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その58


 塵芥がアップルビーを離し、またしてもアップルビーはドテッと地面に落ちた。

 何もいわずに塵芥はトコトコと元の位置に戻っていった。

 アップルビーは地面に顔を伏して泣き出した。


 効太郎が一歩ずつ千歳たちのほうへ歩み寄っていく。


 千歳たちが身構えた。

 塵芥が例によって懐からいくつめかの鎖鎌を取り出すとジャラジャラ回しはじめた。

 鐘馬は無表情のまま構えの姿勢を取った。


 距離が縮まっていくにつれ、千歳たち三人はバラけていき、しだいに効太郎を遠くから取り囲むかたちになっていった。


 三人は効太郎のまわりをぐるぐる回りながらその円を少しずつ狭めていき、とうとう距離が二メートルほどになった。


 効太郎はキョロキョロしながら三人の動きに注意を払う。

 アップルビーは顔を上げ、涙に濡れた目で遠くから四人を見守っている。


「思い残すことはない? 効太郎」千歳が回りながら声をかけてきた。


「この鎖鎌攻撃をよけられる者はいないの巻」


 さっきとくらべると、塵芥の振り回す鎖鎌の回転速度が上がっている。


「効太郎さん、心を入れ変えて私たちの仲間になりませんか。暴力的解決が必要な時だってあるんです」不意に鐘馬が誘ってきた。「それに、このまま湯浴一族が没落していくのはあなたにとっても不本意なことじゃないんですか。いえ、どうせあなたには湯浴の名前を守っていく気なんかないんでしょう。羅鈍一族と一緒にこの地上の支配者になりましょう。地底の覇権を奪われたぶんをここで取り返すんです」


「……鐘馬、本気でそんなことをいってるんだとしたら、僕は悲しいよ」


 効太郎は鐘馬に視線を固定させながら、自分自身もゆっくりと回った。


「湯浴一族の血筋なんて僕には興味ないよ。でも、親父の温泉旅館でたくさんの人たちを癒してきたし、喜ばれてもきたろ。そんな人たちのしあわせそうな笑顔を忘れたの? きみのお父さんはイヤイヤうちの番頭をしてたっていうの? 僕にはそうは思えない。きみはうちの温泉で疲れを癒してくれた地上の人たちを今度は悲しませるっていうの? きみはそれで平気なの?」


「聞いたふうなこといわないでよね!」かわりに千歳が啖呵を切った。「だからあんたは世間知らずの坊ちゃんなのよ。地底に残った羅鈍一族の仲間が煉獄の連中に今までどんなひどい目に合わされてきたか、それもこれも全部戦おうとせずに地上に逃げてきたあんたの父親のせいじゃないの!」


「……それ、いいがかりだよね」


「うるさいうるさい! 羅鈍一族の恨み、思い知れ!」


 千歳が目で合図を送るや否や、三人がいきなり三方から効太郎向かって突進してきた。


「効太郎さん!」アップルビーが叫ぶ。


 間一髪、効太郎は宙高くジャンプし、三人は頭をぶつけて反動でうしろに倒れた。


 一瞬で勝負が決まった。


「痛ぁ~い!」両手で頭を抱えながら千歳が足をバタバタさせている。


 鐘馬は気絶し、大の字になって倒れている。


 塵芥は……上体を起こした格好で、額を押さえながら地面に着地した効太郎を無表情に見上げている。


 効太郎が無言で塵芥をじっと見下ろしていると、塵芥はおもむろに自分の顔を隠している頭巾を解きはじめた。


「……」


 遠くからこの様子を見ているアップルビーにも塵芥の素顔が現れたのが確認できた。

 アップルビーは口をパクパクさせながらも言葉を発することができず、ただ成り行きを見守っているだけだった。


 頭巾がパサリと地面に落ちると、立ち上がった素顔の塵芥は改めて効太郎の顔を見つめた。


 効太郎たちよりかなり年上の、年輩の男性だった。


「やっぱり親父か」効太郎は、それまでずっと温泉忍者として振る舞っていた男の本当の顔を見ながらいった。


「……いつからわかった」親父と呼ばれた男は効太郎に聞いた。


「うーん、『橙の湯』で、親父がお尻をむき出しにして泳ぎの練習をしてるところでかな」効太郎が笑みを見せた。


「どうしてそこで?」男は驚いた顔をした。


「お尻の右にデキモノがあった」


 効太郎に親父と呼ばれた男……御影山瞬太郎はポカンと口を開け、


「……そうか。それはうかつだったの巻。いやうかつだった」


 そういったきりしばらく無言でいたが「結構完璧にキャラ作りに成功したと思ったんだが……」


「キャラ作りは完璧だったよ。でも、あとひとつだけいうなら」と効太郎は続けて「親父が僕たちのあとをずっとつけてきた時、『赤の湯』の温泉亀のじいさんが気づかなかったフリをしたろ。あそこでちょっと変だなと思ったんだ。あの温泉亀のじいさんはきっと忍者の中身が親父だってことはとっくに知ってたに違いない。何か事情があって僕たちのあとをつけてるんだろうってとっさに判断したんだろうね。だから誰もつけてないなんてトボけたんだ」


「……」


 御影山瞬太郎は、もはやぐうの音も出ないといった感じで黙ってしまった。

 

 効太郎はほかのふたりも見下ろし、そして遠くのアップルビーに視線をやった。


「おーい、アップルビー、もう大丈夫だぞーっ、っていうか最初っから大丈夫だったぞーっ」


「???」


 アップルビーは例のごとく目を白黒させながら、よちよちと効太郎の元に近づいてきた。


「……いったい、何がどうなったっていうんですか。……あの、千歳さんと鐘馬さんは大丈夫なんでしょうか」



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