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主導権



 自室の扉を後ろ手で締める。

 ほう、と息を吐き――何となく、室内を歩き回って検分した。


 エストは全寮制だが、私物の持ち込みに関しては割と寛容なので、結果的にこの部屋の雰囲気は実家の私室とほぼ大差ないものとなっていた。

 俺は枕が変わると眠れなくなる性質なので、こういうのはありがたい。


 先程渡されたSクラス認定書をクシャクシャに丸め、ゴミ箱に投げ捨てる。

 そのまま勢いよく、ぼふんとベッドにダイブした。


 はあ、疲れた。

 この柔らかさが今はありがたい。

 やっぱり、慣れないことが続くと精神的にしんどいのだ。


 ……にしても、と改めて思う。

 結局何だったんだろう、あのデブは。

 ちょっと頭の中身を覗いたらただの変態野郎だったし。

 初対面の俺にまで欲情しやがって、気色悪いんだよ。

 おまけに、地位を傘に着て、貧しい子供に強姦紛いのことまでしてやがった。


 ま、あの様子じゃ社会的にも精神的にも再起不能だろうな。

 清々した。


『――同意見だ。どうやら教師という立場も、相当あくどいことに手を染めて得たようだな。容貌の醜さをコンプレックスに感じていたが故に、自分を嘲らない幼子を性の対象として見るようになったらしいが……同情の余地はないだろう』


 女性的な涼やかさと深みを併せ持った、威厳のある声が頭に響く。

 いや、凡人の都合とか知らねえよ。

 ていうか何だお前、どこに行ったと思ったら俺の中にいたのか。


『ああ。私は女神の使い魔であり、また同時に、君の望んだ“誰よりも強く、誰よりも偉大な魔法の才能”そのものだからね』


 女神の使い魔、か。


『ああ、そうだな――かつてはそうだった。今は、君の忠実なしもべだよ』


 ふーん。 

 最も優れし魔法使いの忠実なるしもべとなり、その者の望みに従う、だっけ。

 本当かよ嘘くさいな。

 仮に今から女神が俺からお前を没収しに来たらどうするんだよ。


『私と君は既に魂レベルで融合しているから、無理矢理引き剥がすのはまず不可能だよ――例え女神でもね。それに、彼女はそんなことをするような者ではないさ』


 なるほどねえ。

 ……にしてもお前、妙に喋り方がフランクだな。

 伝説の生き物なんだろ、威厳とかないのか?

 大して興味もないけどさ。

 

『そう言われてもな。まあ、君が威厳あるふうに振る舞ってほしいのというのならば、従うよ』


 いやいいよ別に、どうだって。

 変にかしこまられても不愉快なだけだし。

 好きにしろよ。


『そうか。……いや、それにしても意外だね』


 あん?


『君のことだからさ。てっきり、わざとCクラスに入って劣等生に才能を見せつけた挙句、大勢の凡人の心をへし折っていく……なんてつもりかと思ったのだけど』


 おお、凄いなお前。

 もしかして、俺の考えていることが分かるのか?


『ある程度までは。深い部分となると、君が精神的に動揺しない限り無理かな』


 へえ。

 プライバシーもクソもないな。


 んで、その、Cクラスに入って云々の話だけど。

 そんなことも一瞬だけ考えたんだよ。

 でも――やっぱり無理だ。


 実際に見て分かったんだけど、この学院のレベルは本当に低い。

 あのミリってガキはそこそこやるほうだけど――あの程度でAクラス扱いされるんだったら、もう、Cクラスなんてどんな魔境が広がってるんだよって話だ。

 んな所で四年も過ごすだなんて、想像しただけでキツいわ。


 ――それに、SクラスはSクラスで、面白そうなイベントがあるしな。


『面白そうなイベント?』


 まあ見とけよ。

 愉快なショーがそのうち始まるから。


『ふむ。それもまた、いずれ訪れる“革命”の布石となるのだろうかね』


 ……革命、か。

 ここらで一旦言っとこうかな。


 ――おい、闇のドラゴン。


『ん、どうした』





 俺は、心の中で――軽く、威圧感を高めた。

 精神に苛立ちを含ませる。





『……っ』


 ん?

 闇のドラゴンの感情が、魔力越しに伝わってくる。


 ははは、何だよ、お前……俺にビビってんのか?

 まあいい。

 今のうちに言っておくぞ。


 革命とやらは、あくまで俺の気が向いた時、俺のやりたい時にやる。

 やる気が出なきゃいつまでだってやらないし、やる気が出りゃ徹底的にやる。

 手段も過程も結果も自分で決めるし、そこにお前の意思が介在する余地はない。

 無論、女神の望みもな。


 ――主導権は、常に俺にあるということを、忘れるなよ?


『……ああ、理解した。私の力も権限も、何もかも君に預けよう。全ては君の思うままだし、私はいついかなる時も、シズム――君の味方だよ』


 脳内に届いたその声には、確かな畏敬の念が浮かんでいた。




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