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その8


「いえ、あの、そうではなく、今の衝撃でちょっと出たりとか……」


「はあ? なんのこと?」


「いや……だから」


「何よ! ふたりであたしのことをバカにして!」


 真っ赤になった千歳はそう怒鳴ると突然走り出し、洞窟の奥へと消えていった。


「……あれ? 図星だったんでしょうか」


「危ない! 走るとまた転ぶよ」効太郎が声をかけた時には、すでに気配がなくなり、周囲は真っ暗になっていた。


 ふたりはその場ですっかり立ち往生してしまった。


 静寂の中、ポタッ、ポタッと水滴の落ちる音だけがやけに大きく聞こえている。


 しばらく無言で立ちすくんでいたふたりだったが、


「……困ったな」力なく効太郎が漏らした。


「困りましたね」鐘馬が答える。


 暗いのでお互いの姿さえよく見えない。


「めんどくさい女だな」


「めんどくさいですね」


「鐘馬もそう思うか」


「思いますね」


「僕たちのほうもちょっと無粋だったかな」


「ああ、そういえばそうかもしれませんね」


「傷つけちゃったな」


「そのようですね」


「バカにしたつもりはないんだけどな」


「そうなんですけどね」


「からかったつもりもないんだけど」


「私もそうですけど」


「やっぱり無粋だったな。乙女心を理解できてなかったな。これ以上怒らせるのは何かと具合が悪そうだな」


「ですね」


「でもやっぱりめんどくさいよな、あいつ」


「めんどくさいですね」


「これまでの旅路のめんどくささを無効にするくらいめんどくさいよな」


「本当にめんどくさいですね」


「ああめんどくさい」


「でも心配だから私、ちょっと行って見てきましょうか」


「いや、その必要はなさそうだよ」


 ふたりが不毛なやりとりをしているうちに、LEDライトの光がだんだんこちらに近づいてきた。

 やがて決まり悪そうな顔の千歳がふたりの男と視線を合わせようとせずに、トボトボと歩いてくるのが見えた。


「戻ってきましたね」


「奥の様子はどうだった?」


 効太郎は千歳のプライドをなるべく傷つけまいと、彼女がひとりで偵察に行った体にして質問した。 


 千歳は悪いことをした子どものように上目づかいでふたりの男を見上げると、


「……分かれ道があった」とだけボソッといった。


「そうですか。じゃあ、効太郎さんの温泉鼻の出番ですね」


「そこまでの道のりに危険はなさそうだった?」


 コソッと千歳がうなずいた。


「じゃ、行こうか」


 またコソッと千歳はうなずいた。急に神妙になっている。


 今度は三人が固まるようにしながら、一緒に洞窟の中を奥へ進んでいく。


 ふと見ると、さっきまで内股かげんだった千歳の足取りが、心なしかやや軽くなっているように見える。下腹に緊張感を抱えていた感じが明らかに消えている。

 ひょっとして、ドサクサにまぎれて暗闇の中で彼女はスッキリしてきたのかもしれない。

 このことに関して何かいいたげに効太郎と鐘馬の唇がムズムズと動いたが、結局ふたりとも何もいわなかった。千歳が急に神妙になったのはそのせいもあるのかもしれない。なので、このさい何も聞かないのがベストだとふたりには思えたようだった。


 洞窟のわかれ道にやって来た。空洞は双方とも横にやや狭くなっている。


「秘湯はどっち?」


 効太郎の顔をじっと見ながら千歳が聞いた。


「おかしいな……」効太郎が不思議そうに首をひねる。


「どうかしたんですか」


「匂いがしなくなった」


「あ? どういうことだよ」千歳が元の調子を取り戻し、険しい顔で効太郎をにらみつける。


「さっきの温泉臭は錯覚だったのかもしれない」


「えっ、そうなんですか」鐘馬も驚きを隠せない。


「あ? あ? あ? あ?」



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