橘田柑子の場合(1)ー6
しばらく朝霧と雑談していると、リイベが申し訳なさそうにトイレから出てきた。それに先ほどの彼女と比べると、若干顔色も悪い気がしないでもない。
「ごめん、橘田。ちょっと生理が」
「リイベ、生理のこと言っちゃうタイプなんだ」
ああ、なるほど。先ほどの朝霧の「察せよ」は、そういうことだったのか。やはり彼女は、細部への気が回るようだ。というよりも、よく気が付いたものである。
「あはは、五十鈴ちゃんは言わないんだ」
「何か嫌じゃない?」
「確かに、変な目で見てくる人なら少し嫌かも」
「それは誰でも嫌だよね。・・・・あ、会計はもう済んでるから、重いなら早く帰って体を暖めた方がいいよ」
またもやマシンガントークが始まってしまったかと思ったが、朝霧はリイベの体を気遣ったのか、またもや置いてけぼりをくらいそうだった俺を気遣ったのかは知らないが、帰るように促した。
「橘田くん、リイベの家は知ってる?」
「一応、知ってるけど」
「じゃあ、家まで送り届けてあげなよ」
「こいつの家、帰り道の途中だから」
「そうなんだ。リイベが辛そうだったら、背中でも擦ってあげてね」
ここまで気遣いをする彼女が、どうして学校では高嶺雪奈をからかって遊んでいるのだろうか。男の俺があまり首を突っ込むべき事案でも無いのだろうが、どうも《ここでの彼女》と《学校での彼女》が同じ人間とは思えない。
何はともあれ、俺とリイベは朝霧に別れを告げ、フランスにかぶれた店から足を踏み出した。
「リイベ、大丈夫か?」
「あはは。あんたに心配されるのも、何か気持ちが悪いね」
「お前が男だったら、おんぶでもしてやれたけど」
「ゲイってこと?」
「まぁ、ジョークを嗜むなら大丈夫だろう」
「てか、おんぶとか大げさだって。そこまでのことじゃないし」
そんな談話をしていると、自分のスマホからRINEの着信音が鳴る。徐に確認してみると、相手は先ほどまで話していた、少し苦手な女子だった。
彼女からのRINEの内容を数秒で目を通し、それに少し関心した俺は、適当に10文字程度で返信した。
「リイベ、少し待ってて」
「うん」
俺は財布を取り出し、すぐ横に佇んでいた自動販売機の口にお金を入れる。例に倣ってボタンを押し、乱暴に吐き出された暖かい紅茶の缶をリイベへと手渡そうとした。
「はい」
「え、いいよ。あんたが飲みなよ」
「俺はさっき飲んだし、紅茶」
「・・・・計算の上ね」
リイベはしぶしぶ缶を受け取り、不服そうな顔で缶を両の手の平で包んで、暖をとるような仕草を見せた。
「お金、返さないから。どうせ受け取ってくれないし」
「受け取ったら朝霧に殴られるからいいよ」
「さっきのRINE、五十鈴ちゃんから?」
「ああ。リイベの連絡先を教えてほしいと言われて、許可をとらないのも勝手な気がしたから、俺を仲介して教えることになったんだ」
「へぇ、あんたも律儀だね」
「というわけで、教えていい?」
「うん、いいよ」
リイベは利き手とは反対の左手で紅茶缶のプルタブを開け、少し飲んでから軽く息をふぅっと吐いた。
「ちなみに、五十鈴ちゃんに紅茶を買うように仕向けられたの?」
「さっきRINEで、《暖かい飲み物を飲んだら少し楽になると思うから、橘田のお金で買ってあげろ》というお達しがきてね」
「そうなんだ。何て返したの?」
俺はスマホの画面をリイベに向け、そのRINEのやり取りの内容を見せた。
「あはは、仲が良いねぇ」




