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その9


 ブチ切れたのは千歳だった。


「それマジでいってんの? 違うよな。まさか違うよな。冗談だよな。いやいやこんなところで冗談なんか必要ないから。場がなごんだりしないから」


 それはいわれなくても効太郎にはわかっていた。千歳のブチ切れているさまを見れば、冗談は逆効果にしかならないし、それに効太郎は決して冗談をいったつもりはなかった。


「さっきは確かに温泉臭がした気がしたんだ。でも間違いだったみたい」


 多少でもこの場をなごませようと、効太郎はほほえみながらちょっとかわいくいってみた。爆発寸前の千歳を見て肩をすくませたが、予想とは違い千歳は哀願するような表情になると、


「嘘だっていってよ、ねえ、ねえ」


 と効太郎の体を掴んで揺さぶってきた。「ここまで来てそれはないよね」


 しかし残念そうに効太郎が首を振るので、千歳の動きがピタッと止まった。

 しばらくうつむいていたかと思うと、千歳はゆっくり顔を上げて、


「役立たず……」ポツリそういって体を離した。


「いやあ」効太郎は照れたように頭をかく。


「効太郎さん、千歳さん、あれ」


 鐘馬が分岐の一方の道の奥を指さす。「あそこからかすかに光がもれてますね。ひょっとして外に通じてるんじゃないでしょうか」


「そうだね。元来た道を引き返すだけじゃ芸がないし、ちょっと行ってみようか」効太郎は千歳の顔を見た。


 千歳は言葉を発しないかわりに大きなため息をひとつついた。



      ×     ×     ×



 そこは頭上が吹き抜けになっているのか光は上方から降ってきていた。濡れた岩がゴツゴツと先の視界をさえぎっておりしかも狭いので、上のほうがどのようになっているのかよくわからない。


 目を転じると三人の前方はプッツリ途切れており、そこから先は崖になっていることを想起させた。水がチョロチョロと岩をつたうように流れ落ちている。LEDライトで照らしても様子がよくわからない。行く先は奈落の底に通じているのかもしれない。


「まるで天国か地獄の二者択一みたいですね」


「もちろん行くのは天国のほうよ」千歳が頭上を指さした。「どのみち上まで行くつもりだったんだからちょうどいいかもね」


「本当に外に出られるの? この上から」


「ちょうど人ひとり通れそうだし、あたし、ここから登って行けるところまで行ってみる」


「何があるかわからないから僕が先に行こうか」


「私が行きますよ」


 ふたりの提案を千歳がはねつけた。「あたしが行くからいいよ。一番スリムだし」


「そう……」


 ヘタに逆らうとまたヘソを曲げられそうなので、効太郎と鐘馬は千歳の提案を受け入れることにした。


「お気をつけて」


 千歳から青い玉の入ったデイパックを受け取った鐘馬が心配そうに声をかけた。


「何かあったら大声で叫べよ」効太郎が助言を送る。


「わかった」


 力強く返事をすると、LEDライトをポケットに入れた千歳は頭上の岩のでっぱりに両手を伸ばした。


 そいつにぶら下がる格好になると、壁を蹴って岩のでっぱりに全身でしがみついた。

 体を起こしでっぱりの上に立ち上がって、光射す岩の割れ目のあいだを猿のように身軽に登っていきはじめた。


「野生児だな」


「野生児ですね」


 見上げながらふたりはそういい合った。


「おーいっ、大丈夫そうかーっ」


「大丈夫ーっ」


「焦らなくていいですからねーっ」


「わかってるーっ」


「そっちは今どうなってるーっ」


「このまま登って行けそうだよーっ」


「出られそうかーっ」


「まだわかんなーい」


「気をつけ」


「うわああああーっ!」


 突然頭上から千歳が降ってきた。どうやら滑ったか何かで足を踏みはずしたようだ。


 見上げていた効太郎と鐘馬を直撃し、同時にツルリと足を滑らせると、三人は一緒に天国どころか断崖から暗闇へ落ちていった。



      ×     ×     ×



 しばらくのあいだ暗黒の急流滑りを体験したあと、いきなり三人は強烈な光に包まれた。


 スポンと洞窟から抜け出たのだ。


 突然のことだった。




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