖剣で、一閃二閃三閃。

 振り上げ、突き、袈裟懸けに斬り下ろす――轟音と共に光弾が爆発した。

 生じる衝撃波を紙一重で回避――だがまだ終わっていない。

 粉々に砕けた数えきれないほどのエネルギー弾の破片が降り注ぐ。

 しかしブレイドルは動揺せず、再び剣を正眼に構え直し――


「だっ!!」


 ――凄まじい勢いでバリアを展開した。

 相当な量の魔力が練り込まれているらしい――

 その余波で破片の大半は彼方へとすっ飛んで行った。


 ふう、とブレイドルは額の汗を拭い――きっと俺を睨み付ける。

 やや消耗した様子だが、未だ闘志は消えていない。

 まだまだ余裕がありそうだ。


 へえ……。

 刃の魔法を使っている最中でも、あれだけのバリアを張れるようになったのか。

 大した成長ぶりだな。


 まあ、でも。


「……ブレイドル」

「ああ、分かってる。彼はまだ、遊びレベルの力すら出していない」


 そういう頑張りも。

 変化も前進も。

 決意も。


「本当の戦いは、ここから――」

「いいや」


 俺にゃ、無意味なんだけど。


「もう、終わりだよ」

「え……」


 呟いた俺は、静かに片足を上げ――地面を、蹴飛ばした。

 その、刹那。


「な――っ、く、うあっ!?」


 轟音と共に――武舞台そのものが、“捲れ上がった”。

 比喩表現ではない。

 床が、床自体が、まるごと抉れて宙に浮き上がったのだ。

 当然俺たちもそれに巻き込まれ、十数メートル近く吹き飛ばされる。


 同様の色を隠せないブレイドル――聖剣の姿がじわり、滲む。

 強烈なショックを受けたガレットが動揺し、制御をしくじったのだ。


「ガレットっ!! しっかりしろ、コントロールから意識を――」

「離しても別にいいぜ。だって」


 ブレイドルの咆哮を途中で引き取り――


「どうせ意味ないもん」


 目を見開くガレットへ、拳を叩き込んだ。


「んぎ――っ!!」


 脆弱な障壁を砕き、鼻っ柱をへし折る。

 吹き出す鼻血――一瞬、ガレットの眼球が裏返る。

 気絶したかと思われたが――


「っ、んがあああっ!!」


 直後に意識を取り戻し、両手からオレンジ色の閃光――吹き飛ばし魔法を繰り出した。

 迫り来る光弾――ほんの僅かにガレットの表情が緩む。

 大方幾ら俺でもここまで至近距離じゃ躱しようがないだろう、とでも思ってんだろうな。


 確かに、あのひ弱だった彼女がここまで打たれ強くなったのには驚いた。

 この鼻先まで迫っている魔法弾の威力も、急に繰り出したにしちゃ上出来だ。

 でも。


「結局、何にも変わってねえな。お前ら」

「…………!?」


 その程度、だから何なんだって話なんだけどさ。

 俺は薄笑いを浮かべ――魔法弾を睨み付けた。

 直後、魔法弾が根こそぎ消滅する――動揺するガレットの背後へ瞬間移動。


「――魔法使い同士の対決じゃ、地形が変化するなんて当たり前だ。その程度で魔力制御すらおぼつかなくなるって、ふざけんてんのか? 俺にブン殴られても倒れねえバイタリティがあるなら、んな距離稼ぎにもならねえクソ魔法なんざ撃ってねえでブレイドルのコントロールに集中しろや、ゴミクズ」


 だから、お前は凡人なんだよ。

 一切の情もなく――呆然とするガレットの背中を。

 思い切り、蹴り飛ばした。


「んぎゃあっ!!」

「ガレット――っ、畜生っ!!」


 猛スピードで降下していったガレットの身体は、勢いよく地面に衝突。

 砂塵と炸裂音とが激しく巻き起こり――彼女は、微動だにしなくなった。


 僅かに遅れて、俺たちも地面に着地する。

 更に姿が不安定になり始めた剣――それでもブレイドルは戦意を失わない。


「っ、まだだ、まだ終わっちゃいないっ!! 彼女のサポートがなくとも、あと数分程度ならば自力で制御を――」

「そうだな。確かにその通りだよ」


 だけど――と、俺は彼の握る聖剣を、指差した。


「ちょっと見ないうちに、随分ズタズタになってんな、その棒切れ」

「な――っ!?」


 彼の最強魔法、輝く剣。

 ――その刃は、ボロボロに刃毀れしていた。

 

「何だ、何故――まだまともに振ってすらいないのにっ――」

「一番最初に光弾を弾いた時点でそのザマだったよクソマヌケ。自分の魔法の状態すら把握してないのか、お前は?」

「!? そんな――だって、あの攻撃に、そこまでの威力はなかった筈――」

「脆い部分だけを狙ったんだよ。まだ完全な状態じゃないだのとほざいてやがったし、弱点があるのは分かり切ってたんだ――余計なこと言わなけりゃ、気付くのももう少し遅れてたかもな」


 ――そんな。

 凍り付いたように動かなくなるブレイドルへ、俺は一歩ずつ距離を詰めていく。




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