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109/121

人外の



「…………は?」


 茫然とガンドウが呟く。

 俺は後ろを振り返り――声を挙げた。


「なあ、キャットウォーク。お前がさっきからちょくちょく言ってた“アレ”ってのは、今ガンドウがやってる極化とやらのことなのか?」

「え――う、うん。その通りにゃよ」

「そうか」


 突然名前を呼ばれたキャットウォークは、戸惑いながらも答える。

 なるほど――小さく溜息を吐く。

 視界の端でガンドウが露骨に不愉快そうに眉をしかめているのが見えたけど、どうだっていい。


 以前の俺だったら、そうだな。

 あまりのくだらなさに笑っちまってたかもしれない。

 ……今は、そんな気分じゃないけど。


 でも、ガンドウを煽るにゃ丁度いい材料かな。

 空虚な心へ模倣した感情のパターンを放り込み、言葉を作る。

 他人を揶揄して笑う言葉を作る。


「つくづくバカバカしいな。今まで散々引っ張っといて、やることがそれか? そんなモンなのかよ? ははは――認めるぜガンドウ。お前の主張は正しかった」


 真っ白な唇を震わせるガンドウ。

 その様が酷く哀れで――つい、手心を加えそうになってしまう。

 だけど駄目だ。

 情けを掛けては駄目だ、躊躇する余地などあろう筈もない。


「――生まれ持った愚劣さを拭い去ることなどできはしない。隔絶した実力差を見切ることすら凡人には不可能だ。ああマジだよ、真に迫ってらあ。愚か者は自分の器の小ささも――目の前にある才の大きさも、決して理解できない」


 言って、俺は無理矢理口の端を引き上げた。


「なあ、分かるか? ――凡人さんよ」

「貴……っ、様ああああああああっ!!」


 ガンドウの握りしめた大槌から黒い煙が噴き出す。

 爆発的に魔力が膨れ上がっていく――

 殺意に満ちた苛烈なまなざしが俺めがけて突き刺さる。

 直後――周囲に正体不明の石柱のようなものが数本どこからともなく生じた。


「ふざけたことを抜かしやがって――今ッ!! 今すぐ!!」


 叫ぶと同時に彼は大槌を天高く掲げ、そして勢いよく地面に振り降ろした。

 響く轟音――建物全体が激しく震え、揺らぐほどの衝撃。

 天井が崩れそうになって、実際崩れる、子供たちの悲鳴が挙がる。

 咄嗟にアクアマリオンとキャットウォークがバリアを展開――気配から察するに怪我人は居なさそうだ。


 それだけのことをしでかしてなお、ガンドウは罪悪感の欠片も感じさせない――その仄暗い目に宿るのはただ怒りのみ。

 深く地に突き刺さった大槌を、彼は力強く引き抜いた。

 そのぽっかりと空いた穴から泥状のエネルギーがゴポゴポと溢れ、俺――いや、俺を取り巻く数本の石柱の方へすっ飛んできた。 

 とぷん、と石柱にエネルギーが吸い込まれ――


「貴様に!! 現実というものを――っ!!」


 直後、石柱が炸裂し――


「叩き込んでやるっ!!」


 地面から、凄まじい勢いで土石流が噴き出した。

 おびただしい量の泥、塵、岩――ガトリングガン染みた無数のガラクタの嵐に、俺はバリアもロクに纏わないまま晒される。


「っ!? 不味いにゃ、完全にノーガードでっ!!」

「くははははははっ!! どうだドラゴリュート、どちらが本当にバカだったかよく分かったろう!? これが、これこそが俺の真の力という訳だっ!!」


 高笑いをするガンドウ――どうやら溢れる恍惚の念を抑え切れないらしい。


「極限までノイズを取り払った魔法のなんと凄まじいことか!! イメージが完全に固定化されるが故に術のパターンは大幅に減少するが、その威力は通常の根っこ出現状態とは比べ物にならん!!」


 そして――更に、絶望をプレゼントしてやろうっ!!

 口の端から泡を噴出させつつガンドウは喚く。


「今の術の出力は精々フルパワーの五〇パーセント!! 分かるか!? まだまだ俺には余力があるということだ――一方の貴様はどうやら、バリアを張る余裕もないらしいなあ!! この勝負、もはや結末は決まったようなものだっ!!」

「おう、そうだな。そこは俺も同意するぜ」


 意識して、ごく軽い調子を保ち――俺は、指を鳴らした。


「確かに、もう結末は決まってるよ」


 刹那――土石流が影も形もなく、完全に消失した。


「なあっ!? ば、バカな……っ!?」


 言葉もなく立ち尽くすガンドウの元へ――掠り傷一つ、いや、埃一つ付いていない、完璧な状態の俺がゆっくりと歩み寄っていく。


「イメージが完全に固定化されるが故に、術のパターンは大幅に減少する――か。一目見た時点で大体予想は付いてたけど、ロクなモンじゃないな」


 恐らく反射的に、彼は後ずさる――それを義務的に嘲笑い、俺は更に距離を詰めた。


「わ、私は、夢でも見てるのかにゃ? 極化を使ったガンドウの魔法を、バリアも使わずにしのぐ? ありえない、そんな――だ、だって――か、彼は一体何の術を使ったんだにゃ!?」

「……彼は何もしていない。無意識のうちに溢れ出る魔力が鎧の役割を果たしている、ただそれだけ」

「はあ!? んな無茶なっ、精神の発露たる魔力を、思考も意識も介さないまま働かせるって、それこそ女神――人外の所業じゃないかにゃっ!?」


 アクアマリオンたちが騒いでいるのが聞こえる。

 人外の所業、か。

 俺は頭を振り――酷く怯えた顔をしたガンドウを、笑って見つめた。


「残念だけどな――お前の負けだよ、ガンドウ。だって、お前はただ一つ残っていた強みを、自分から捨てちまったんだからな」




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